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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第五章「エルフの国の王子様編」
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74.召喚士対決

翌朝、早朝より王都に向けて走るハルト達。一面に広がる草原を走り抜ける。

前に乗せた混血のリーズと後ろにいるクレア。今日は朝から二人とも静か。何があったのかな、と考えるハルトにハナが言う。


「来るわよ」


その声に一角獣が立ち止まる。

前方に現れたのは美しき鎧を纏った騎馬隊の一団。なびく旗はエルフネル王国。ハルト達に緊張が走る。



「国軍の者です……」


そう小さくつぶやくラフネに頷くハルト。騎馬隊の中央で大きな帽子を被ったエルフが言った。



「お前は混血の仲間のヒト族の者だな?」


女? ハルトはその少し甲高い声を聞いて驚いた。


「混血をかくまっただけでも重罪。それに付け加え、そこにさらに二人の混血を連れていると見える」


そのエルフの指揮官はハルトの前に座るリーズと、ラフネの後ろに乗るミリアを見て言った。


「重罪に重罪を重ねるとは言語道断。今ここに、我、エクセル隊中隊長ラムの手によって処分されることを喜ぶが良い」


ハルトが剣を抜き大声で言う。


「何が重罪だ! 俺の大切な仲間をお前達の下らない価値観で奪っておきながら!! 邪魔をするならすべて斬り倒す!!!」



――国を相手にケンカする


クレアはハルトの後ろで剣を構えながらその背中を見つめた。中隊長ラムが部下に命じる。


「混血は生け捕り。その他は斬り捨てよ」


「ははっ!!」



その言葉を合図に騎馬隊の部下達が一斉に走り込んでくる。それを迎撃する様にハルトとクレアが剣を抜いて構える。その時、ハナが二人に大声で言った。


「お下がり、二人とも!!」


その声を聞き振り返るハルトとクレア。見るとハナから強力な魔力が放出し始めた。


「いかん、下がれ、クレア!!!」


それを見たハルトが叫ぶ。強い魔力がハナに集まる。魔法に疎い人間でもその力を感じるほど強力な魔力。ハナが叫ぶ。



「エグザッド・ストリーム!!!!」


ゴゴオオオオオオオオォォォ!!!


ハナが叫ぶと、走り来る騎馬隊の真ん中に大きな竜巻が現れた。


「ぐわああ!!!!!」


巻き上がる強烈な風。一瞬で視界を奪う砂嵐。その強き風の力は重厚な装備を重ねた騎馬隊をいとも簡単に空へと吹き飛ばしていく。


ドンドンドン!!


空へと舞い上がった兵達が次々と地面に落下する。その美しかった鎧は破壊され、地面に叩きつけられた兵達は口から血を吐いて動かなくなる。

辛うじて魔法攻撃から逃れた兵達がその破壊力を目の当たりにしてガタガタと震え始めた。それを見たラムが怒りの表情で言い放つ。


「何をしている!! 行け!! エクセル中隊の誇りを見せろ!!!」


「うおおおお!!!」


ラムに命じられ半分ヤケになって突撃する騎馬隊。ハルトは前に斬り込もうとするクレアを制し、左手を相手に向けた。


「アイスシールド・多連!!!!」


ハルトはシールドを横に、低く連なって出現させた。



「なに? うわああああ!!!」


突如騎馬隊の足元に現れたシールド。多くの馬がそれを避けられず前足が当たり転倒し始める。それを見たハルトが声を出す。


「今だ! クレア行くぞ!!!」


落馬して驚き焦る兵達に襲い掛かるハルトとクレア。その残兵を難なく討ち取った。




「もういい。私が相手だ」


そう言ってハルト達の前へ行くラム。その招きに応じるように対峙するハルト。ラムが右手を出し詠唱を始める。


「我が名はラム。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【デッドフラワー】!!」


(召喚士!?)


ラムは自分の横に魔方陣を作り、そこから真っ黒な禍々しい植物を召喚した。真っ黒な花を幾つも咲かせ、同じく黒きツルがくねくねと動く。植物系の【ヒトナキモノ】。ハルトに言う。


「その馬、ヒトナキモノでしょ? 召喚士同士、勝負しましょうか」


ハルトの横に並びラムに対峙するハナ。



「行くわよ!!」


攻撃命令を受けたデッドフラワーのツルが素早く一直線にハルト達に伸びる。


ズン!!


それはまるで鋭利な槍のように鋭く地面に突き刺さる。それを辛うじて避けるハルト。しかしたくさんのツルを持つデッドフラワーが連続攻撃を繰り出す。


ズンズンズン!!!


「シールド!!!」


数の多さに避け切れなくなったハルトがシールドでそれを防ぐ。


「甘い!!」


メリメリッ、ズン!!!


