24.輝く星のように
リーヴァに連れられて飛竜の里を歩くハルト達。その景観に思わず声をあげる。
「うわあ、綺麗」
里は緑あふれる美しい場所であった。
様々な色を付ける花々、生い茂る樹木。そこには不思議な七色の果実が実っている。
里の中央には大きな川が流れており、これまた見たこともない色の魚が泳いでいる。突き抜けるような深い空。その色は青と言うよりは濃くて深い紺色であった。
ハルト達はリーヴァに里長の元まで連れて行かれた。里長はとても腰の低い人物で、「リーヴァが認めたなら大丈夫」と言ってハルト達の滞在を歓迎してくれた。飛竜は元々客人をもてなすのが好きな種族らしい。
その後、急遽近くの森にて出現した魔物退治に向かう。
リーヴァにハルト、クレアにルル。そして彼の部下の飛竜によって無事にこれを撃破。特にリーヴァは聖飛竜と言って一族の中でも稀な力の持ち主とのこと。さすが団長と言ったところだ。
その夜、リーヴァやリレル、その他大勢の飛竜達と共に食事会が開かれた。
食事会場は屋外の広場。簡易的なテーブルが並べられ、たくさんの飛竜が集まって来ている。ヒト族であるハルト達をじろじろと見る飛竜も多い。
風が意外と冷たい。昼間は強い日差しが照りつけていたが、日が沈むと急に冷え込む。そして乾燥した空気。ここは高所なんだと改めてハルトは思った。
テーブルに座る一行。リーヴァがハルトの隣に座り話し掛ける。
「果物や野菜は大丈夫だろうが、肉は食べられるか?」
ハルトが話そうとするとクレアがひとりつぶやく。
「肉、肉っ!? な、生じゃないでしょうね……」
ウェアウルフの里で出された生肉を思い出すクレア。
「あはははっ。生じゃないぞ。我々は生も大好きだが、ヒト族は生で食べないことは知っている。多少は理解しているぞ、お前達を」
リーヴァは誇らしげに言った。
「そ、そうなの? それは良かった」
クレアが安堵の表情を浮かべる。ハルトがリーヴァに言う。
「で、リーヴァ。少し聞きたいんだけどいいか?」
待っていたかのようにリーヴァが答える。
「ああ、何でも」
「まず魔物。ここでもよく出るのか?」
「ああ、出る。我らを襲ったり森の中にいる動物を殺したりするので、定期的に駆除している。ただ魔物はまだいい。それよりも【下界の門】より現れる奴らの方が問題だ」
「【下界の門】?」
ハルトが首を傾げて尋ねる。
「ああ、ここは知っての通り壁の上。ハルト達みたいに飛んで来る奴はまずいないが、実は反対側の壁には地上から登って来られる階段がある」
「えっ!? そうなの??」
会話を聞いていたクレアが驚いて言う。
「ああ、その壁の上の出口に当たるのが【下界の門】。あそこを下りれば地上に降りられる」
「そうなんだ」
ハルトも驚いて言う。
「ただ、中には魔物が住んでいるのでそれ相当の腕がないと通過できない。そしてここからが問題なんだが、そんな危険を冒してまで登って来る理由がここにはある」
ハルト達は黙って聞く。
「昼間見た木々に実る果実。七色の果実を覚えているか?」
「ああ」
「あれは他種族には毒で食べられないんだが、地上では高額で売れる。それを求めてこの壁に挑む冒険者が後を絶たない。まあここまで登って来られる奴は稀だがな」
「そうなんだ」
ハルトは頷いて言う。
「大昔にはヒト族と交易を試みた先祖もいたそうだがヒト族の強欲さは酷いもんで、ある時我らを騙し討ちにして果実を大量に持って行ったことがあったそうだ」
「酷い……」
ルルが口を押えて言う。
「それ以後、我らはヒト族との交流を止め、静かにここで暮らしている」
「なるほど、だから最初会った時に強奪とか言ってたんだね」
ハルトが言うとウィーヴァが答える。
「ああ、その通りだ。てっきり果実を奪いに来た奴かと思った。まさか本当に通過が目的だったとは、私も驚いている」
リーヴァは少し反省しながら言う。
「それはいい。急にヒト族が現れればそう思うのも無理はない」
「そう言って貰えると助かる」
リーヴァは嬉しそうに言った。
「さて、料理が運ばれて来たぞ。お喋りはここまでだ。是非、飛竜料理を堪能してくれ」
運ばれてきたその料理は、クレアやハルトを満足させるのに十分なものであった。トカゲの姿焼きなどにはクレアは悲鳴を上げていたが、少なからずヒト族との交流があったお陰か味は何を食べても美味しい。
そして興味深いことに果実酒のような飲み物も出された。クレアは大層気に入り、フラフラになるまで飲んでいた。
食事の途中、ふとハルトはルルが居なくなっていることに気付く。
会場から出てルルを探すハルト。ひんやりとした空気が体を包む。少し離れた岩の上で一人座るルルを見つけ、ハルトは近付いて声を掛けた。
「どうしたんだい、ルル?」
ハルトに気付いたルルが言う。
「何でもないよ。星が綺麗だったから見ていたの」
そう言って頭上に輝く数多の美しい星を見る。ハルトもルルの隣に座って言う。
「本当だ、綺麗だね」
頷くルル。
ルルはハルトが隣にいる事を意識する自分に気付いた。顔を上げ、星を見ながら話し始める。
「星を見るとね、お母様を思い出すの」
「お母さん?」
ハルトが言う。
「うん。私のお母様はクレアとは違って正室じゃないの。私は遊びでできた子だったのかな。よく分からないけど、お母様は普段城にはいなかったの」
「そうなんだ」
「城下町の一軒家。そこに住んで居てね、お父様が可哀そうに思ったのか、月に一度だけ会うことができたの」
頷きながら黙って聞くハルト。
「でね、そのお母様が言うの。『ずっとは一緒に居られないけどそんな時にはあのお星様を見てね。あの星の様にずっとあなたを見ているから』って」
「うん」
ハルトが頷く。
「だからね、綺麗な星を見ると思い出しちゃうの。お母様を……」
ルルは青い髪を触りながらそう言った。
ハルトは隣に座るルルを見た。小さな体のルル。その体が少し震えている様に思えた。
「ルル、大丈夫。俺がずっと守ってやるよ」
ルルは驚きと共にハルトを見つめる。
「それって、ハルトが私をずっと守ってくれるってこと? あの星みたいにずっと?」
ハルトは少し考えて言う。
「星になるって、死んじゃうことだろ? それは出来ないけど、国に帰るまでずっと守る、約束だ」
ハルトはルルを見つめて真剣に言った。
「ぷっ、ぷぷっ、あはははっ!」
笑い出すルル。驚いた顔をするハルト。ルルが言う。
「うん、いいの。それでいいの、ハルトは! さあ、ご飯、食べに行こ!」
ルルはヒョイと岩から飛び降りるとハルトを会場へと連れ出す。
「あ、ああ……」
ハルトはどうしてルルが笑ったのか分からなかったが、少し元気が出たルルを見て安心した。
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