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護衛士ハルトとふたりの姫様  作者: サイトウ純蒼
第二章「ヘブンズウォール編」
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28.黒き果実

「ラクネル、何している!! 陣形を崩すな!!」


ハルト達が飛竜の里に来るそのずっと前、ラクネルは兄リーヴァが団長を務める斥候団に所属していた。斥候団は独自に動ける遊撃隊であり、高い飛行能力を持った精鋭が集まるいわゆる花形部隊であった。

しかしそれ故にその訓練は厳しいものであり、入隊後すぐに別部隊へと移る飛竜は後を絶たなかった。斥候団にて日々行われる激しい訓練。入団叶ったラクネルは兄の名を汚すまいと、日々必死にその訓練に耐えていた。


そして、


――自分も兄のようになる!!


入団したてのラクネルは、入ってすぐに頭角を現し団長にまで上り詰めた兄リーヴァを慕い、そして目標としていた。

だが入団後、彼は厳しい現実の壁にぶち当たる。



「ラクネル!! なぜそこで減速する!! 高速で平行飛行を続けよ!!!」


厳しいだけの訓練になら耐えることはできた。でも入ってすぐに分かった【才能のなさ】。それは努力だけではどうすることもできなかった。

一糸乱れぬ隊の動き、攻撃に防御の術、地理や天候を利用した戦術、そして戦局を創り上げる戦略。そのどの才もがラクネルに背を向けるように応えてくれなかった。

失態を犯す度に聞こえてくる嘲笑。しまいには後から入団してきた後輩にも抜かれていく。


そんなある日、その出来事は起きた。



「ラクネルーーー!! 左だ、左を見ろ!!!」


「えっ!?」


ドン!!


「うわあああーーーーっ!!!」


その日の訓練中、隊列を大きく乱したラクネルは横を高速で飛行していた仲間の飛竜に衝突しそのまま落下してしまった。


「いてててて……」


幸いお互い大きな怪我はなかったが、帰還後ラクネルは兄リーヴァに呼び出された。



「どうして真っ直ぐ指示通りに飛行しないのだ、ラクネル!!」


兄弟とは言え団に居る際のリーヴァは当然ながら他の団員同様、公平に平等にラクネルに接した。静かながらも真剣にラクネルを叱るリーヴァ。ラクネルは下を向いて小声で答えた。


「申し訳ないです、兄さん。僕も頑張っているんだけど……」


「兄さんではない!! 団長だ!!!」


「はい、だ、団長……」


その後もリーヴァはラクネルを厳しく叱咤した。ひたすら下を向き反省を口にするラクネル。

そしてこの日の出来事が、ラクネルの団における決定的な信頼の損失へと繋がって行く。



「団長、里長がお呼びです」


リーヴァを呼びに来る兵。その日も再びラクネルを注意していたリーヴァは、兵に頷くとすぐにその場を去った。

残されるラクネル。そしてそれを見ていた周りの飛竜達。その視線は冷たい。そしてラクネルに()()()()()()ひそひそ話が始まった。



(何であんなのが団長の弟なんだ?)


(コネで入ったのにまだ自分の実力が分からないのか)


(まっすぐ飛べない奴なんて斥候団に要るのか?)


ラクネルは決して兄のコネで入団した訳ではなかったが、いつしか団員の間ではそのような噂が広がっていた。



「違う、違う……」


ラクネルは小声でそう言うと、顔を青くしてその場から退出した。

見なくとも分かる隊員達の冷たい視線。耳を立てなくとも聞こえる嘲笑。妬み、卑下。様々な負の感情がラクネルにぶつけられた。


「ううっ、うううっ……」


ラクネルは自然と早足になってその場を離れた。我慢しても溢れてくる涙。自分の不甲斐なさを嘆く一方、これだけ頑張っているのに全く認めようとしない団長や仲間の飛竜達を恨む感情が沸き出してきた。



「あれ? ここは……」


ラクネルは気が付くと里の郊外にある深い森の中に来ていた。魔物も出る森への単独での侵入は固く禁じられていたが、今のラクネルにはそんな事はもうどうでもよくなっていた。



(悔しい、悔しい……)


いつからか彼の体からは負のオーラが出ていた。


(もっと力が、もっと強くなりたい……)


ラクネルが気付かないうちに、ひとつの影が近付いて来ていた。


「力を欲するか? では与えよう」


その影が言う。ラクネルは驚いてそこから離れ言う。


「お、お前誰だ!!」


影の人物はやがて真っ黒な服に身を包んだ男へと変化した。そして言う。


「私はグラリス。お前が望むのならば力を与えよう。これを食べるが良い」


グラリスはそう言うと真っ黒な果実をラクネルに渡した。


「これを、これを食べれば強くなれるのか!?」


グラリスに問うラクネル。頷くグラリス。もはや彼にとってグラリスが何者とか、それがどんな果実なのかは関係なかった。思いはひとつ。


――強くなれればいい。あいつらを見返せるような強さが欲しい!!


ラクネルはその黒い果実を手にすると、一気に食べた。



「ぐっ、グワあああ……」


ラクネルの体が黒く染まり始める。太くなる肢体。鋭く伸びる爪。そして大きく邪悪なオーラを放つ翼。目の焦点を失ったラクネルが言う。


「殺ス、全てヲ壊ス………」


魔人グラリスは不気味に笑って言う。


「ようこそ、魔竜ラクネル。その深き怨恨、心ゆくまで晴らすが良い。ふふっ、ふふふふっ……」


グラリスはそう言うと何やら魔法を唱えてその場から消え去った。




「お、弟ってどういうことだ? リーヴァ!!」


未だ状況が理解できないハルトがリーヴァに聞く。リーヴァは額に汗を流し、そして真剣な顔でハルトに答えた。


「以前、弟ラクネルは私の斥候団に所属していた。ただ、ある時を境に姿を消し、現れたかと思ったら魔竜へと変わり、そして不定期に里を訪れて同胞の飛竜達を殺すようになった」


リーヴァは辛い表情を浮かべハルトに言った。


「そんなことが……」


ハルト達は驚いて言う。


「里長よ、出撃します!」


里長が頷く。


「ハルト、一緒に……」


そう言うリーヴァを遮るようにハルトが言う。


「当たり前だ。俺も一緒に行く」


「ありがとう」


リーヴァに少しだけ笑顔が戻った。

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