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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第四章「エルセント王国の悲しき英雄編」
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63.裏切者

「手を出すな。この勘違い英雄は俺が倒す」


バドが両手に持った剣を構え、部下のゴブニル兵を制した。ニヤニヤと薄気味悪い顔を浮かべてフレアに言う。



「存在を消すだと? ぎゃはははっ、笑わせんなよ!!」


しかしまだバドは知らなかった。


何故フレアがここまでほぼ単騎でやって来れたかを。

何故ここまでほぼ致命傷も受けず立っていられるかを。


そして、何故その手に見慣れない緑の槍を手にしてるかを。



「風神よ! ブレッドストーーーーム!!!!!」


ゴオオオオオオォォォォ!!!!! ドオオオオオオオン!!!!


フレアが放った一発目のブレッドストーム。これまでよりもさらに大きく、そして激しく轟音を伴って要塞にあった神殿の一部を破壊した。

フレアは()()とずらして放った。バドに当たらぬように。



「えっ、何これ……、こんなの聞いてねえぞ……」


自分の横を通り過ぎて行った風の嵐。バドはそれをただ見ているしかできなかった。体が動かなった。フレアは見抜いていた。バドと本気で対峙した瞬間に、その力量を。



「バ、バド様……」


バドの横で震えるゴブニル兵がバドを見つめて言う。バドが両手にした剣を強く握りしめ、そして大声を発しながらフレアに突入した。


「があああああ!!!!」


カンカンカン!!!!


バドの両手からの斬撃。

ゴジャとの決闘を終えてからの大技の乱発。体力も限界に来ているはずだったが、それでもバドの攻撃は緩くまるで素人の剣の様であった。


「はああ!!!」


ガンガンガン!!!


今度がフレアが攻撃に出る。それに驚くバド。必死に両手の剣で防戦するが、どんどん前に出るフレアに対し後退、防戦一方となる。


「はっ!!!」


カン!!! バキンッ!!


「なっ!?」


フレアの強烈な槍の一撃で折れるバドの剣。折れた剣を持ち大きく後方まで下がるバド。全身から恐怖の汗が流れていた。剣を持つ手も震える。以前、地下神殿で手合わせした時とはまるで別人。

ここに来てようやく自分が対峙している相手の力量を理解した。



「くっ……、クロスファイヤーーーーー!!!!」


バドが苦し紛れに魔法を放つ。


「ふんっ!!!!」


ドン!!!


その魔法もフレアの緑の槍、一振りで払う。フレアは再度槍を構えてバドに言う。



「許さない。貴様は皆が一番大切にしているものを踏みにじった!」


激怒の表情を浮かべ睨むフレア。歴代エルセント王国の英雄を支えてきた緑嵐槍が緑に光る。バドの体に恐怖の振動が走った。



「ひ、ひえーーー!!!」


突然後ろを振り向き逃げ始めるバド。フレアはその様子を見て目に涙を溜めながら言う。


「こんな奴に皆は付いて行ったのか。こんな奴に、皆は殺されたのか……」


フレアが槍を構え再度その大技を出そうとする。その時後ろから大きな声が響いた。



「待て!!!」


フレアが振り返る。


「!!!」


そこには数名のバドの部下によって捕えられたリティの姿があった。両手を掴まれ、剣を突き付けられている。


「リティ!!!」


フレアは鬼の形相でその部下共を睨みつける。


「ははっ、あははははっ!! よくやったお前達!! そのままだ、そのままにしておけ!!」



その様子を見たバドが再び笑いながらフレアに向かって行く。手には折れた剣。その眼は血走っている。それに気付いたリティが大声で叫ぶ。


「フレア様!! 私に構わず、バドを倒して!!」


バン!!!


「きゃあっ!!!」


そう叫んだリティをバドの部下が殴りつける。リティの顔は腫れ上がり口からは血が流れる。配下の者が叫ぶ。


「武器を捨てろ! お、女を殺すぞ!!!」


「リティを放せ!!!!」



フレアが大声で叫ぶ。

その光景に動揺するフレア。その脳裏にはフィアンセのリズと国民を選択させられた時の辛い光景が浮かんでいた。体が小さく震え始め、槍を持つ手の力が弱くなる。


「私は、私は……」


苦悩するフレア。それに気付いたバドが折れた剣で斬りつける。


「ぎゃははあはっ!!!」


ザン!!


