79.未来へ紡ぐもの
美神ピュリアを倒し、エルフネル王国を救ったハルト達。王都にある宿で休憩し、そろそろ旅に出発しようと思っていたところ、誰かが部屋のドアをノックした。
「ハルト様。国王がお呼びです。少しお時間を頂けないでしょうか」
顔を見合わせるハルトとクレア達。ルルはハルトの顔を見て頷く。
「ああ、分かった。後で行くと伝えておいてくれ」
使いの者は深く頭を下げると去って行った。
「まずは心より礼を申す」
エルフネル王城、接見の間にやって来たハルト達。
そこは大理石が敷き詰められた美しい床に、白く丸い細かな装飾が彫られた見事な柱があり、そして壁には歴代の王や風景画などが掲げられた気品ある場所。
エルフネル13世はハルト達に会うとまず大きく頭を下げた。
「こ、国王……」
驚く周りの大臣達。それを意に介さず話を始める国王。
「美神ピュリアと言うまやかしの下、我らは大きな間違いを犯していたようだ。これからは混血などに対する一切の侮蔑行為、差別を王の名の下に禁止する」
「うん、それは素晴らしい」
ハルトはこの国王の了見の深さと、器量の大きさに感心した。
歴代続いた混血への偏見、弾圧。それは既に民の生活の一部となっており、間違いと気付いてもそれを変えて行くのは容易なことではない。反対する者、異を唱える者も出るはず。魅了のせいだったとは言え、それをすぐに変えようとする判断の潔さに驚いた。
「ち、父上~」
接見の間に並んでいた息子エクセルが情けない声で父の名を呼ぶ。
「あんたもよ!!! 分かってるの!!」
「ひいっ!!」
クレアに怒鳴られ驚き縮こまるエクセル。国王が言う。
「操られていたとは言え、愚息の教育が足らなかったのも事実。ここは私に免じて何卒許して欲しい」
国王は再び頭を下げた。
「ああ、任せるよ」
ハルトの言葉に国王は頷き、続けて言った。
「貴殿らにはどれだけ謝罪と感謝をしても足らぬが、何か望みはあるか?」
ハルトは少し考えてから答えた。
「特別はないかな。無事にこの国を通らせて貰えればいい。まあでも、民にはしっかりとした説明とそして謝罪をして欲しい」
「分かった。約束しよう」
国王は大きく頷いてハルトに言った。ハルトも笑顔で応えた。
王城を出るハルト達に、後ろから王の使いの者が走ってやって来た。
「これを国王から預かりました」
そう言って小袋を渡した。ハルトが受け取り中を見ると金貨が入っている。
「何だこれ?」
使いの者が言う。
「旅の支度金です。また国王からの伝言で『ご武運を』とのことです」
断ろうとするハルトにクレアが言う。
「あなた、全然稼ぎがないんだから貰っておきなさいよ! それでたまにはこの可憐な乙女達に服の一着でも買ってあげたら?」
「か、可憐……?」
何かを言おうとしたハルトを睨みつけるクレア。ハルトは渋々使いの者に礼を言って小袋を受け取った。使いの者は頭を大きく下げ戻って行った。
「さて……」
ハルトはあれからずっと一緒にいる白いローブの少女に向けて言った。
「なあ、そろそろ話してくれないか? お前一体誰なんだよ?」
白いローブの少女は日に当たらないように木陰でハルト達のやり取りを聞いていたが、自分が呼ばれたのではいはいと言って出てきた。
「そうだね。そろそろ話さなきゃならないね、ボクのこと」
黙って聞くハルト。
「まずボクの名前はミル・シンフォニア。シンフォニアって呼んでね」
「シンフォニア……」
ハルトは小さくその名前を繰り返す。そして言った。
「シンフォニア、とりあえず助けてくれてありがとう。でもなんで助けてくれたんだ?」
ハルトの問いに笑顔で答えるシンフォニア。
「いいよ、そのくらい。キミに死なれて困るのはボクの方だから」
ハルトが首を傾げて言う。
「それってどういう意味だ?」
そう言ったハルトに、隣に居たハナが小声で言う。
(ねえ、ハルト。言い難いんだけど、この子の匂いって……)
「そのおウマ君は気付いたのかな? そうだな、もうずいぶんと変わちゃったからいいかな」
「なあ、分かりやすいように言ってくれよ」
ハルトがシンフォニアに言う。
「ごめんね。実はボクはね、未来から来たの。暗黒の未来を変えるために」
「はっ!?」
驚くハルト達一向。シンフォニアが続ける。
「で、因みにボクはアンデッド。一度死んじゃったんだ」
笑顔でそう言うシンフォニアに、ハルト達はしばらくその意味が理解できなかった。
シンフォニアはゆっくりと話を始めた。




