39.セレス戦役(下)
セレス王国軍最後の精鋭部隊である真紅の五鬼将。その隊長バイスに対峙する魔物軍大将。自身より大きな剣を振りかざし斬りかかる。
ガン!!!!
交わる剣と剣。鋼がぶつかる鈍い音が辺りに響く。
「隊長!!!」
その戦いに気付いた他の隊員達が叫ぶ。
「大丈夫! 俺に任せろ!!!」
バイスはそう言うと剣で絶え間なく攻撃を続ける。
轟音を響かせながら交わる剣と剣。バイスの激しい攻撃を防ぎつつ、敵大将もそれに負けぬほどの強力な斬撃を繰り出す。その光景はセレス戦役で最も激しく、そして高尚な戦いと言われた。
お互い一歩下がり、肩で息をする。そしてバイスが叫ぶ。
「アカオニ!!! 行け!!!!」
いつの間にか敵大将の背後に立つ真っ赤な鬼。アカオニが素早く鋼の棍棒を叩きつける。
ドン!!
「ぐっ!!!」
不意打ちを食らった魔物の大将が膝をつきながらも体勢を立て直し一旦引く。
「お前、召喚士か……」
頭から血を流しながらつぶやく魔物の大将。
「もう手加減はせんぞ。全力で行く!!!」
魔物の大将はそう言うと大声で咆哮する。そしてこれまで以上の闘気を放ちその顔はまるで血を求める修羅の様に変化する。叫び声を上げ、剣を振りかざしバイスに斬り込む。
「グガガガガガアアアーーー!!!」
ガンガン!!!
強かった。
闘気を纏った魔物の大将は圧倒的力でバイスを追い込んだ。押される隊長を目に、他の隊員も助太刀にと加勢したが、それでも敵大将の勢いを止めることはできない。
「ぐわああああ!!!!」
じわじわと押される真紅の五鬼将。別の魔物達も絶え間なく襲ってくる。攻撃を受け、真っ赤な鎧のごとく全身から血を流す隊員。血を吹き出しながらバイスが皆に言った。
「みんな、俺に力を貸してくれ!!!」
隊員達はその呼び掛けの意味を理解し頷くと、ある陣形を取りそして動きを止める。バイスが叫ぶ。
「昇華!!!!」
バイスが叫ぶ。すると隣にいた【ヒトナキモノ】アカオニが白く輝き始める。
「ウオオオオオオ!!!!!」
アカオニの姿は神々しく、そして力がどんどん漲っていく。発せられる闘気も敵の大将を凌駕する勢いである。
「行け!!! アカオニ!!!!!」
バイスの命を受け魔物の大将に突進するアカオニ。
「グウオオオオオ!!!!」
ガン、ガーーン!!!
交わる剣と棍棒。その一太刀一太刀に大地が震え、空が共鳴する。
「隊長の最終手段。昇華アカオニ……、それほどの相手とは……」
隊員達はその輝く【ヒトナキモノ】を見つめた。昇華させることでより一層強力な力を得る【ヒトナキモノ】。ただしそれは召喚士の召喚力、そして生命力を激しく消耗する禁断の術でもあった。
「グワアアアアア!!!!」
アカオニと敵の大将。その戦いはまさに互角であった。
打っては引き、斬っては引く。一進一退の攻防。ただ時間を掛ければ掛ける程、消耗が速いアカオニが不利になっていく。
「ぐぐっ……」
少しずつ体力が落ち始めるバイス。体力、そして召喚力共に激しいが続く。それを察した隊長は覚悟を決め最後の攻撃に出た。
「グワアアアアアン!!!!」
「!?」
アカオニは敢えて攻撃を受けながら、敵大将の背後に回って体を押さえつけた。そして長剣を持ち鬼の形相をしたバイスが敵に突っ込む。
「た、隊長ーーーーっ!!!!」
グサッ!!!
その長剣は敵の大将、そしてアカオニ諸共一緒に突き刺した。
「ぐはっ!!!」
口から血を吐く隊長バイス。
自身の【ヒトナキモノ】を刺すと言うことは自分を刺すと同じ意味。
「はああああ!!!!」
ザン!!!
「グウワアアアアン!!!」
そしてバイスは残った力で長剣を振り、敵大将にとどめを刺した。血を吹きながら倒れる大将。同じくバイスもその場に倒れる。
「た、大将が、大将がやられた!!!!」
魔物軍最高司令官である大将が討たれ、慌てふためく魔物達。それを見た国王軍が勢いづいて逃げ始める魔物達を追撃する。
「隊長!!!!」
「バ、バイス隊長っ!!!!!」
真紅の五鬼将達は倒れたバイスの元に集まる。
「隊長、隊長、すぐに手当てを!!!」
しかしバイスは自身の胸に空いた大きな穴を手にして言う。
「俺はもういい。ただ大将を殺ったので魔物達はもう大丈夫だろう……」
「隊長、何を言う……」
隊長達は涙を流し始める。バイスが続ける。
「平和な世がやってくる。これからは武器を捨て、皆で仲良く暮らせ……」
そう言うとバイスは、副隊長の男に自分が付けていた指輪とネックレスを渡す。
「隊長、隊長!!!!」
バイスは最後に皆に笑みを見せると、そのまま動かなくなった。
パタン
ハルトは一気に『セレス戦役』を読み本を閉じると、宿の女将に尋ねた。
「なあ、女将。これって実話だよな。この『真紅の五鬼将』ってこの後どうなったんだ?」
女将は少し眉間にしわを寄せて言う。
「実話だと思うけど、どうだろうね。その人達がどこに行ったかは誰も知らないよ」
ハルトは礼を言うと、過去の英雄に敬意を表しながら本を本棚に戻した。




