60.アードル隊長
「えっ、えっ、召喚契約!?」
ハルトに敗れたトルンド。そしてその口から発した言葉にハルトは驚いた。
「この先のトロールには電撃の効かねえ奴もたくさんいる。それに、オラはもうヒトを殺したくねえ」
それを聞いた【ヒトナキモノ】のルフトアールが言う。
「ハルトよ、私なら気にするな。どの道この状態ではまともに戦うこともできない」
ルフトアールは消耗した体力、そして全身に受けた怪我を見て言った。ハルトが言う。
「まあ、バテバテなのは俺も一緒だけどな。分かったよ、うなちゃん。今日までありがとう」
ハルトは優しくルフトアールの体を撫で契約を解除した。薄くなり消えゆくルフトアール。ハルトは最後まで感謝を告げた。
「さて、じゃあ俺の前にしゃがんで」
そう言われたトルンドがハルトの前に跪く。そして召喚域を展開し、その頭の上に手をやる。
「我が名はハルト。古の盟約により汝と血盟召喚の契りを結ばん。求ム、汝を求ム。我が血肉を食らい我の叫びに応じよ!! その名は【トルンド】!!」
契約を終え少しづつ白くその姿が消えて行くトルンド。トルンドが言う。
「ありがとう、ええっと……」
「ハルトだ」
「ありがとう、ハルト」
トルンドが完全に召喚界へと消えて行く。すぐに召喚して呼び戻すハルト。
「うーん!! これが【ヒトナキモノ】って奴か! 何と清々しい!!!」
再び現れたトルンドはすっかり体の怪我も癒えていた。ただより強力な【ヒトナキモノ】であったのか、ハルトの召喚力はこれまで以上に消耗が激しい。ハルトが手を差し出す。
「よろしく、トルンド」
トルンドもその手を握って言う。
「ああ、よろしく。弱い者達を助けよう!」
「やはり裏切ったか、トルンド」
ハルト達が握手をしていると、その背後から低い声が響いた。
「アードル隊長……」
ハルトはその隊長と呼ばれた男を覚えていた。フレアの隠れ家に奇襲にやって来たトロール。大きな槍を使う強者だ。
「オラは、オラはもうヒトを殺したくねえ!!」
トルンドが大声で叫ぶ。アードルは槍を構えてそれに答える。
「ふん、甘っちょろいガキが!!!」
「はあああ!!!」
「身体防御!!」
ガンガンガン!!!!
アードルの槍の突きをトルンドが体で防ぐ。
「さすがゴブニル軍最強の壁と言われただけのことはあるな。だがいつまで持つか?」
アードルはそう言うと、自慢の長い槍を頭上で勢いよく回し始めた。その槍の回転に合わせて発生する竜巻。轟音を上げ、そしてバリバリと放電している。
「オラの陰に隠れろ!!」
「はあ!!」
掛け声とともにその竜巻がハルト達に向けて放たれる。
「身体防御!!」
トルンドがハルトの前に立ち両手を広げてその竜巻の盾になる。
ドドドドド、バーーーン!!!
ダメージを受けながらの竜巻を防ぎ切ったトルンド。すかさず反撃、と思いきや、いつの間にかハルトの周囲を新たな無数の竜巻が囲んでいる。
「これで終わりだ!!」
「くそっ、シールド!!!」
ハルトはトルンドの陰に隠れながら周囲に力の限りシールドを張り重ねる。迫る無数の竜巻。ハルトが叫ぶ。
「耐えろおおおお!!!!!」
ガガガガガッ、ドーーーーン!!!
「はあ、はあ……」
辛うじて竜巻の群れを防いだハルト。すぐにトルンドに言う。
「行けるか?」
「ああ、もちろんだ!」
そう言うと二人は声を上げてアードルに向けて突進する。
「はあああ!!!」
「ぐおおおおお!!!!」
突撃に気付いたアードルが槍を構え迎撃の姿勢をとる。そしてその槍から放たれる連続攻撃。
ガンガンガンガン!!!
それを体で受け止めるトルンド。
「はっ!!!」
それを見たハルトは地面を蹴り、そしてトルンドの肩で跳ね、アードルの頭上に出る。同時にトルンドが突進し、それに気を取られたアードルが不意を突かれる。
「はああ!!」
ズン!!
ハルトの剣が頭上からアードルの頭を攻撃する。
「ぐわっ!!」
更に突進を続けていたトルンドが、手にした巨大ハンマーでアードルに攻撃を加える。
「うごおお!!!!」
ドーン!!!
「ぐあああ!!!」
「今だ!!!」
地面に降りたハルトとトルンドが剣とハンマーを振り上げ、同時にアードルに向かう。
「くそっ!! ニードルエデン!!!!」
不意にアードルが魔法を発動する。急にガタガタと揺れ出す大地。ハルト達は一旦立ち止まる。
「いかんべ! 下に気を付けろ!!」
トルンドが叫ぶと同時に、地面が大きく揺れそしてそれが尖った円錐状になって下から突き上げてきた。
「シールド!!!」
ハルトは咄嗟に真下にシールドを張り攻撃を防ぐ。
「ぐわっ!!」
しかし防御が間に合わなかったトルンドが下からの攻撃を受ける。それに気付いたハルトが叫ぶ。
「大丈夫か! 一瞬戻すぞ!!」
ハルトはトルンドを召喚界に戻し、一旦後退して息を整える。激怒するアードル。そしてハルトはひとり剣を構え再び斬り込んだ。
「はあああ!!」
ガンガンガン!!!
ハルトの攻撃を槍で受け流すアードル。
「召喚! トルンド!!!」
ハルトはすかさず自分とアードルの間にトルンドを召喚。
「うごごごごおおお!!!」
ガンガンガン!!!
身体防御で堅くなったトルンドに攻撃を防がれるアードルの槍。
「はっ!!!」
ハルトはシールドを足場に再びアードルの頭上に舞う。
「もうその手は食わん!!!」
アードルは目の前のトルンドを足蹴りにして吹き飛ばし、すぐに手にした大きな槍を頭上のハルトに向けて思いきり突く。
「シールド!!!」
しかしハルトはアードルの突きをシールドで流す。
「なにっ……」
攻撃をせずに地面に降り立つハルト。
しかしアードルの胸には一本の剣が突き刺さっていた。
「ナイス! クレア!!」
「ぐはっ……」
その剣の持ち主はクレア。トルンドとハルトが囮になって気を引き、隙のできたアードルをクレアが一突きで仕留めた。
胸より溢れる血を見ながらアードルが言う。
「ひ、卑怯な。なんて卑怯な奴……」
それを聞いたハルトが、剣を抜いたクレアの肩に手を回し言う。
「何言ってんだ、俺達パートナーみたいなもんだぜ。卑怯でもなんでもない」
「無念っ……」
バタン!!
アードルは少し声を上げそのまま倒れた。しかしそれ聞いたクレアが顔を赤くして言う。
「ええっ! パパパ、パートナーって、何っ!? こ、子供が出来ちゃう!!!!」
「はっ?」
「そ、そんな急に言われても、こ、心の準備が……」
両手を顔に当て慌てるクレア。それを見たトルンドがハルトに言う。
「なあ、ハルト。ヒト族ってのは肩抱き寄せるだけで子供ができるんか?」
「そんな訳ないだろ……」
ハルトは剣を収めると苦笑いして言った。




