40.マルクのプレゼント
「はい! 右、左、横っ。ほら、下がお留守よ!!!」
ダン!
「あ痛たたたたっ!!!」
新しき【ヒトナキモノ】とも契約でき、少し休んだら登壁の村を発とうと思っていたハルト。
しかしクレアがマルクに剣術を教えるという約束をしてしまった為、仕方なくもう暫く滞在する事となった。
カンカンカン!!
「もっと強く!!」
マルクは必死に剣を打ち込むがクレアはビクともしない。
(こ、こんなに細い腕なのに……、やっぱり本物の剣士は凄いや!!)
マルクは改めて剣術を習っていると実感し嬉しくなる。
「何、ぼうっとしているの!! ちゃんと防ぎなさいよ!!」
ガンガンガン!!!
クレアは容赦なくマルクに剣を打ち込む。マルクは必死になって手にした木製の剣でそれを受ける。
マルクが手にしている木製の剣。その剣の根元には『マルク』と自分の名前が彫られている。クレアはその剣を見ながら数日前のことを思い出した。
「クレア殿」
クレアがハルト達と「アカオニ」で食事をしていると、ガレフが周りを気にしながらやって来た。
「どうしました、ガレフさん?」
クレアがガレフを見て言う。少し態度が違う。ガレフは後ろに持っていたある物をクレアに渡した。
「これは……?」
渡されたのは一振りの木製の剣であった。それはまだ幼きマルクの為に短く作られた木製の剣。刃の根元に『マルク』と彫られている。ガレフが小声で言う。
「これを、剣の鍛錬に使ってくれ」
「えっ?」
クレアはその剣を受け取りながらガレフの顔を見る。クレアが言う。
「ごめんなさい。私、ガレフさんの断りもなく受けちゃって……」
ガレフが首を振りながら言う。
「いいんだ。いずれはこうなると思っていた。マルクもお前さん達に懐いているようだし、しっかり教えてやって欲しい」
ガレフはその白髪交じりの頭を下げて言った。クレアが慌てて言う。
「いえ、そんな。私なんかよりガレフさんの方が……」
そこまで言うとガレフは「じゃあよろしく」と言ってその場を去った。
後日、剣の鍛錬の際にマルクへその木製の剣を渡すと当然の如く喜んだ。そして、
「僕にぴったりの剣だ!! ありがと、クレアお姉ちゃん!!!」
と目を輝かせて言った。
ガレフからの贈り物だとは言わなかった。いずれ気付くだろう、いやもう気付いているのかもしれない。クレアは野暮なことは言わないでおこうと心に決めた。
鍛錬が始まって数日経ったある日、マルクはクレアにひとつのお願いをした。
「クレアお姉ちゃん、お願いがあるんだ。郊外にある洞窟に行きたい」
クレアは剣の鍛錬で流れた汗を拭きながら言う。
「洞窟? どうして?」
マルクはクレアの横に座って言う。
「その洞窟には色々な薬草が生えているんだけど、ちょっと前からガレフが『腰が痛い』って言ってるから採って来てあげようと思うんだ」
「そうなんだ! う~ん、ちょっと待ってね」
クレアは少し離れたところにいたハルトを呼び、洞窟のことを話した。ハルトがマルクに尋ねる。
「洞窟には魔物は出るのか? 出るならどのくらいのレベルだ?」
ハルトの問いにマルクが答える。
「う~ん、初級よりちょっと強い程度かな?」
ハルトはしばらく考えてから言う。
「クレア同行ならいいと思う。まあ剣の鍛錬にもなると思うし。クレアもどうしてもって言う時以外は手を出さないこと、行けるか?」
「ええ、問題ないわ」
「やった!!」
マルクは喜んではしゃぎ回った。
その日の午後、早速洞窟へ向かうクレアとマルク。村から近い山の麓にある洞窟で、周りの魔物も予想通り低レベル。恐らく洞窟内も問題なさそうである。
ゆっくりと中に入る二人。案の定、襲ってくる魔物は木の剣を持ったマルクでも十分戦えるものであった。
「はああ!!!」
ガンガン!!
