27.違い
「これ以上死者を出したくなければ、降伏しろ!!!」
まだ女魔法士が放った爆裂魔法の砂塵が舞う中、クルセイダーの男が大声で言う。
「ふざけるな!!! 我ら飛竜族の誇りにかけてお前達を斬る!!!!」
珍しく息荒く、興奮気味に叫ぶリーヴァ。それに続く飛竜達の咆哮。皆興奮し、手にした武器を叩きカンカンカンと音を立て始める。
「リーヴァ、挑発に乗るな。気持ちは分かるが冷静になれ」
ハルトがリーヴァの耳元で言う。
「うむ……」
それでもなお鼻息が荒いリーヴァ。ハルトが続けて言う。
「俺に考えがある。聞いてくれ」
再びリーヴァの耳元で何か囁くハルト。それを頷きながら聞くリーヴァ。そして大きく頷き周りにいる飛竜達に何かを伝える。大人しく聞く飛竜達だが、その目は皆、確固たる決意に漲っている。
ハルトは続けて冒険者達に睨みを利かせながら、クレアとルルにも何か伝えた。
「行くぞ!! 攻撃開始!!!!」
ハルトが剣を天に掲げ叫ぶ。
「うおおおおおおおぉぉぉ!!!!」
その声を合図に飛竜達が一斉に冒険者に襲い掛かる。
「学ばない愚か共め。だから畜生なんだよ!!!」
クルセイダーの男は再びプロテクトを張る。女魔法士もクルセイダーの陰に隠れて再度詠唱を始め、そして召喚士も同じくグリスリーに攻撃命令を出す。
「やれ!!! グリスリー!!!!」
「ゴオオオオオオウ!!!」
指示を受けたグリスリーがやはり同じように飛竜の群れに突入する。そして再び防御役の飛竜がその攻撃を受けて、周りの飛竜も左右からまた同じように攻撃を行った。
「はああああっ!!!」
プロテクトを張り防御に徹するクルセイダーに、再び突入する代理団長リレルとクレア。
ガンガンガン!!!
プロテクト越しの攻撃、やはり威力は軽減される。余裕の表情を見せる冒険者達。先程の戦闘とほぼ同じ展開が繰り返される。
(無能共め!! 次こそ全員灰塵に帰してやる!!!)
心の中でつぶやくクルセイダーの男。この時点で勝利を確信していた。
だが残念ながらそこに散らばる、先程とは異なる幾つかの違いに気付くことはできなかった。
一つ目。
「はああああっ!!!」
ガンッ!!!
クレアが斬り込むプロテクトの障壁。その一瞬、ほんの僅かそこに隙間が生じる。瞬時にそれを感じ、声を上げるハルト。
「ルル!!!!」
シュン!!
「きゃあ!!」
クレアが作ったプロテクトの隙。そこを突いてルルが魔力を込めた矢を女魔法士に放つ。
この魔法の矢、先日の魔物との戦いで得たルルの新しい攻撃。威力はまだないが、その分速い。白く光るその矢は、まさに勝利へと導く一筋の光のようであった。
「大丈夫か!!!」
クルセイダーの男が声を上げる。ルルの放った矢は一直線に飛び、女魔法士を確実に捉えた。魔法の詠唱が止まる。一つ目の違いがルルの矢。
二つ目。
ルルの弓矢が命中した後、ハルトが召喚の詠唱を行う。それに気付いたクルセイダーの男が叫ぶ。
「気をつけろ!! また召喚するぞ!!!!」
今回クルセイダーに攻撃を仕掛けたのは代理団長クレアとリレル。前回と違いリーヴァリーヴァではなかった。これが二つ目。
続けて三つ目。
「上に気をつけろ!!!」
クルセイダーが大声で叫ぶ。同時に上空を見上げ、そして構える冒険者達。しかし上空には何もない。
「ここだ!」
ザン!!!
