58.潰される芽
襲撃された『独立と勝利軍』。
ハルト達はその拠点がある地下神殿へ急ぎ駆けつけた。
辿り着くとその入り口であった廃殿は原型が分からない程破壊され、階段からは煙のようなものが出ている。
「くそっ」
ハルト達は直ぐに階段を下る。
しかしその光景は目を覆いたくなるようなものであった。
入り口同様に原型が分からない程破壊された神殿内部。火をつけられたのか真っ黒に焦げた物資や多くの装備品。
そして数えきれないほどに積まれた兵士達の亡骸。中にはまだ息がある者もいたが、その多くが酷い怪我を負いまさに絶命寸前のところであった。
「大丈夫か!!!」
フレアが近くにいた比較的軽症の兵に尋ねる。同時にルルが回復魔法を掛け始める。
「……ああ、フレア様。大切な拠点が……、申し訳ありません……」
「そんなことはいい。死ぬな!!」
「……はい」
回復魔法が効いてきたのか男が話を続ける。
「バドさんやメルカさんが連れさられました。きゅ、救助をお願いしたい……」
フレアは頷いて答える。
「分かった。私達に任せろ」
男は嬉しそうな顔をすると目を閉じ眠りについた。
その後ハルト達は逃げ隠れていた人達を探し出し、同時に怪我人の救護、不明者の捜索を行った。
負傷者の治療もひと段落したハルト達。
休憩をしようと皆が座る中、ただひとり立ち続ける男がいた。
「フレア、一旦座れ。体を休めるんだ」
ハルトはフレアのその表情を見て心配して言った。しかし首を横に振り歯を食いしばって言う。
「このような、このようなことが許されようか!!!」
その眼は烈火の如く怒り、全身から溢れる闘気は周りの者を圧倒した。
「落ち着け、落ち着くんだ、フレア。みんなお前と気持ちは同じだ!」
ハルトが落ち着かせるようにフレアに言う。
「ゴブニル大王を討つ」
フレアは思いつめたように言う。
「待つんだフレア、何の策もなしに突っ込んでも……」
その声を遮るようにフレアが言う。
「では、このまま黙って見ていろと言うのか!?」
「そんな訳ではない!」
ハルトもそれに対抗する様に声を大きくして言う。
「ではいつ行くのだ?」
ハルトは少し考えてから答えた。
「まだ分からない。でも、今じゃない……」
フレアは身を覆し壁に立て掛けてあった緑嵐槍を手にして言った。
「私一人でも行く!!」
「フレア様!!!!」
ひとり槍を持ち駆け出すフレア。リティがその名を叫ぶ。
「ま、待つんだ、フレア!!!」
ハルトも必死に止めようとするが、既に彼は階段を駆け上がりその姿は見えなくなっていた。
「くそっ、脳筋野郎め!!」
ハルトも剣を握りその後を追う。それに続くルルとクレア。
「よお、久しぶりだな」
フレアを追いかけようと階段を上がったハルトの前に、その顔見知りの男が立ちはだかった。
「ゼ、ゼノ……!?」
ヘブンズウォール壁上にて圧倒的な力でハルト達の邪魔をし、黒炎を受けて行方をくらませていたゼノ。今再びハルトの前に立つ。
「お前、やはり生きてたのか!!」
ゼノはトレードマークである大剣を肩に担ぎハルトに言う。
「ああ、大変だったぜ。お前のあの黒い炎。シノンの転移魔法で寸でのところで回避できたが、まともに食らっていたらお陀仏だな、ありゃ」
ゼノの後ろで気のせいか少し戸惑いの表情を見せるシノンがこちらを見ている。
「くそっ……」
ハルトは腰に付けた剣に手を掛ける。
「……で、お前何者だ? あの尋常じゃない攻撃、ただのヒト族じゃないだろ?」
ハルトが言う。
「そんなことはどうでもいい! 俺は今急いでるんだ、そこを退け!!」
「うーん、悪いが俺もやらなきゃいけないんでね」
そう言ってゼノが肩に担いでいた大剣を構える。
「くっ、こんな時に!」
ハルトも剣を構え、【ヒトナキモノ】の詠唱を始める。
「我が名はハルト。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【ルフトアール】!!」
ハルトの横に魔方陣が現れそこからルフトアールが出現する。クレアも剣を抜き構える。ルルとリティも同様に戦闘準備に入る。
ハルトの【ヒトナキモノ】を見たゼノが言う。
「ほお、今は空ウナギか。……知ってるか?」
ゼノが大剣を振りかざして突撃してくる。
「そいつ、焼くと美味いんだぜ!!!!!」
ガン!!!!
ハルトは目の前にシールドを出現させてその攻撃を防ぐ。
「はああ!!!」
カンカン!!!
クレアとハルトの剣がゼノを襲う。それを器用に大剣を振り回し防ぐゼノ。
「サンダーボルト!!!!」
ドン!!
間髪を入れず落とされるルフトアールの雷撃。そしてそれをかわすゼノ。
「ファイヤーレイン!!!」
そして後方からは魔法の詠唱をしていた元王宮魔導士のリティがゼノに火の雨を降らせる。
「ウォーターシュート!!!」
それを打ち消すかのようなシノンの水魔法。お互い一進一退の攻防が続く。
「お前、少しは腕を上げたな」
攻撃を続けていたゼノが一旦後退し、ハルトに言った。
「いい加減俺達の邪魔をするのや止めろ!!」
ハルトが息を切らしながら言う。
「もう撃たないのか? あの黒い炎は?」
ゼノが余裕の表情でハルトに尋ねる。無言になるハルト。
「ゼノ、もう時間が……」
ゼノの後ろにやって来たシノンが小さくつぶやく。
「まあ、いい。目的は十分に果たした。間もなく新たな知らせがお前達に届くだろう。まあせいぜい頑張りな」
「なに? それはどういう意味……」
ハルトがそこまで言うとゼノとシノンは転移魔法で消え去った。
「大丈夫か、みんな!」
ハルトはルルやクレア、そしてリティの様子を見る。ほぼ負傷者はいない。ゼノが全力を出せばこちらも無傷ではいられなかったはず。単なる時間稼ぎか? ハルトはそう考えた。
「ええ、大丈夫。それにしても何なの、あの男。邪魔ばっかりして!!」
クレアが怒り気味に言った。
「あれ、誰か来る?」
ルルが森の奥からこちらに向かってやって来るひとつの人影を見つけて言った。
「……怪我、してる!?」
その姿を見たリティがつぶやく。先の地下神殿襲撃を知らせに来て絶命した男のことが再び脳裏によぎる。
「おい、大丈夫か!!」
ハルト達が走ってその男の所へ行く。ヒト族のようだ。そして胸には『独立と勝利軍』の紋章が付いている。嫌な予感がする。
「……仲間が、街に潜んでいた仲間がゴブニル軍の襲撃を受けて壊滅した。街にいるヒト族の、一般民への虐殺も始まった……。バドさんは、バドさんはどこ……」
ハルト達は再びもたらされたその最悪な知らせに、目の前が真っ暗になった。