マルクはまるで水を得た魚のように生き生きと魔物を倒していく。動きも練習の時よりずっといい。本気で、本当に強くなりたいんだ、とクレアは思った。
(……あれ?)
洞窟の先へと進む中、クレアはある異変に気付いた。
ひとつは臭い。焦げたような匂いが時々する。そしてもうひとつは真っ黒になった魔物の亡骸。それも歩いていて見えない場所に隠されている。
そして三つ目。よく目を凝らして先を見ると、空中に大きなウナギが泳いでいる。
(……なるほど、ハルトね)
クレアはすぐにそれを理解した。自分達より少し先にハルトのルフトアールがいて、強い魔物だけ倒してくれている。それでも万が一の場合は自分がマルクを守る。クレアはクスッと笑って一人奮闘する小さな勇者を見つめた。
「あったーーー!!!」
洞窟の奥、そのお目当ての薬草は、まるでマルクを待っていたかの様に可憐な光を放っていた。
「あら、綺麗な薬草ね」
クレアも喜んで言う。
「うん、これでガレフも元気になるぞ!!」
マルクは薬草を採りカバンに入れる。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん!!」
マルクとクレアはハイタッチをし、出口へと向かった。
「何? これをワシに?」
マルクから渡された薬草を目にしたガレフが驚きの表情を浮かべる。マルクは満面の笑みを浮かべる。
「うん、さっき採って来た。これで早く腰を治して」
「お前が、採って来たんか……!?」
マルクは大きく頷きながら言う。
「そうだよ! 僕が魔物達を全部やっつけて採って来たんだよ!!!」
「なんと……」
ガレフは目が熱くなるのを胡麻化すように薬草を受け取ると、マルクに言った。
「さあ、仕事じゃ。疲れているだろうが、それは別の話。しっかり働けよ!」
「えー、休憩もなし??」
「当たり前じゃ」
「ちぇっ……」
マルクはガレフに何度も頭を撫でられながら支度部屋に入って行った。ガレフがクレアに言う。
「クレア殿、ありがとう。お主らの助力があっての話じゃろ」
ガレフは涙を拭きながらクレアにお礼を言った。
「ううん、私は付いて行っただけ。あの子、本当に頑張ったんだから」
「そうか、そうか……」
ガレフは更に目に涙を溜めると大切そうに薬草を撫でた。
そしてクレアがガレフとの話を終え店を出ようとすると、後ろからマルクに呼び止められた。
「クレアお姉ちゃんーーー!!!」
クレアは振り返って返事をする。
「どうしたの?」
マルクは再び満面の笑みを浮かべて「はい」と言ってあるものをクレアに渡した。
「えっ!? 何これ? ペンダント……?」
マルクから渡されたのは青く透き通った宝石のような石で、ドーナツのように真ん中に穴が開いている。そしてその穴に紐が通されており首から掛けられるようになっていた。それに気付いたガレフが言う。
「おお、それは回帰石じゃな」
「回帰石?」
クレアが少し首を傾げる。ガレフが続ける。
「ああ、そうじゃ。どこから出発しても一周して同じ場所に戻って来る。だから必ず帰って来れると言う意味で、この辺りの旅人や冒険者が安全を祈って好んで付けるお守りじゃ」
クレアがまじまじとその美しい石を見る。
「さっき洞窟で見つけたんだ。クレアお姉ちゃん、自分の国へ帰るんでしょ? だから無事に帰れますようにって思って」
クレアは目を閉じてそのペンダントをつける。
「うわああ、よく似合う!!」
マルクが感嘆の声を上げる。クレアがマルクの頭を撫でながら言う。
「ありがと、マルク。本当に嬉しいわ……」
クレアも目が熱くなるのを必死に堪えながら、マルクを優しく抱きしめた。