「きゃあああ!!!!」
その声は、リーヴァの声は冒険者の予想していなかった後ろから聞こえた。後方からの奇襲。全く予期せぬ場所から攻撃され慌てる冒険者達。そして負傷する女魔法士。これが三つ目。
「ぐっ……」
頼みの綱であった女魔法士がリーヴァの攻撃を受けその場に倒れ込む。
「お、おい?! しっかりしろ!!!」
クルセイダーの男の声が上擦る。そしてハルトが叫ぶ。
「行けええ!! 狙うは召喚士、突撃っ!!!!」
そして最後の四つ目。
それは慢心。今度はハルト達ではなく、冒険者の方が相手を見縊っていたこと。
「はああああっ!!!」
「グワアアアアァァァ!!!!」
ハルト達、そして飛竜連合部隊が一気に冒険者に襲い掛かる。女魔導士を落とし、狙いは召喚士へ。皆、素早く斬り込む。
「ぐわぁ!!」
召喚士がダメージを受けることでグリスリーが弱化。力が落ち、飛竜達に囲まれるグリスリー。
女魔法士の爆裂魔法、凶暴なグリスリー。二つの強攻撃を失った冒険者達。これで勝負は決した。
「くそお!! くそおお!!!」
如何に高度な防御を誇るクルセイダーでも、単騎、そして絶え間ない攻撃の前では倒されるのも時間の問題であった。
「ハルトーーー!!! やったぞーーー!!!!」
リーヴァの勝利を叫ぶ声が里に広がる。
やがて冒険者達は捕えられ頑丈な縄で縛られた。
戦闘終了後、里の広場に連行される冒険者達。少し距離を置いて、周りにはたくさんの飛竜が囲む。飛竜達の吐く息、そして呻くような鳴き声が響く。
頑丈な縄で縛られた三人の冒険者。クルセイダーの男が近付いて来たリーヴァを睨みつけた。
「殺せ」
クルセイダーの男が言う。
「……」
黙るリーヴァ。
「負けたんだ。殺せよ。俺達は冒険者。死ぬ覚悟ぐらいできてる」
そう言ってリーヴァを睨みつける。ハルトは黙って聞く。そしてリーヴァの口が開いた。
「お前達を地上へ送り返す。そして二度と来るな」
リーヴァは冷静にそう言った。驚く冒険者達。
「なぜ殺さぬ? またやって来てお前達を殺すぞ」
リーヴァは言う。
「本来ならば殺したい。だが殺しは殺しを、そして負の感情は負の感情を呼ぶ。負の連鎖は望まない。これがこの飛竜の里に昔から伝わる戒めだ」
召喚士の男、そして魔法士の女は既に涙を流している。リーヴァが続ける。
「里でのことは決して口外せぬこと、よいか!!」
頷く召喚士と魔法士の女。クルセイダーの男が小声で言う。
「ふんっ、覚えていやがれ……」
その後、冒険者達の装備や所持品は全て没収され、そしてそのまま別動隊の飛竜によって地上へと送り返された。ただし地上数十メートルから、死なぬ程度の高さから放り投げられて。
「本当に良かったのか、あれで」
冒険者達が去った後にハルトがリーヴァに尋ねる。リーヴァは目を閉じて答える。
「分からない。ただあれは何百年も続く先祖からの戒め。長い歴史の中であれが最善だと気付いたのだろう。悔しい気持ちはあるがそれに従っている」
「そうか……」
ハルトは仲間を殺されても決して感情的にならず、冷静でいるリーヴァはやはり団長の器だと思った。
その後リーヴァと共に里長に今回の件を報告にハルト達は向かった。
相変わらず腰の低い里長。リーヴァの話に頷きながらハルト達に礼を言う。
そんな時、ひとりの伝令が走りながらやって来た。
「も、申し上げます!! 魔竜ラクネルが飛来しました!!!」
「!!!」
周りの飛竜達に緊張の空気が流れる。冷静だったリーヴァの体が一瞬固まる。そして目の視点が宙をさまよう。
「リーヴァ、魔竜ラクネルって何だ?」
ハルトが尋ねると、リーヴァは真剣な顔をして答えた。
「俺の弟だ……」
ハルトはその意味がすぐには理解できなかった。




