34.登壁の村
ヘブンズウォールを下って来たハルト達。
周りには平原が広がり、遠くには深い森も見える。そして背には高く聳える巨大な壁。改めてその壁を見上げる。
「高ぁーい!!」
クレアが雲に隠れて上が見えなくなってしまっている壁を見て声を上げる。
「あの壁を越えて来たんだな……」
ハルトも感慨深く言う。
「少しずつ国に近付いてるよね……」
ルルの顔が少し笑顔になる。
「そうだな、まずは情報収集だな。あそこに集落が見えるんで行ってみよう」
ハルトの指差した先に、壁に寄り添うように幾つかの建物が建っている。街と言うほど大きくはないが、何やら煙などが立ち上がっており活気はあるようだ。
「こんなところに集落があるんだね」
ハルト達はその集落「登壁の村」にやって来て、意外と活気があることに驚いた。
壁に接するように幾つかの建物があり、また通りを挟んで武器屋、宿屋、そして食堂なども見える。
行き交う人々の多くはヒト族のようで、時折ドワーフやらエルフらしき姿も見える。集落を歩くハルト達。
♪
『あーかい ほのおに 手をだすな』
『あーかい よろいは 見てにげろ』
『あーついぞ』
『いーたいぞ』
『あーかい ほのおは おにのいろ』
どこからか聞こえてくる子供達の歌。通りでは村の人達が笑談している。
そんな集落の光景を眺めながら歩く一行。ハルト達はひとまず近くにあった宿に泊まることにした。荷物を下ろしてから「お腹が減った」と言うふたりの為に近くにある食堂に向かう。
「……アカオニ?」
「変な名前ね」
食堂の名前は「アカオニ」と書いてあった。クレアが人差し指を頬に当て不思議そうな顔をする。早速中に入るハルト達。
「いらっしゃい」
食堂にはヒト族であろう初老の男が迎えてくれた。立派な身躯。その体についた数多の傷。戦歴の冒険者だろうか。年を召しているとは言えその漲るエネルギーまでは隠しきれない。
ハルト達は空いている窓際のテーブルに座った。
店内はそれなりの人で賑わっている。冒険者らしき一行。家族連れのお客。そして真っ白なローブを着たひとりの女性など。壁には飛竜の里のものであろう七色の果実が描かれた絵画が掛けられている。
「注文は?」
初老の男がぶっきらぼうに言う。注文を告げるハルト達。ついでに尋ねる。
「この街は何て言うんだ?」
初老の男は不思議そうな顔をして答える。
「登壁の村だ。お前さん達は壁を登りに来たんじゃないのか?」
まさか壁を降りて来たとは言えない。リレルからは飛竜の里のことはあまり口外しないように頼まれていた。
初老の男はここは登壁に挑戦する冒険者が集まる村で、村の中央にある【登壁の階段】より頂上まで登ることができると教えてくれた。
「そうか。じゃあ、あいつらもここから……」
ハルトは壁上にあった【下界の門】より現れたクルセイダー達のことを思い出した。
「あいつら?」
初老の男は眉間にシワを寄せて言う。
「あ、いや、こちらの話だ。……そうだ、イリス王国って知ってるか? そこに行くのが俺達の目的なんだ」
初老の男は再び首を傾げて答える。
「イリス王国? 知らねえな、聞いた事もねえ」
「そうか……」
ハルト達は少し残念そうな顔をする。初老の男が言う。
「俺の名はガレフだ。お前さん達何か訳ありそうだが、協力できることがあるなら言え。遠慮はいらん」
ガレフはそう言ってハルトの肩を叩くと厨房へ戻って行った。
「イリス王国、まだ遠そうだな」
「そうね」
ハルト達の間に仕方がないといった空気が流れる。
「お姉ちゃん、剣士なんだ!!」
その声に気付いて振り返ると、クレアの傍にひとりの男の子が立っていた。腰に付けた剣をじっと眺めている。その目は輝き、興味津々である。クレアが言う。
「そうよ、私は剣士。僕はだぁれ?」
「僕はマルク。ここで働いているんだ!」
マルクは真ん丸な目をクレアに向けて言う。クレアが尋ねる。
「剣士に憧れているの?」
マルクは頷きながら答える。
「うん、僕強くなりたいんだ!!」
「どうして?」
注文した料理を持ってやってきたガレフが、そのやり取りに気付いて言う。
「これ、マルク。客の邪魔をするんじゃない。仕事しろ」
「はい」
ガレフに言われてマルクがホールへと戻る。
「可愛い子ですね」
クレアがガレフに言う。
「ああ、色々事情があってな。今ここで住み込みで雇っている」
ガレフは少し悲しそうな顔をして言った。ハルトが話題を変えるようにガレフに尋ねる。
「この辺りで【ヒトナキモノ】になりそうなのって何か居ないかな。そんなに滅茶苦茶強くない程度で」
ガレフがハルトを見て言う。
「お前、召喚士か? 等級はどのくらいだ?」
「だいたい中級ぐらいかな……」
ガレフは少し考えてから言った。
「……そうだな、村の郊外にある【雷神の洞窟】に行ってみたらどうだ?」
「雷神の洞窟?」
「ああ、そうだ。それなりのがいるはず。あと……」
ガレフはハルト達を見回して言った。
「あとお節介かもしれんが、【畏敬】のことは知っとるか?」
「畏敬?」
ハルト達は顔を見合わせてから言う。
「そうか、やはり知らんか。初級の冒険者だとまだ知らぬかもしれぬな。畏敬とはその道を究めた者達のことじゃ。強者ばかり。もし会っても決して相手をせぬようにな」
ガレフはそう言って料理を置いてその場を去った。
「畏敬……」
父ライド共に各地を転戦したハルトであったが、【畏敬】と言う言葉はほとんど聞いた事がなかった。それと当時に、イリス王国からは相当遠くまで来たのだなと改めて思わされた。
「あ、これ美味しいわよ!!」
「うん、美味しい」
ルルとクレアが美味しそうに料理を食べる。まだまだ長い旅になりそうだが、二人の笑顔を見ると元気を貰える気がする。
「ハルト、食べないなら貰うわね」
クレアはそう言ってハルトの肉をフォークで刺し、ぺロリと食べてしまった。
「私はこっちのデザート」
続けてルルもハルトの果物を食べる。
「お、おい、何やってるんだ! 俺のだぞ!!」
ふたりの姫はハルトの顔を見てきゃははっと笑った。




