59.召喚契約
街でゴブニル軍による虐殺が行われているとの知らせを受けたハルト達。知らせにやって来た男を地下神殿の仲間に託し、急ぎ街へと向かう。
フレアのことも心配であったが、今は罪なき人々を救う方が先である。
(一体何が起きている……?)
ここ数日の説明がつかない出来事の数々。
フレアの隠れ家への奇襲。
地下神殿への襲撃。
そして街での虐殺。
考えれば考える程おかしな点が多い。前々から感じていた嫌な予感が、悉く形を変え現実のものとなっている。ハルトの街へ向かうその足も自然と速くなる。
「こ、こんなことが……」
街に辿り着いたハルト達。
城下町は統治者であるトロールやゴブリンの居住区と、奴隷であるヒト族の居住区は分けられているのだが、ヒト族の居住区では目を背けたくなるような虐殺、蹂躙が行われていた。
道路や地面に散らばる数多の遺体。斬り落とされた手や足が黒くなった血と共に転がる。まだ生きているヒト族を剣や槍を持って追い掛け回す占領者達。その数の多さにハルトは全身の力が抜ける感覚に陥った。
「フレア、フレアよ。なんで今お前はここに居ねえんだよ……」
ハルトは崩れそうになる体に力を入れ、そしてみんなに言った。
「全力で民の救助! 抗う奴等は全力で叩きのめせ!!!」
「わ、分かったわ!」
ハルト同様、精神的なショックを受けていたリティやクレア達も、ハルトの覚悟を決めた声を聴いて剣を抜く。
「そうはさせないぞ」
剣を抜いたハルト達の前に、巨漢のトロールが立ちはだかった。
「オラはゴーニル親衛隊の副隊長トルンドだ。邪魔はさせねえべ」
「ゴーニル親衛隊? あのアードルって奴の仲間か!!」
ハルトはフレアの小屋を襲撃したトロールを思い出しながら、目の前のトロールに向かって言った。
「ああ? ああ、アードル隊長はオラの上官だ。いくぞ!」
トルンドはそう言うと巨大なハンマーをぐるぐると振り回し始めた。巨漢の癖に動きも速い。発せられる闘気からも一筋縄ではいかない相手と分かる。
「こいつは俺が相手する。みんなは民の救助を頼む!!!」
「分かった。気をつけて、ハルト!!」
リティやクレア達はそう言うと街で苦しむ民の救助に走った。
「があああ!!」
ドーン!!!
トルンドの巨大ハンマーの攻撃。それを間一髪かわすハルト。地面に大きな穴が開く。
「なぜこんな酷いことをする!!」
ハルトは剣を構えながらトルンドに言った。トルンドが答える。
「なぜって、お前達が裏切ったんだろ? 俺達を殺そうと隠れて武装していたんだろ?」
ハルトが言い返す。
「民は、罪のない民は関係ないだろ!!!」
その言葉に声を詰まらせるトルンド。少し体を震わせながら大声で言う。
「うるさい! オラは言われたんだ! みんな殺せと!!!!」
ドーン!!
再び振るう巨大ハンマー。ハルトはルフトアールに攻撃命令を下す。
「サンダーボルト!!!!」
その空中より発生した閃光を放つ稲妻がトルンドの頭上に落ちる。
ドーン!!
「やったか!! …………!?」
落雷の直撃を受けたトルンド。しかし吃驚した顔はしたものの、全くの無傷で立っている。
「オラには雷は効かねえ。残念だったな」
ドーン!!
再び繰り出されたハンマーが地面に突き刺さる。
「くそっ、そんなのありかよ……」
ハルトは巨大ハンマーをかわしながらつぶやいた。
「はああ!!!」
カンカンガンガン!!!!
雷撃を諦めたハルトが剣を構えて連撃を繰り出す。
「くっ、身体防御!!」
トルンドがそう叫ぶと一瞬その体が鈍く光る。
カンカンカン!!!
