46.司祭ベルサージ
「グラス教司祭ベルサージ、だと!?」
ガレフ達は突如現れた司祭を名乗る男を見つめて言った。その身より放たれる禍々しいまでの魔力。これまでの連中とは全く違う強さを感じる。
「副隊長……」
「ああ、気を付けろ。あやつは強い」
ガレフ達に緊張が走る。ベルサージが言う。
「えらくうちの子達をやってくれましたね。で、あなた達誰ですか?」
ベルサージは積まれた教徒の遺体の山、そして斬られて倒れているドゥークの亡骸を見て言った。
「ワシらはただのジジイ。ここに来たのは害虫駆除の為」
ガレフは静かに言った。
「害虫? 我々がですか?」
「他に誰がいる?」
ベルサージは不気味な笑みを浮かべて頷いた。
「まあ、いいでしょう。代わりなど幾らでも集められる。その前にあなた方にはそれなりの報いを受けて貰わなければなりませんがね」
ガレフは長剣を構える。スティンやケルン、そしてガドもそれぞれの武器に手を掛ける。
「今日は間もなくグラリス様がいらっしゃる。このような醜態をお見せする前に、私も害虫退治を始めましょうか」
「なにを!!!」
ガレフ達はベルサージに向けて攻撃を仕掛けた。ベルサージが素早く魔法の詠唱を行う。
「暗黒障壁」
ベルサージは持っていた杖を掲げ暗黒魔法を唱える。その杖を中心にドーム状に広がる薄黒い空間。それはまるで彼を守るかのような壁となる。更に詠唱を唱え始める。
シュン!!
まず飛んだのはスティンのマジックアロー。光速でベルサージへ向かって放たれたが、彼の造りだした暗黒障壁に触れると速度が落ちやがて消えた。
続いてケルンが短剣を、そしてガレフが長剣を持って斬り掛かったが、やはり暗黒障壁に触れると急速に動きが鈍くなってしまう。
そしてベルサージの二つ目の魔法が放たれた。
「黒き波」
ベルサージは持っていた杖を今度は水平に振った。すると辺りの空間が黒色に染まり波のようにさざ波を打って周囲に広がる。その空間の波はベルサージから離れれば離れる程大きく、そして威力を増していく。
「下がれ!!! うごおおおおおお!!!!」
本能的に危険を感じた巨漢のガドが皆の前に立ち両手を広げる。
「防衛専心!!!」
ドーーーン!!!
「ぐぐぐっ……」
荒れ狂う大波となり向かって来る黒の衝撃波。それを両手を広げ、全身で受け止めるガド。防御力に優れた真紅の鎧はその衝撃を受け止め耐え抜くが、波の一部が鎧をすり抜けガドの肉体を襲う。
「ガド!!!」
苦痛の表情を浮かべるガドにガレフが叫ぶ。
「だ、大丈夫だ。それより早く奴を……」
「分かった!!」
ガレフ達はガドの無事を確かめると、再び素早くベルサージに走り込んで斬り掛かった。ベルサージが杖を構え魔法の詠唱を始める。
「暗黒障壁」
そして驚いたことにベルサージは更にもう一枚結界を張った。
「なっ……!?」
勢いよく斬り込むガレフ達。
しかし結界の中では更に体が重く、動きが遅くなる。斬り掛かった剣も簡単にベルサージの杖で弾かれた。
「ファイヤーボール」
ベルサージは右手を差し出すとその指から初歩的な火炎魔法を放つ。
(この程度の攻撃……)
ガレフがその火球を長剣で撃ち落とそうとするが、剣の重さに体がついて行かない。
(何っ……!?)
ドン!!
「ぐわあああ!!!!」
ファイヤーボールの直撃を受け吹き飛ばされるガレフ達。
「ぐぐっ……」
ケルンの手を取り立ち上がるガレフ。既に長時間の戦闘でかなりの体力を消耗していた。思わぬ強敵。そしてもうひとつガレフ達の計算外であったのは予想以上の「老いによる劣化」であった。
「年は取りたくないの……」
昔のように体が動かない。この程度の戦闘で疲れを見せるなど以前ならあり得ないことであった。しかしガレフは自分に対して戒めるように声を上げた。
「鎧に助けられていてどうする! 我らは無敵の真紅の五鬼将。数々の修羅場を潜り抜けてきたセレスの誇り。この程度の魔法使いに屈しはせぬぞ!!!」
ガレフが皆を鼓舞するように語気を強めて言った。
「ガレフ……」
ガレフはベルサージを睨みつけ、そして剣を構える。自身の鼓舞に呼応する様にぐんぐん上がるガレフの闘気。そしてそれはまさに赤い閃光のように一直線に敵に向かって走り出した。
「長技・赤き閃光!!!」
赤き光になってベルサージに攻撃するガレフ。
「はああああああ!!!!」
ドーーン!!!
