26.違和感
「許さん、許さん、許さんぞーーー!!!!」
重装備の冒険者が大声で叫ぶ。
「折角、最小限の被害で済ませてやろうと思ったが、もう容赦しねえ!!!」
そう言うと男は右手を前に魔法を唱える。
「プロテクト!!」
男の前に薄い魔法障壁が現れる。物理攻撃、そして魔法攻撃の威力を軽減させる効果の魔法だ。それに気付いたハルトが言う。
「あいつ、クルセイダーか!!」
「ハルト、クルセイダーとは?」
隣にいたリーヴァが聞く。
「防衛のスペシャリスト。俺と違うのは、奴の場合体自体も頑丈だ」
クルセイダーの男を見ながら頷くリーヴァ。
「行けーー!! グリスリー!!!!」
召喚士である軽装の男が、呼び出した【ヒトナキモノ】グリスリーに命令を出す。
「ゴオオオオオオウ!!!」
耳を塞ぎたくなるような大きな咆哮。グリスリーは鋭利な爪を武器に単騎突進してくる。巨体の割に動きが速い。
「迎撃!! 各隊は陣を保って迎え討て!!」
リーヴァの代わりに指揮を任されているリレルが素早く各隊に指示を出す。
「はっ!」
分厚い鎧を装備し、防御に特化させた大柄の飛竜が盾役となりグリスリーの攻撃を受ける。その脇から素早く斥候隊が攻撃を仕掛け、更に別隊が上や後ろからも攻撃を加える。
しかしグリスリーは攻撃力もさることながら、その防御力も驚くほど高かった。何体もの飛竜が攻撃を仕掛けるが、ほとんどダメージが入らない。
「行くぞおおおーーー!!!!」
一方、リーヴァはクルセイダーの男に向かって突進する。
「はああああっ!!!」
ガン!!!
クルセイダーの男は魔法障壁越しに、巨大な斧を使ってリーヴァの一撃を受け止める。魔法障壁のせいでダメージがかなり減少している。
「はあっ!!」
ガンガンガン!!!
クレアも素早くクルセイダーに斬りか掛かる。
「どぐぅわあああああ!!!!」
クルセイダーはその攻撃も大きな斧で防ぐと、大声をあげて斧を振り回した。一度退くリーヴァとクレア。
ルルは待機。自分の弓では冒険者にダメージを与えられないことを理解している。ハルトはひとり状況を見ていた。
――何だ、この違和感?
圧倒的な数で優勢な飛竜軍。
数の力で押し切ればいずれ勝てるだろう。ただ冒険者達からは『負ける』と言った悲壮感はない。ある意味余裕すら感じる戦いぶりだ。ハルトは今一度目の前で行われている戦闘を注視する。
多数の飛竜に囲まれながらも孤軍奮闘するグリスリー。飛竜の攻撃力不足のせいか、大したダメージを与えられていない。必死にグリスリーの攻撃を耐える防衛役の飛竜達。敵の召喚士はその遥か後ろで観戦している。
一方クルセイダー。
リーヴァの激しい攻撃を強力な魔法障壁で防ぎながら、同時にクレアからの攻撃も防いでいる。顔には余裕すら感じる。
ハルトは考える。
――自分ならどうする?
圧倒的数で劣った戦闘。
勝つには相手の将を討つか?
陣形を組み防御に徹し、隙を突くか?
もしくは確実に一体ずつ仕留めていくか。
それとも………
(そうか!!! しまった!!!!)
ハルトが残った女魔法士に目をやると大きな杖を抱き、ずっと魔法の詠唱を唱えている。そしてその杖に付いた青い宝玉がどんどんと輝きを増していく。
「全員!!! 下がれーーーー!!!!!!」
残りの作戦。
そう、それは……
『一撃必殺の攻撃』
「ちっ、気付かれたか!! おい、戻れ!!!」
クルセイダーの男が大声で指示を出す。召喚士はクルセイダーのそばに行ってグリスリーを召喚界に戻す。魔法使いの女は輝く杖を天にかざして詠唱を続ける。
「プロテクト!!!!!」
冒険者三人が一か所に集まり、そしてクルセイダーが自分達を守るようにプロテクトを張った。
その現れたプロテクト。これまでものより桁違いに大きく、そして透けて向こうが見えないほど分厚く、色が濃い。
魔法使いの女が杖をゆっくりハルトと飛竜達に向けて言う。
「終わりよ。爆撃魔法・ヴィシュガルト・ボム!!!」
「退け!! 退け!!! 避難!!!!」
ハルトが大声で叫ぶも突如起こった事態に慌てふためく飛竜達。そうしている間にも彼らの目の前には炎の塊が現れ、それがどんどん大きくなっていく。
「くそーー!! ブロンズシールド・多連!!!!!」
ハルトは後退する仲間の前に今出せる最も強力で大きなシールドを可能な限り張った。
「さようなら」
女魔法士が小声で言う。クルセイダーの男がニヤッと笑う。
ドォォォーーーーーーン!!!!!
「ぐわああああああ!!!」
激しい閃光。衝撃、轟音。そして吹き付ける熱風。
直撃を受けた飛竜達の断絶魔の叫び声が一面に広がる。吹き上がる爆炎。いつまで経っても消えない爆風と熱。
「ぐぐっ、みんな、みんなっ!!!!」
防御姿勢を取りながら辛うじて耐えたリーヴァが仲間の安否を確認する。
数にして数十体。直撃を受けた飛竜が倒れている。そのほとんどが黒焦げており、もはや誰なのかも判別できないほどだ。
「くそお!! くそおおお!!!!」
副団長のリレルがやられた仲間の元に向かい大きな声で叫ぶ。
「リレル!!! 指揮を、指揮を執れ!!!」
目から涙を流しながらリーヴァがリレルに叫ぶ。
「は、はいっ!!!」
リレルが生き残った飛竜の中に戻る。
クルセイダーの男が前に出て来て言う。
「ほう、お前、護衛士だったか。運が良かったな。お前が居なきゃ、ほぼ全滅だったぞ」
ハルトは自分の拳を強く握った。
――俺の判断が、遅かった。
たった三人で登って来た冒険者。
多勢に無勢の戦いなど想定済みのはず。そんな彼らが無策な筈もない。少し考えれば分かることであった。
「ハルト!!」
リーヴァがハルトの横に来て言う。
「ありがとう、ハルトのお陰で被害が最小限で済んだ」
「いや、すまない。俺の判断が遅れた」
リーヴァがハルトの背中に手を当てて言う。
「責任は私だ。あの攻撃をまったく見抜けなかった。敵を軽んじていた」
ハルトも頷く。
敵の召喚士が大声で言う。
「舐めるんじゃないぞ、冒険者を!! 俺達は壁を登って来た冒険者なんだぜ!!!」
それを無表情で聞くハルト。小さく息を吐くと言った。
「ああ、確かに大勢で囲んでいて舐めていた感はあった。詫びる。だがこれ以上はやらせない!! ここからが真剣勝負だ!!!」
この戦いで初めてハルトが剣を抜いた。
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