「なっ!?」
連撃を行っていたハルトが後ろへ後退する。
「剣が効かねえ……」
トルンドはにやっと笑って言う。
「オラの体は超硬くなったぞ。もうお前の剣は効かねえんだ」
「そんな馬鹿な……」
顔色を変えるハルトにすかさず巨大ハンマーを繰り出すトルンド。
「シールド!!!」
バリン!!!
「ぐわっ!!!」
すぐにシールドを張るも、その強力なハンマーの前に粉砕され吹き飛ばされるハルト。
(くそっ、どうすれば……)
剣を構え考えるハルトにルフトアールが近付いて言う。
「考えがある。ハルトよ、奴の気をそらしてくれんか」
頷くハルト。そして剣を構えて再び斬り掛かる。
「はあああ!!!」
ハルトの連撃。それを腹で受けるトルンド。しかしやはりダメージは殆ど入らない。
「がはははっ、ムダムダ。オラにはそんな攻撃……、うっ!」
余裕でハルトを見ていたトルンドの首に、いつの間にかルフトアールが巻きつく。
「ぐふっ、息が、息が、できねえ……」
首に巻きつかれた溜息ができなくなるトルンド。必死に剥がしに掛かる。
「体内放電!!!」
しかしルフトアールは体全体から強力な雷を発生させ、やがてそれは熱へと変わる。
「あじい、あじいいい……」
ドンドン!!!
高熱の帯となってトルンドの首を締め上げるルフトアール。顔を真っ赤にしてそれを必死に殴るトルンド。
「ぐっ」
同時にダメージを受けるハルト。しかしハルトも休むことなく剣の連撃を続ける。
「ぐぐぐぐっ……」
ドーン!!!
やがて体や顔を茹でダコの様に真っ赤にしたトルンドは、白目を剥きそのまま倒れた。
首から離れるルフトアール。その体は傷だらけで、そして強力な電力を発し続けた為、体力も極限まで落ちている。
「ぐぐっ、こんなバカな……」
意識朦朧となったトルンドがつぶやく。ハルトが近くまでやって来て剣を突き付ける。
「もう止めさせろ、この虐殺を!!!」
トルンドが言う。
「……なあ、おめえはゴブニル軍に勝てるのか?」
ハルトは剣を突き付けたまま答える。
「当たり前だ!!」
トルンドが再度尋ねる。
「何の為に戦うんだ?」
ハルトも剣を突き付けたまま答える。
「俺は護衛士。罪のない人を守るのに理由はいらない!」
「!!」
トルンドはその言葉を聞いて子供の頃を思い出した。
小さな虫を捕まえて遊んでいた子供のトルンド。しかし子供でも強い力を持っていた彼は、面白半分に手にした虫達をつぶして遊んでいた。
それを見た両親が、それを止めさせてトルンドに言う。
「命を大切にしなさい、トルンド」
「えっ?」
トルンドは母親を見上げた。母親が続けて言う。
「力ある者は弱いものを守らなきゃならないんだよ」
「どうしてなの?」
子どものトルンドは不思議な顔をして尋ねる。体の弱かった母親がトルンドの頭を撫でながら答える。
「お父さんが、母さんをいつも守ってくれたみたいにね、トルンド」
トルンドに心に今は亡きふたりの笑顔が浮かぶ。そして母親が優しい声で言う。
――弱いものを守るんだよ、トルンド……
地面に倒れたままのトルンドの目に涙が溢れる。そして小さくつぶやく。
「とっちゃん、かっちゃん、オラ分かったよ……」
「お、おい、どうしたんだ!?」
急なトルンドの涙に気付いたハルトが言う。トルンドはいきなり立ち上がって周りにいた部下達に言い放った。
「街の人への虐殺はもう止めろおおお! 弱い奴らを守るんだ! それができたら……、トルンド副隊は今日解散!!!」
それを聞いたトルンドの部下達が剣を下げ、トルンドの方を向いて涙を流しながら大きく頷く。
「お、おい。どうなったんだ!?」
それを見ていたハルトが唖然とする。そんなハルトだったが次のトルンドの言葉に更に驚いた。
「なあ、おめえ。オラと召喚契約してくれ!」
ハルトはこの敵の副隊長が言った言葉の意味が、最初理解できなかった。




