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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第四章「エルセント王国の悲しき英雄編」
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61.フレアの槍

「クレア達は残兵を頼む! ……って、あれ、リティは?」


ゴブニル軍の副隊長トルンドと契約したハルトは、城下町の治安維持を姫達に頼みフレアのもとへ向かおうとした。しかしリティが居ないことに気付き周りを見回す。


「彼女、ちょっとこの辺が落ち着いたから先にフレアの元に向かったわ」


ルルが負傷した民の手当てをしながらハルトに言った。


「分かった。じゃあ、俺も行く。ここは頼むぞ!」


そう言うハルトにルルが心配そうに言う。


「ひとりで大丈夫?」


心配するルルにハルトは笑顔で言った。


「大丈夫。リティも行ってるようだし、それに……」


「それに?」


ルルが聞き返す。



「フレア(あいつ)、強いから!」


「うん!」


ルルは笑顔で答えた。





フレアはゴブニル軍要塞前の小高い丘にひとり立っていた。

ゴーニル大王はヒト族が使っていた王城へは入城せず、自分達で禍々しい城の様な要塞を築いていた。


フレアの眼下にはその要塞から出て来た沢山のトロールとゴブリン兵で溢れる。皆しっかりと武装しており、たった一人でやって来たフレアを見下すような視線で見ていた。



「裏切り者の英雄様だ!!」


「妄(・)想(・)の英雄様だろ、ぎゃははははっ!!!」



そのような野次がフレアの耳に聞こえたかどうかは分からない。だがその手にした緑の槍・緑嵐槍《りょくらんそう》をドンッと地面に置くと大声で言った。


「例え……」


「ああ?」


フレアの言葉に耳を傾けるゴブニル軍の兵士達。フレアは覚悟を決めた眼差しで叫ぶ。



「例え全てを敵に回そうとも、例え生きる事が罪だと言われても、俺は、俺の全力を生きる!!!!」



その気迫。

まるでフレアを中心に、何か爆発が起こったかのような衝撃が周りに響いた。たじろくゴブニル軍。フレアが続ける。


「我に力を、風神!!!」


そう言って緑嵐槍を下段に構えるフレア。



「ブレッドストーム!!!!!」



フレアが突き出した槍から巨大な竜巻の様な衝撃波が放たれる。空を揺らす轟音。放たれる雷鳴。荒れ狂う竜巻。


ドオオオオオオオン!!!!


「ぐああああああああ!!!!!」


緑の竜巻の攻撃を受けたゴブニル軍。その直撃を受けたトロール達は跡形もなく吹き飛ばされていた。ゴブニル軍に動揺が走る。



「お、おい……、あいつって腰抜けの英雄もどきじゃなかったのか……」


直撃を避けられた兵達が口々に言う。


「な、何をやったんだ、おい……。また構えているぞ……」


ゴブニル軍の視線は二発目を放とうとしているフレアに集まる。



「ブレッドストーム!!!!!」


ドオオオオオオオン!!!


「ぐああああああああ!!!!!」



フレアの前に現れた兵のおよそ半分弱、それがたった二発の攻撃によって吹き飛ばされてしまった。残った兵達もガタガタを身を震わせ、既に戦意喪失した者も多数いる。


「ば、化け物だ!! あいつ本物の英雄だ……」


ゴブニル軍の誰かがそう叫んだ。その言葉を合図にジリジリと後退し始めるゴブニル軍。




「フレア様!!!」


フレアを心配し先にやって来たリティ。フレアは彼女を追い返そうとしたが、その決意に満ちた目を見てその思いを改めた。

そしてリティからもたらされる城下町での虐殺の話。黙って聞いていたフレアだったが、話を聞き終わると同時にさらに激しい闘気が体から発せられた。


「あ、あいつ、ヤバい奴だよ……」


それを敏感に感じ取ったゴブニル軍が更に後退りする。リティがフレアに言う。


「最後までお付き合い致します」


「ああ、頼む」


逃げ始めるゴブニル軍を見ながらフレアは答えた。




「逃げるな!!! お前ども!!!!!」


崩れ始めたゴブニル軍の後方から、大きな地響きするような声が発せられる。その声に一瞬動きが止まるゴブニル軍。そしてその中からひとりのゴブリンの男が現れた。

緑嵐槍を手にゆっくりとゴブニル軍へ歩くフレア。その男も同じようにフレアの前へと出る。



「俺はゴーニル親衛隊の副隊長ゴジャだ。ニセ英雄め、死んでもらうぞ!!」


ゴジャはそう言うと懐から二本の短剣を取り出して構えた。

無言で槍を構えるフレア。静止する二人。無言の空気がその間を流れる。


先にゴジャの足元の砂がジャリッという音を立てた。



「なっ!?」


ゴジャが動いたかと思った瞬間、フレアの目の前に突如ゴジャが出現した。そして手に持った短剣で鋭くフレアに斬りかかる。


カン!!


それを辛うじて槍で防ぐフレア。素早く後ろに跳躍して再び槍を構える。


(何だ、今のは!? 全く見えなかった……)


フレアの額に汗が流れる。それを見たゴジャが言う。


「見えなかっただろ? 驚いただろ? けけけっ、お前は負けるんだよ、想望のニセ英雄様!!」


そう言うと再びゴジャの姿が消える。


シュン!!


「ぐわっ!!」


今度はフレアの後ろに現れたゴジャがその背中を斬りつける。流石のフレアも視界から外れると槍での防御も間に合わない。フレアは緑嵐槍をグルグルと回しながら再びゴジャと距離を置く。



(……まさか転移魔法!?)


