73.守られること
「うう……」
ハルトは目が覚めると辺りは薄暗くなっていた。周りを見ると野営の準備も終わり、薪に暖かな火がともされている。
「ハルト、起きた?」
荷物に寄り掛かって寝ていたハルトに、リーズが近寄りその頭を抱きかかえる。
「う、うわっ、何だ、なんだ!!」
驚いて後ろに飛ぶハルト。それをニコニコしながら見るリーズ。クレアの顔が膨れ上がる。食事を作っていたラフネとミリアもハルトに気付き声を掛ける。
「ハルトさん、起きましたか。食事ができています。食べましょう」
そう言って丸太に座り直したハルトに出来立てのスープを手渡した。
「ああ、ありがとう」
ハルトはラフネの顔を見た。セザータルの街で見た青白い自信のない顔が嘘のように、元気に自信に満ちた顔つきになっている。覚悟を決めた顔、そんな風にハルトは思えた。
「はい、あ~ん」
「うわっ!!」
気付くと真横に座ったリーズがハルトにスプーンで食べさせようとしている。
「なななな、何をしているのあなた達!!!!」
クレアが立ち上がり怒鳴り始める。リーズが答える。
「だってハルトは疲れているんでしょ? 私、助けて貰ったし、それぐらいしなきゃ。夜ひとりで寝苦しいなら、私添い寝してあげてもいいわよ」
リーズは顔を赤くしハルトに密着して言う。
「な、なに言ってるの、あなた!!! ふざけないで!!!!」
「お、おいやめろ、二人とも。俺はひとりで寝るし、ご飯も食べれる!!」
そう言ってハルトはリーズから離れ、ひとり座り直す。
「遠慮しなくてもいいのよ、ハルト〜」
リーズは顔を赤くしてにっこりハルトに微笑んだ。
「してない!! それよりお前、一体どこまでついて来るんだ?」
ハルトは冷静になってリーズに尋ねた。リーズが答える。
「王都まで。だって混血の為に王都に乗り込もうだなんて、腰抜けばかりのこの国の男とは全然違うんだもの。もしハルトが良ければ、生涯付いて行ってもいいわ」
リーズは嬉しそうに、そして少し恥じらいを持って言った。
「い、いい加減、怒るわよ! あなた!!!」
クレアが更に怒りの表情で言う。
「まあまあ、クレアさん落ち着いて……」
そう言い掛けたラフネはクレアにぐわっと睨まれると、吃驚して下を向いてしまった。
(おっ、前のラフネに戻った!)
青くなって下を向くラフネを見てハルトは内心クスクスと笑った。
「あなたも何笑ってるのよ!!!!」
にやにやするハルトに気付いたクレアが今度はハルトに怒鳴る。
「げっ、いや、その……、あ、そうだ、ラフネ、水浴びして来ようぜ!!」
ハルトは手にしたスープを一気に喉に流し込むと、まだ食事中のラフネの首根っこを引っ張って川の方へと走って行った。
「ちょ、ちょっと、待ちなさ……」
ハルトはクレアの声に聞こえない振りをして川の方へと走って行った。
「はあ……」
ハルトがいなくなった焚火の前に座るクレア。それを見ていたリーズがクレアに話しかける。
「ねえ、クレア」
「なに?」
ちょっと警戒気味に返事をするクレア。
「あなた達のことは大体聞いたけど、あなたってハルトの何?」
「はっ?」
クレアはあまりに突然のことに驚きながらも、必死にその答えを探す。
「ハ、ハルトは私を守る護衛士よ!」
クレアはリーズの目を見て言った。リーズは頷きながら言う。
「うん、それは分かる。でも護衛士として守らなきゃならないのはその聞いたこともないような国でのお話でしょ? ここは遠く離れたエルフネル。ハルトがあなた達を見捨ててひとりでどこか行ってしまうこととか考えなかったの?」
「そ、それは……」
リーズの質問に戸惑うクレア。
「ハルトは優しくて変な信念があるからあなた達を守ってくれてるけど、それを当たり前と思わない方がいいじゃないかしら」
「わ、私は……」
クレアの言葉を遮るようにリーズが言う。
「少なくともエルフネルで『混血を助ける』ってのは、国家を相手にケンカをするってこと。普通の人では考えもしないことよ。それを知ってか知らぬか分からないけど、ハルトは自分の危険を顧みずに全力で突き進む。普通じゃできないわ」
「……」
クレアは思った。
イリス王国で、一般人が自分達王族に刃を向けるその意味。騎士団、魔法部隊、衛兵隊、その他すべての全力を持ってそれを叩き潰す。……それをするんだ、ハルトは。
クレアはハルトのことを思うと、手にした食事が喉を通らなくなった。守って貰うことが当たり前のように思っていたのだが、考えて見ればそれが当然のはずがない。思えば以前ルルにも言われたことがある。
リーズが続ける。
「でもね、私だって、何もできない混血の女。そのことは理解している。それを踏まえて言うね。私、負けないよ。あなたにも、そのルルって子にも」
「はっ?」
その一言でクレアは目が覚めた。
「私は……、私のできることをする」
クレアの中で少しずつ何かが変わり始めた。
「あー、すっきりした。水浴び最高だぜ。クレア、これからだろ? 手伝おうか?」
ハルトはすっきりとした顔で戻ってくると笑顔で言った。
「……うん」
ハルトはあまりにも無反応なクレアを少し心配になった。




