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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第二章「ヘブンズウォール編」
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33.ひとつの願い

「黒炎」


再びハルトの腕から放たれる真っ黒な竜巻。空気を伝わって響く轟音。禍々しい黒色こくしょく。その圧倒的力を持った渦巻は、まるで天に昇る竜巻のようにゼノに向かって行く。突然現れたその禍々しき存在に気が付くゼノ。


「なっ……」


ゼノの顔がその黒き渦巻きを見て硬直する。


「ゼノーーーー!!!」


シノンが大声でゼノの名を呼び、両手を広げその前に立つ。彼女は何か必死につぶやいていた様だが、やがてハルトの黒き炎に飲み込まれた。




バタンッ


黒炎を放ったハルトはやはり以前と同じ様にその場に倒れた。同時に消えるヒトナキモノの聖飛竜ラクネル。

そして消えゆくハルトの黒炎の余煙。ただ黒き炎が消え去った後にゼノとシノンの姿はなかった。


「ハルトーーーー!!!」


ルルとクレアがハルトの名を叫んで駆け寄った。


「ハルト!! 起きて!!」


どれだけ呼んでも反応がない。前回同様に気を失っているようだ。リレル達飛竜もハルトの周りにやって来て心配そうに眺めた。





「あれ……、ここは?」


目が覚めるハルト。

視界には先日と同じように木と土で組まれた簡易的な建物の天井が目に入る。シーツが敷かれた藁の柔らかなベッド。すぐに隣にいたルルが声を掛けた。


「ハルト! 大丈夫!?」


「ああ、また気を失ったみたいだな……」


「そうよ、あなた運ぶの大変だったんだから」


腕を組んで傍に立っているクレアがつぶやく。


「すまない、すまない……」


ハルトが申し訳なさそうに言う。


「ちょっと待ってて。リレルさんを呼んで来るね」


ルルがそう言って部屋を出る。


「きゃあ!」


ドアから出て行こうとするルルが急に声を上げた。そこには既にリレルが立っている。


「ああ、すまない。ルル殿。ハルト殿! お目覚めか!!」


そう言ってどかどかと部屋の中に入ってくるリレル。


「ああ、今起きたよ」


「ご無事で何より……」


リレルは安堵した表情を浮かべて言った。


「で、ハルト殿。あの技は一体何でしょうか? 皆驚いています……」


リレルが尋ねる。ハルトが答える。


「俺の必殺技」


「えっ?」


「ごめん、冗談だ。俺に良く分からないんだけど、無意識で出る技。撃つとこうやって意識を失うんで使いたくないんだけどね」


ハルトは冗談っぽく笑って言ったが、内心ではこの得体の知れない力を使うことに一抹の不安を感じ始めていた。



「そうでしたか……、それにしても凄い威力でした」


「ああ。……で、ゼノ達はどうなった?」


途中で意識を失ったハルトはその後のことを知らない。リレルが答える。


「分かりませぬ。黒煙が消えた後、二人の姿はありませんでした。ただ……」


「ただ、何だ?」


「ただ、攻撃を受ける直前に気配が消えたというか、居なくなったというか、見てはいないので定かではありませんが、本当にあの二人を倒せたかどうかは分かりませぬ」


「そうか……」


ハルトは逃げられたな、と直感的に思った。


「ハルト殿。可能でしたらラクネルを召喚して貰えませんか。これから里長の所に行って報告をしたいので」


「ああ、分かった」



その後ハルト達はリレルと共に里長のところへ行きラクネルを召喚した。そしてラクネルと共にこれまでの経緯を全て皆に話した。

事情を説明するラクネル。ただ常に下を向き自信なさそうにしている。ハルトはその姿を横目でずっと見ていた。


数日後。体力が回復したハルト達はヘブンズウォールを降りることにした。

飛竜達にとって下界の汚れた空気では住めないとのことなので、ラクネルに送って貰ってからまた新たな【ヒトナキモノ】を探さなければならない。




そして別れの朝が来た。

斥候団団長リレル。そしてその団員達。その他多くの飛竜やそして里長が見送りに来てくれた。


「ありがとう、ハルト殿。どうかこの先もご無事で」


リレルが代表してハルトに挨拶をした。


「ああ、こちらこそありがとう。本当に世話になった」


しっかりと握手を交わすハルトとリレル。クレアとルルも目にうっすらと涙を溜めている。


「じゃあな! みんな!!!」


ラクネルに乗ったハルト達は、そう言って壁下に消えて行った。

壁を下るラクネル。ハルトはラクネルの耳元で何か囁いた。黙っていたラクネルだが、最後に大きく頷いた。

数分で無事地上に到着。少し蒸し暑い。ラクネルに別れを告げると、彼は一直線に壁を登って行った。





「リレルさん、あの、ひとつお願いが……」


里に戻ってきたラクネルは最初にリレルの元にやって来て頭を下げた。リレルは黙ってラクネルを見つめる。ラクネルは下を向いたまま言う。


「僕をまた団に入れてください……」


「目を見て話せ」


顔を上げリレルの顔を見るラクネル。


「僕を団に入れてください!」


しばらくの沈黙。周りにいる飛竜の団員達も静かになってそれを見守る。リレルが答えた。


「お前は一度たりとも斥候団を除名されたことはない。ずっと斥候団ここにいる」


「えっ!?」


驚くラクネル。


「団長の優しさだ。団長はずっとお前の帰りを待っていた」


(兄さん……)


ラクネルは亡き兄のことを思った。リレルが言う。



「ラクネル、俺はお前の兄のように優しくないぞ!! 覚悟はあるか!!」


ラクネルが答える。


「はい! 僕はもうどれだけ訓練が大変でも、どんな事が起きようが、必ず立派な斥候団員になってみせます!!」


リレルが言う。


「分かった。じゃあ、まずは並行飛行の訓練からだ、いいな!!」


「は、はい!! 頑張ります!!」


目を輝かせながら頭を下げる聖飛竜ラクネル。とても嬉しそうな表情をしている。


リレルは少し空を見て思った。



(リーヴァ様、あなたから託された大事な弟。この不肖リレルがきっと立派な飛竜に育てて見せます)


リレルの目から涙が流れる。


(そしていつかそちらでお会いした時、願わくば、貴方の下でまた一緒に翼を並べて飛びとうございます。それがこのリレル、たったひとつの願いでございます……)


リレルは気付かれないようにそっと涙を拭った。



「あれ? あれれ!?」


リレルがラクネルに目をやるとその姿が徐々に薄くなっていく。驚いたリレルが言う。


「どうしたんだ?」


「多分、ハルトさんが契約の解除をしたのでは……、契約した場所まで戻されます……」


リレルは頷きながら言った。


「じゃあ、すぐに戻って来い。()()()()飛んでな!!!」


「はい!!!」


ラクネルはしっかりと頭を下げるとそのまま完全に消え去った。

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