49.五人目の隊員
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『あーかい ほのおに 手をだすな』
『あーかい よろいは 見てにげろ』
『あーついぞ』
『いーたいぞ』
『あーかい ほのおは おにのいろ』
どこからともなく聞こえてくる村の子供の唄。
ハルトは歩きながらそんな歌声に耳を澄ました。今日この村を発つつもりだ。そしてここを出発する前にガレフに会いたいと思い、ハルト達は食堂へ向かっていた。
「もう行くのか?」
ガレフは挨拶にやって来たハルト達に少し寂しそうな顔をして言った。
「ああ、色々と世話になった。ありがとう」
ハルトはガレフに軽く会釈をして言った。ガレフが言う。
「助けられたのはワシらの方じゃ。気を付けてな。いつでもまた遊びに来るが良い」
「ありがとう、ガレフさん」
ルルがお礼を言う。クレアは少し小悪魔的な顔をして言う。
「ねえ、ガレフさん。私が行き損ねたら、ちゃんと貰ってよね」
クレアが砕けた指輪がしてあった指を差して笑う。
「ワシがまだ生きておったらな。がははははっ!!」
ハルト達はしばらくガレフ達と笑談した後、お礼を言い店を出た。
ハルト達は誰が言うでもなく店の敷地にある墓標へと向かう。そしてハルト達はその墓標の前で膝をついて手を合わせた。
クレアが首にしていたネックレスをその墓標に掛けて再び手を合わせる。
「そのネックレス、いいのか?」
それに気付いたハルトがクレアに尋ねた。ネックレスは先にマルクに貰った物で、そこには回帰石が付いている。旅の無事を祈り必ず戻って来られると言うお守りの石だ。
「うん、いいの」
クレアが心の中でマルクに話し掛ける。
(このお守りあなたに返すわ、マルク。いつか生まれ変わってまたここに、ガレフ達の元に帰って来れるように。私は大丈夫。ルルにハルトがいるから)
クレアはにこっと笑って立ち上がる。そしてハルトの方を向いて言う。
「ね、そうでしょ? ハルト」
「ん? なんだ?」
ハルト達は小さな勇者マルクに別れを告げて、登壁の村を旅立った。
「よお、ガレフ」
久しぶりに店を訪れたスティンにケルン、そしてガド。店の前の看板を見てガレフに言った。
「本当に変えたんだな、店名」
「ああ」
「『真紅の五鬼将』とはねえ、最初は驚いたよ……」
登壁の村の食堂『アカオニ』は、数日前より『真紅の五鬼将』と名前を変えて営業を再開していた。
「ああ、五鬼将の名を出してひとつでも救える命があるならば、それはワシの本望」
「そうだな」
実際店名を『真紅の五鬼将』に変えてから「登壁の村に五鬼将あり」との噂が広がり、急激にこの辺り一帯の治安が向上していた。
「それに、あの鎧。何だか恥ずかしいんだがな……」
スティンは少し苦笑いしてガレフに言った。店内にはバイス隊長の分を含めた五つの真紅の鎧が飾られていた。犯罪防止の抑止力にと店内に置かれている。
「あんなカビ臭いところに置いておったら鎧も可哀そうじゃしな。まあでも、隊長の鎧があるといつも監視されているようで落ち着かんのが本音じゃがな」
「そりゃそうだ!」
ガレフ達は笑いながら大声で言った。
ある日、食堂にやって来た若い冒険者達。
噂に聞いた真紅の鎧を見て、皆が驚嘆の声を上げる。
「おお、これが伝説の五鬼将の鎧! すげえ、本物だ!!!」
興奮気味に話す冒険者達。そのひとりがガレフに向かって言う。
「あ、あなたが副隊長のガレフさんで?」
ガレフはカップを拭きながら頷く。
「すごい、すごい、本当にいたんだ『真紅の五鬼将』!! 小さい頃に読んで貰った本の通り!!!」
若いセレスの冒険者達にとってガレフ達は子供の頃本で読んだ憧れの英雄であった。本の中の英雄、それが本当に目の前にいる。皆の目が輝く。
そして鎧を見ていたひとりの冒険者があることに気付いてガレフに尋ねる。
「あれ、この剣は何だろう?」
五鬼将の鎧に抱かれた一振りの木製の剣。やや短く、黒く滲んだような汚れがついている。連れの冒険者が言う。
「玩具じゃねえのか? こんなんじゃ魔物は倒せねえよな」
冒険者達はその木製の剣をまじまじと見て言う。
「これはな……」
いつの間にか近くまでやって来たがレフがその一振りの剣を持って言う。
「大切な剣じゃ。勇気を与えてくれる剣でな、ワシはいつもこれで魔物を倒しとる」
「へえ、やっぱり五鬼将はすげえなあ!!」
若き冒険者達は剣を持つガレフを改めて尊敬の眼差しで見つめた。
――僕も強くなってみんなを守りたい。
剣を持つガレフの目に光るものが溢れる。
(新しい五人目の隊員はお前じゃ、マルク。ここでいつまでもワシらと共にみんなを守ってくれ)
そう心の中でガレフは言いながら、その木製の剣に刻まれた『マルク』と言う文字を優しく撫でた。