暗黒障壁によって威力は軽減されたが、それでも攻撃に特化したガレフの大技は確実にベルサージを捉え、ダメージを与えた。
「ぐっがあああーーー!!!」
直撃は避けたが防御に使った杖は折れ、そして腕から鮮血を流すベルサージ。その顔は紅潮し怒りの表情を浮かべる。
「はあ、はあ……」
攻撃に特化したガレフの大技。しかし防御を捨てて放たれる技の為、攻撃の際にベルサージの反撃を受けたガレフ。胸のあたりの鎧は砕かれ、そしてそこから鮮血が流れている。
「ガレフ!!!」
ガレフの負傷に気付き、駆け寄るスティン達。すぐさま回復魔法を掛ける。
「ありがとう、少しは楽になった……」
しかし皆は心から驚いていた。
――ガレフの大技で致命傷を与えられない……
たかだか魔法使い。
そう侮っていたのは自分達の方かもしれない。年老いたとは言え真紅の五鬼将を追いつめるのは、そう40年前のあの時以来である。
「貴様ら、許さんぞ!! 私にこれほどまでの傷を負わせたことを!!!!」
激高したベルサージが再び魔法の詠唱に入る。
「黒き波!!!!!」
再び放たれる暗黒の波。再度ガドがその防衛に入るが、衝撃を受けながら唸り声をあげ全身から出血し始める。
「下がれ、ガド!! 体が持たぬぞ!!!」
その声と同時に後ろに大きな音を立てて倒れるガド。防御壁を失ったガレフ達もその波を正面から受ける。
「ぐわああああ!!!!」
後方に吹き飛ばされるガレフ達。
――強い。半端ない強さ
しかしガレフは自分に力を与えてくれるあの言葉を思い出した。
『ガレフは強いんだ』
まだ負けぬ!!
ガレフは再び立ち上がると全身に最後の闘気を纏った。
「長技・赤き閃光!!!」
再度高速でサルベージに突入するガレフ。目の前に迫るベルサージ。ガレフは最後の力を振り絞って斬り掛かった。
シュン!!
「な、なに……!!」
ガレフの長剣はベルサージにかわされた。
余裕を持ってかわされてしまった。ガレフ自身気付いていない老いや疲れによるスピードやキレの劣化。それは先に放った時より格段に劣っていた。
「ファイヤーボール」
ドン!!!
「ぐわあああああ!!!!!」
再び火球の直撃を受け吹き飛ばされるガレフ。ベルサージがゆっくり歩み寄りながら言う。
「強かったですよ、あなた達。真紅の五鬼将など過去の遺産かと思っていましたが、どうしてどうして。見事でしたよ」
「くっ……」
ガレフは倒れたまま動けなかった。このままでは殺られる。
「ただ、私を相手にしたのは間違いでしたね。グラリス様の魔力で強化されたこのベルサージ様と」
ベルサージはガレフの近くまで行くと、折れた杖を突き付け魔法の詠唱を始める。
「では、おさらばです」
ベルサージが杖をガレフに向ける。
「副隊長ーーー!!!!」
「ガレフーーーーっ!!!」」
その時であった。
五鬼将とは違う別の声がその後方より響いた。
「サンダーボルトおおお!!!!」
ドーーン!!!
「くっ、何事!?」
突如ベルサージの目の前に落とされた雷の柱。後退して構えるベルサージ。その声の主は五鬼将の後ろから現れた。
「バ、バイス隊長!? ……いや、お主は……まさか!?」
ガレフがその姿を見て驚き叫んだ。
真っ赤な鎧を着て佇むひとりの召喚士。それはまさに亡き隊長バイスそっくりであった。
「ハルト!!!」
「助けに来たぜ!!!」
ハルトの鎧は途中の雑兵との戦いで返り血を浴び、見事に真っ赤に染まっていた。その姿はまさに『真紅の五鬼将・隊長バイス』を彷彿とさせるものであった。
「ガレフ!! 大丈夫か!!」
ハルトはガレフの元に駆け寄り肩を貸す。ルル達は他の将達の回復を始める。
「ハルト、どうしてここが?」
そう尋ねるガレフにハルトが答える。
「マルクが教えてくれたんだ」
「そうか、マルクが……」
ガレフの目に再び涙が浮かぶ。
「隊長が、マルクが見ておる。これ以上不甲斐ない姿は見せられん」
ガレフはそう言うと今度は赤き闘気を纏って再び立ち上がった。