「ぐわああ!!」


デッドフラワーから放たれていたツルの攻撃が、今度は地面をつたって地中から出現。ハルトを下から攻撃した。



「大丈夫? ハルト」


ハナが心配そうに言う。


「ああ、大丈夫だ」


負傷した腕を押さえながらハルトが答える。腕に鮮血が滲む。それを見たハナが言う。


「お乗り、ハルト」


ハナはハルトを背中に乗せてさらに続ける。


「アタイのスピードに耐えられる? できるならあんなツル、大したことないわ」


そう言うとハナはこれまでにないような速度で移動し始めた。


――速い!!


そのあまりの速さに一瞬戸惑うハルト。必死に掴まっていないと振り落とされるぐらいのスピード。それでもその速さはデッドフラワーのツルの攻撃よりもさらに速く、相手の懐に潜り込んだ。ハルトが剣を振り上げる。


「はあああ!!!」


シュン!!!


ハルトは気合を入れ相手の動きを見て、下から剣を斬り上げた。


「グアアアアァァァァ!!!」


数本のツルが斬り落とされ、叫び声を上げるデッドフラワー。ラムが気付くとハルト達は少し離れた所に立っている。



「……動きだけは、速いようね」


ラムの言葉を聞いたハナが答える。


「あら失礼ね。魔法もすんごいのよ」



「そう、じゃあこれはどうかしら」


ラムはそう言うとデッドフラワーに命令を下した。

するとその禍々しい花々から黒い霧のような物が発生する。それはやがて大きな雲のようになり空へと舞い上がる。ハルトの頭上に真っ黒な雲が出現。そこから黒い雨がポツリと降りだした。


「あちっ!!!」


その黒い滴はハルトの腕に当たると、湯気を上げて皮膚をほんの少し溶かした。


「これは!? まずい、シールド!!!!」


急ぎ頭上にシールドを張るハルト。そしてクレア達に叫ぶ。


「離れろ!!! この雨に当たるな!!!」


それを聞き急ぎハルト達から離れるクレアやラフネ。ハナもシールドの下に隠れる。ラムが笑って言う。


「ふふふっ、この技こそデッドフラワーたる所以。すべてを溶かし殺す死の雨。『死の花』とは正にこのことよ!!!」


そうしている間にもどんどんシールドが溶けて行き、その度に新しいのを張り替える。耐久戦だがこれでは確実にやられる。ハナが黒き雨を見て言う。



「ハルト、とりあえずあの雲を吹き飛ばすわね」


ハナはそう言うと再び魔力を溜め始める。


「エグザッド・ストリーム!!!!」


ハナは風の竜巻をハルトの頭上の黒い雲に向けて放った。登る竜巻。その風で黒き雲は散り散りに散って消え去った。それを見たラムが言う。


「あら、凄いわね、そのお馬さん。だけど黒き雨は何度でも作れるわ。そんな大技、あとどのくらい撃てるかしら」


そう言うとデッドフラワーから再び黒い霧が発出される。それを聞いたハナが言う。


「ハルト、確かにそれはあの子の言う通り。何度も撃てないわ」


それは【ヒトナキモノ】の召喚士であるハルトも体感していた。あの技を撃つ度に減る召喚力。乱発はできない。ハルトは立ち込める黒い霧を見ながらハナに言った。


「少し弱めのを撃ってくれるか?」


「……分かったわ」


ハナにはその考えは分からなかったが、ハルトのその自信に溢れた目を見てすぐに何かを感じた。


「行くよ、ハルト!! エグザッド・ストリーム!!!!」



ハナの前に再び風の竜巻が現れる。強い風。舞い上がる砂。その竜巻は空へと舞い上がり、再び黒き雲を飲み込む。


「ハルト、これでいい? …………!?」


振り返るハナ。しかしそこにハルトの姿はなかった。

地表ではハナの起こした竜巻によって砂埃が舞う。上空ではその風によって黒き雲が散り始める。ラムは再びデッドフラワーから黒い霧を出そうと思い叫ぶ。



「何度やっても同じこと!!」


しかしその声はその頭上に響くハルトの声によってかき消された。


「同じじゃねえぜ!! はああああ!!!!」


気が付くとラムの真上にハルトが剣を持って急降下して来ている。


「えっ!? なに?」


ザン!!!


「ぎゃあああああ!!!!」


ハルトが地面に着地すると同時に吹き上がるラムの血しぶき。急な攻撃に倒れ、激痛にのたうち回るラム。

ハナは空に浮かんで消えそうになっているシールドを見上げた。そして直ぐに地面に倒れているハルトの元に駆け寄り、その首を咥えてひょいと自分の背に乗せた。


「な、なにが、どうして……」


地面に倒れたラムにハナが答える。


「この子、自分のシールドに乗ってアタイの竜巻で上空まで飛んだのよ」


「なっ!?」


それを聞き驚くラム。


「あとは一気に急降下。ホント無茶するわね、この子。体ボロボロよ」


ハナは自分の背に乗りぐったりするハルトを見ながら言った。ラムは意識が遠のく中、ハルトの姿を見つめた。ハナが言う。



「あ、そうそう。あんたに言って置きたかったんだけど。あたい、ウマじゃないから。これ重要よ」


ラムは少しだけ笑うとそのまま静かに目を閉じた。

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