今回は全精神を集中して相手の動きを見ていたフレア。しかし相手はまったく気配を発せずに真後ろに現れた。

移動してきたのではない、転(・)移(・)してきたのだ。詠唱なしの転移魔法。だとしたら相当厄介である。



「その顔、気付いたのかな?」


ゴジャが手にした短剣に付いたフレアの鮮血を舐めながら言う。フレアはその問いかけには答えず、少し後退してリティに何かつぶやく。それに頷くリティ。


「へへっ、気付いたところで同じこと!!」


そう言って再びゴジャの体が消えると同時にフレアの体が少しだけ金色に光る。



「はあああ!!!」


カン!!


「なにっ!?」


今度はフレアの真横に現れたゴジャ。しかしフレアはその攻撃を一部の無駄もない動作で受け止め、さらに槍を回転させて反撃に出る。


「はっ!!!」


シュン!!!


「ぐわっ!!!」


攻撃を受け止められ反撃されたゴジャの腕にうっすらと血が滲む。


「ぐ、偶然だ!!!」


そう言って再度攻撃をしようとしたゴジャだが、気が付くと目の前にフレアが立っておりその緑の槍を振り上げている。



「はああ!!!」


「ひえっ!!!」


シュン!!!


一瞬。

ほんの一瞬の間にその危機を感じ取ったゴジャが、間一髪フレアの槍の突きをかわす。今度がゴジャが後方に跳ね、フレアに対峙する。



「お前、見えるのか、この動きが!?」


フレアは槍を構えたままゴジャに答える。


「敏捷魔法・神速《しんそく》。今の私は数倍の速さで動くことができる」


「くっ、その女の魔法か……」


ゴジャの目にフレアの後方に立つリティの姿が映る。ゴジャが言う。



「じゃあ、俺様も本気出すぜ!」


「何だと!?」


ゴジャがそう言うと両手に短剣を持ったまま気合を入れ始める。どんどん高まるゴジャの闘気。それを見るフレアの体から汗が流れる。



シュン



――消えた


フレアの目には再びゴジャの体が消えたように映った。


「ぐわあ!!」


姿を消したゴジャはフレアの背後に現れると、再び短剣で背中を斬りつけた。


「フレア様ああああ!!!」


流れる鮮血を目にしたリティが叫ぶ。振り返り槍を構えるフレア。しかしすでにそこにはもうゴジャは居ない。


シュン!!


「ぐっ!!」


今度は左、そして右と神出鬼没に現れてはフレアを斬りつけるゴジャ。遠巻きに見ていたゴブニル軍からも野次や声援が送られる。



「フレア様!!」


全身から血を流しながら切り刻まれるフレアを目にしたリティが、手に口を当てて叫ぶ。



「ぐっ、リティ、遠くへ離れろ!!!!」


そう言うとフレアは思い切り地面を蹴り、大空へと舞い上がった。それを聞いたリティが涙を堪えながら離れていく。フレアが空中で槍を構え、力を込めて叫ぶ。


「風神よ!! ブレッドストーム!!!!」


フレアは空中から地表にいるゴジャに向けて思い切りブレッドストームを撃ち込んだ。槍から放たれる轟音。風。そして竜巻。それが地面に当たり岩を破壊し砂を激しく巻き上げる。


しかしそこにゴジャの姿はなかった。



「ここだよ、英雄さん!」


気が付くとゴジャはフレアの更に上に転移して来ていた。


「すげえ技だけど、当たらなきゃ意味ねえ!!!」


ザン!!


「ぐわあああ!!!」


ドーン!!!


ゴジャの両刀の攻撃をまともに受けたフレアは、空中に血を噴き上げながら地面に叩き落とされた。



「ごほっ、ごほっ……」


口に溜まる血や砂を吐き出すフレア。


「フ、フレア様……」


少し離れた場所から見ていたリティが目に涙を溜めながらその名前を呼ぶ。しかしフレアはよろよろと立ち上がると再び槍を構えた。



「まだやるのか? 死にぞこないの英雄さんよ!!!」


再び姿を消すゴジャ。そして何を思ったのかフレアは槍を構えたまま目を閉じて微動たりともしない。

しかし次の瞬間。



「はっ!!!」


グサッ!!


「えっ!?」


フレアが左に素早く槍を突き出すと、そこにはゴジャがいてその槍が腕に突き刺さっていた。


「ぎゃあああ!!!」


槍を抜き転がるように後ろに下がるゴジャ。


「ま、まぐれだ!!!」


再び消えるゴジャ。そして目を閉じたまま動かないフレア。


ズン!!


「ぎゃああ!!!」


今度は後ろ。フレアの背後に現れたゴジャを再び緑の槍がその足を突いた。



「まぐれ、まぐれ、まぐれのまぐれだ!!!!!」


大声で叫びまた姿を消すゴジャ。フレアは目を閉じて精神を統一する。

そして今度は真上に槍を突きあげた。


「はあああ!!!!」


グサッ!!!


「えっ、うそ……、何で……」


フレアの頭上に現れたゴジャは、その天に突かれた槍によって一刺しにされていた。


「ぐはっ……」


口から血を吐き地面に落ちるゴジャ。フレアは目を開けると槍に付いた血を軽く振って払う。ゴジャが言う。



「なんで、何で分かったんだ……」


フレアはゴジャを見下ろし言う。



「……砂だ。ブレッドストームで巻き上げた砂が宙にたくさん浮いている。お前がどこに行こうとその砂の当たる音が私ははっきり聞こえる」


「ば、馬鹿な、そんなことが……」



ゴジャはそう言うと大きく血を吐いて絶命した。


「ゴ、ゴジャ様がやられた!!!!」


将を失った烏合の衆は、あっという間に散り散りになって消えて行った。



「リズ、待ってろ!!」


ゴブニル要塞を睨み、フレアが大声で叫んだ。

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