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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第五章「エルフの国の王子様編」
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75.儀式の夜

満月の日の夕刻、日が沈みかけるエルフネル王国広場にはたくさんのエルフが集まっていた。

数カ月ぶりに行われる混血の処刑儀式『浄化祭《じょうかさい》』。今宵開かれる「純血による純血の為のお祭り」に、多くのエルフが興奮している。



エルフネル王城内のとある密室。

そこにある大きな椅子にふんぞり返って座るエクセル王子。その前には衛兵に付き添われ、ひとり立たされる混血の女の子。肩までに切り揃えられた青色の髪。手には縄が掛けられ、前に座る王子を睨みつけている。王子が言う。


「殺しちゃうには勿体ないねえ」


王子はその混血の女の子のふくよかな胸や女らしい腰つきを見ながら言った。


「望むならば浄化されたことにして、私の妾ぐらいにはしてやろうか? ルル」


そう言いながらエクセル王子は立ち上がり、ルルの真っ白な頬に手を差し伸べる。


ドン!!!


「ぎゅぴ、んぐ、ギョおお……!!!」


「触れないで、汚らわしい!!!」



「お、王子!? 貴様、何を!!!」


ルルは自分に触れようとした王子の股間を思い切り蹴り上げた。ルルを殴り倒そうとする兵を制止して王子が言う。



「うふふふっ、何て女だ。ああ、いい……、ゾクゾクする。今宵鮮血にまみれろ……、ぎゅふふふっ……」


王子は不気味な笑い声を上げながら部屋を出て行った。ルルは王子が退室した後で自分の体が震えていることに気付いた。




日も陰り、空にはうっすらと星の瞬きが見え始める。

広場を埋め尽くすエルフの群集。既に彼らは熱気に包まれ、会場は異様な雰囲気に溢れている。自分より下等な混血を『浄化』と称し粛清する祭り。それはエルフネルに暮らす純血にとって年に数度の娯楽、国にとっては国民のガス抜きにも利用されていた。群衆の中からは美神ピュリアを称える声が響く。


「美神ピュリア、美神ピュリア、おおおおおぉぉ、ピュリア、ピュリア……」



エルフネルが国教と定めるピュリア教。

純血を最も尊び、多種族と交わる混血を邪とする教え。

民はその教義に何の疑問も持たず、ただただ美しき美神を崇めた。


その広場の中央には巨大なピュリアの石像が建てられている。美しきピュリア。その容姿に興奮した多くのエルフ達が酔いしれた。



「殺せ、殺せ!! 混血を根絶やしにしろ!!!!」


酒に酔ったエルフの男が、今宵粛清される混血の女に向かって叫んだ。彼女は広場後方にある、細く高い塔の上部に鎖で繋がれている。

鎖に繋がれた混血の女、ルルはその塔の上部から熱気に包まれるエルフの群れをぼんやり眺めた。ここにいる全てが自分の存在を否定している。殺すことを望んでいる。できるだけ思考を停止するように努めてきたが、この光景を見てしまうとどうしても全身が震え涙が流れる。


――混血《わたし》は、居てはいけない……


ルルの横に『昇天のナイフ』を握った二人の執行兵が立つ。そして黙ってその時を待つ。




「美しい月だ。そして今宵もそれにまして美しいピュリア様。儚きルルちゃんに、乾杯」


広場の王族関係者の席で座りワインを手にしたエクセル王子が、塔にいるルルを見ながら言った。その隣に座るエクセル隊隊長のランスが言う。


「殺すには何とも勿体ない女ですな、王子」


王子が縛られたルルを見て答える。


「ああ、私もそう思うよ。気が強いところも私好み。でもそんな女だからこそ、今宵の宴により華を添える……」


エクセルはグラスにあったワインを一気に飲み干した。そして席を立つと、広場中央美神ピュリアの石像の前へ行き集まった群衆に手を振った。



「エクセル様あああーーー!!!」


「エクセル王子ーーーー!!!!」


エクセルは群衆から放たれる熱気をその身に十分に感じ、作り込まれた笑顔を群衆に向けて話し始める。



「ここに集まりし純血の同胞達よ!! 今宵はその尊き血を汚す、忌まわしき混血が昇華する夜。何も恐れることはない。何も怯えなくていい。その悪魔の血は美神ピュリアによって清められる。喜べ、喜べ、喜べ、そして称えろ!!!」


「うおおおおおお!!!!」


エクセルの話に集まった群衆の熱が更に上がる。


「今宵、美神ピュリアの名の下に、これより浄化を開始する!!!!!!」


「うごおおおおおお!!!!」


エクセルが手にした剣を天に突き上げそう宣言すると、群衆の熱気は最高潮まで上がった。



「待ったああああああ!!!!!」


エクセルの処刑の合図を止める声。群衆がその声の主の方を見る。視線は広場の端の高台に立つ一角獣、それに乗ったひとりの男に集まった。群衆が静まり返る中、その男は大声を上げながら広場中央へ突進してきた。


「うおおおおお!!!!」


急な出来事に道を開け逃げる群衆。その男は広場中央手前に来ると剣を抜き、そしてそれをエクセル王子に向けた。



「そんな事はさせない!!!!!!」


エクセルは余裕の表情をしてその男に言った。


「やはり来たか。ハルトとか言ったな。儀式を汚す不届き者よ! お前も一緒に粛(・)清(・)してやる!!!」



「ハルト、私も戦うわ!!!」


ハルトの後ろについてきたクレアも一緒に並び剣を抜いて構える。


「王子、ゴミ掃除が必要なようで。それがしにお任せ下され」


王族用観覧席にエクセルと共に座っていたランス隊長が、自慢の槍を携えて広場にやって来た。急な展開に驚きながらも、更に興奮し、熱気を帯びる群衆。大声のヤジも飛び始める。


「混血の仲間か、ふざけるな!! 帰れ帰れ!!!」


「エクセル様!! ランス様!! 早く斬り捨てて、血しぶきを、早く早く!!!」



『浄化祭』独特の雰囲気に飲み込まれた群衆が、自我を忘れてただただ本能のままに叫び出す。会場を埋め尽くす憎悪。ハルトはその圧力を体全身で受け止めていた。ランス隊長が一歩前に出て言う。


「我こそは、エクセル隊隊長のランス。混血に組入りし悪の分子。並びに厳粛な儀式を汚したその罪、その身を持って贖罪としてくれよう!!!」


ランスが槍を下段に構え、ハルト達と向き合った。

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