「ぐわっ!!!」


背中を斬られ片膝を付くフレア。背から流れる鮮血。リティが涙を流しながら叫ぶ。


「私に構わず、バドを斬って!!!!!」


しかしそのすぐ後に再度殴られるリティ。


「やめろーーーーーっ!!!!! 私は、私は……」


ゆっくりと立ち上がるフレア。しかし下を向き、涙をぽたぽたと落としながらリティに言った。



「私は、もう誰かが傷つくのは見たくない……」



そう言うとフレアはその手にした緑の槍を地面に落とした。カランカランと乾いた音が辺りに響く。


「フレア様あああーーーーー!!!!」


リティの涙交じりの悲鳴に近い叫び声が一面に響く。フレアは目を閉じひとり心の中で思った。



――すまない、リズ。お前を探しに行けないかもしれない。愚かな私を許してくれ……



そのすぐ直後、後方からバドの下品な声が響く。


「これで終わりだ!! 英雄様!!!!」


バドの剣がフレアの頭上に振り上げられる。目を閉じるフレア。その時であった。



「召喚!!!!」


その聞き慣れた声が皆の耳に響くと同時に、バドの頭上に巨漢のトロールが出現する。


「えっ!? ぐああああ!!!!」


ドーーーン!!


トロールはそのままバドの体に落ち、バドは地面に叩きつけられる。巨漢のトロールに上から体を押さえられ身動きが取れなくなるバド。


「はああ!!!!」


シュン、シュン!!!


「ぐわあああ!!!!」


それと同時に、リティを押さえていたバドの部下達から起こる悲鳴。見るとその手足から血が吹き上がり、そしてリティが救助される。涙に溢れていたフレアの顔に笑顔が戻る。


「ハルト……」



ハルトはリティを安全な場所に連れて行くと、呆れた顔でフレアに言った。



「全く、勝手にひとりで行くんじゃねえよ!」


「すまない……」


目に涙を溜めてフレアが答える。


「まあ、そう言うところがお前らしくていいだけどな!」


ハルトは笑顔で言う。そしてトルンドに潰されているバドを見てフレアに尋ねる。


「で、こいつは裏切り者でいいんだな?」


涙を拭い、フレアがハルトにこれまでの事情を説明する。



「なるほど。それでここ最近起こっていたおかしな出来事がすべて理解できた」


「ああ、こいつがすべての情報をゴブニル軍に流していたんだ」


フレアは戻ってきたリティの肩を抱きながら言った。ハルトがバドを見て言う。



「じゃあ、始末するか」


その言葉を聞いたバドが真っ青な顔をして言う。


「すまねえ、本当にすまねえ!! 俺も命令されてやっただけなんだ!! 許してくれ!!!」


「嫌だね」


ハルトは冷静に、そして無表情で言い放った。


「ひ、ひいいい!!!」


「トルンド、好きにしろ」


ハルトはバドの上に乗っているトルンドに命じた。


「分かった」


トルンドはバドの上から降りると、持っていた巨大ハンマーを構えた。


「や、やめろ、トルンド!! 命令だぞ!!!」


そう言いつつも顔を青くして逃げ出そうとするバド。


「ふがあああ!!!」


ドン!!!!


「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!!」


トルンドの巨大ハンマーに殴られたバドは、遥か遠くまで吹き飛んで行った。



「死んだのか?」


ハルトがトルンドに尋ねる。


「分かんねえべ。ただ、飛ばしたあの森は獰猛な猛獣がたくさんいる場所だ。多分無事じゃ済まねえべ」


「そうか、ははっ」


ハルトはトルンドの話を聞いて少しだけ笑った。

敵であったトルンドを不思議そうに眺めるフレアとリティ。それに気付いたハルトが二人に説明する。苦笑いする二人。

ハルトも少しだけ笑ったが、すぐに真剣な顔になって言った。



「……で、そこに隠れているおっさんよ。お前がゴーニルなんだろ?」


ハルトは、フレアのブレッドストームで半壊させられた神殿の陰に立つ人物に向けて言った。その人物はその声に応えるように姿を現した。



「お見通しか。お前一体何者だ?」


その姿は意外と小柄な魔法衣を身に付けた中年のゴブリンであった。ハルトが言う。


「俺は護衛士ハルト」


その言葉に表情一つ変えずにゴーニルが返す。


「護衛士? ……そうか。私は『知の畏敬いけい』にてゴブニル国大王であるゴーニルだ」



――畏敬!?


ハルトは少し前に【登壁の村】のガレフに注意されていたその言葉を思い出した。

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