76.広場決戦
ルル救出の為に『浄化祭』が行われるエルフネル王国広場へやって来たハルト達。しかしそこにはそれを制止しようとするエクセル王子と、隊長のランスが立ちはだかった。槍を構えランスが叫ぶ。
「さあ、来い!!!」
しかしハルトは塔の上に繋がれたルルの姿を見つめる。
塔の上のルルは朦朧とする意識の中で広場が騒がしくなっていることに気付いた。そして中央にいる少年を見て思った。
(ハルト? あれはハルト……、なの?)
夢が現実か。それも分からぬままルルはその視点の定まらぬ映像を見つめた。
エクセルに対峙するハルトがその言葉に答える。
「お前の相手なんてしてられるか!! クレア、頼む!!」
そう言うとハルトはハナに乗ったまま塔がある高台へと向かう。
「げっ、あ、あなた、何よ!! 本気なの!!!」
クレアが背を向けて走りゆくハルトに大声で言う。一方、槍を構えたままのランスは、その顔を紅潮させて怒鳴った。
「敵前逃亡とは……、恥を知れ!!!!」
ランスはそう言うと、走り行くハルトを全力で追った。
群衆から巻き起こるブーイング。ハルトやクレアに罵声が飛び交う。そして残されたクレアにエクセル王子が言う。
「美しいお嬢さんを傷つけるのは性に合わないが、致し方ない」
そう言いながらにやけた変態面を晒して剣を構えるエクセル。それを見たクレアが言い返す。
「あなた、変態ね。すぐ分かるわ、そのカオ。ギッタギタの、ぐっちょぐちょにしてあげるわ!!!」
それを聞いたエクセルが身をくねくねとさせ赤い顔をして言う。
「ああ、いい。もっと、もっと言ってくれ……。その美しい顔、そしてそのお茶目な口から出される恐怖に怯えた叫び声が聞きたいんだ……」
エクセルは顔をさらに赤くし、はあはあと息をついて言う。
「き、気持ち悪っ……」
クレアは心底汚物を見るような目でエクセルに言った。
一方、塔のある高台へ急ぐハルト。しかしその前に全力で追ってきたランスが立ちはだかった。
「敵前逃亡とは、男の恥!!! 俺がその存在すら消してやろう!!!!」
そう言って槍を構えるランスにハルトが言う。
「くそっ、この急いでいる時に!! 仕方ない、ハナちゃん、行くぞ!!」
「あいよ、ハルト!!!」
ハナはそう言うと、目の前にいるランスに向けてハルトを乗せたまま突撃した。
「はあああ!!!」
ガン!!!
一角獣の角とランスの槍が鈍い音を立てて交わる。
「はああああ!!!」
その直前、ハナから飛び上がりランスの後ろを取ったハルトが連撃を繰り出す。
カンカンカンカン!!!!
振り返り辛うじてそれを防ぐランス。
しかし予想以上に速いハルトの攻撃に後ずさりを始める。そして後退した先には後ろを向いたハナが待っていた。ハナはその太い後ろ脚で思い切りランスの背中を蹴り上げた。
ドン!!!
「ぐはっ……」
あまりの激痛に膝をつくランス。そこへハルトが斬り掛かる。
「はああ!!」
カン!!!
防御すらできなかったランス。ハルトの剣はその重厚な鎧に当たり弾かれた。
「くそっ、鎧だけは一級品だな……」
まだ衝撃でしびれが残る手を押さえながらハルトが言う。
「ハルト、アタイが吹き飛ばすわよ!!!」
「ああ、頼む!!」
ハナはそう言うと全身に魔力集め始めた。そしてまだうずくまるランスに向けて魔法を発動する。
「エグザッドストリーム!!!!!」
「なっ!?」
ランスを中心に巻き起こる風の竜巻。とても立ってはいられない強風がランスを襲う。
「ぐおおおお……、うああああ!!!!」
ハナの竜巻は会場の一部を破壊しながら、ランスを遠方へと吹き飛ばした。
「ラ、ランス様……」
そのあまりに早かったランスの退場に、これまで盛り上がっていた群衆が静まり返る。
「きゃああ!!!」
ハルトがその声に気付き振り向くと、エクセルの攻撃で倒れるクレアの姿が目に入った。
「クレア!!!!」
「くっ……」
エクセルの前に倒れるクレア。そしてその顔を見て吐き気がした。
「ぐへへへっ、クレアちゃん……、さっきまでの勢いはどうしたのお~??」
口元からは涎が垂れ、クレアを舐め回すように見つめる。
(気持ち悪い……、でも強い)
クレアは悪寒がしたが、再び立ち上がりエクセルに斬り掛かる。
「はあああああ!!!」
カンカンカン!!!
ドン!!!
「きゃあ!!」
クレアの連撃をかわし、隙を見て蹴りを入れるエクセル。一流の武具に、一流の剣術指導。少しばかりの剣の才があったエクセルは、その態度とは裏腹にクレアの予想よりもずっと手強い相手であった。
「くっ……」
クレアはよろよろと立ち上がる。クレアの危機を察し、ハルトが踵を返しこちらに向かってくるのが見える。その時リーズの言葉がクレアの頭に浮かんだ。
――あなたは守られるだけなの?
クレアの体は震えた。
目から涙が出そうになる。
再度剣をしっかりと握り直しエルセルに斬り込んだ。
「はああああ!!」
カンカン!!
ドン!!
意を決して再び剣を振るうもやはり簡単に防がれ、吹き飛ばされて地面に倒れた。エクセルがにやにやと笑いながら何か言っているが、もうそれも聞こえない。うるさかった群衆の罵声ももう聞こえなくなった。
仰向けになりながらクレアは涙を流した。
――私、何もできないじゃん……
その涙が目から流れ床に落ちた時、見上げていた空の一部が真っ白に光るのが目に入った。
(何、あれ?)
そしてその光はやがて大きくなり、一直線に上から落ちてきた。
ドーーーン!!!
「きゃあ!!」
その光はクレアのすぐ横に落ちてきた。
意外と大きな光。モクモクと霧のような白い靄が晴れると、中からその光に負けない位の純白のローブを着た少女が現れた。
真っ黒で切り揃えられた前髪。透き通るような白い肌。現れただけで磁場を変えてしまうような強い魔力。クレアはその少女を覚えていた。
「加勢するよ」
少女はクレアににっこりと微笑んで言った。




