23.飛竜の里
「ハ、ハルト、その飛竜は……」
斥候団長リーヴァに掴まれたハルトがクレアの元に戻る。
「ああ、ちゃんと契約をした。安心しろ、こいつは敵じゃない……」
フラフラになったハルトが、筋肉隆々の眼光鋭い飛竜に鷲掴みにされている。クレアが苦笑いして言う。
「いや、そうかも知れないけど、絵的にはちょっとそう見えなくて……」
リーヴァはゆっくりと羽ばたき、ハルトをクレアの横に降ろす。そして二人に言う。
「さあ、乗れ! 急ぐぞ!!」
ハルトはその声に頷くと、ふらふらしながらリーヴァの背中に乗る。
「ええっ、今度はこれに乗るの……」
既にクレアの顔は真っ白になっている。
「早く、クレア……」
「う、うん……」
クレアはハルトに急かされてリーヴァの背中に登る。筋肉質の硬い皮膚。触ると妙に温かい。ゴールドバードのふかふかな背中とはずいぶん違う。
「行くぞ!!」
リーヴァはそう言うと垂直に飛び始める。
「ぎゃあああああ!!!!」
やはり今回もクレアが大声で叫ぶ。
ハルト達を乗せたリーヴァが飛び立つと、周りの飛竜達が大声で鳴き始めた。それを聞き、大きな声で牽制するように咆哮するリーヴァ。すぐに大人しくなる周りの飛竜達。
(待ってろルル、すぐに戻る!!)
ハルトは体に力が入らないながらも、必死にリーヴァにしがみ付きルルを案じた。
「ヒール!!」
半分ほど壊れたシールド。その奥で必死に防御しながら受けたダメージを回復するルル。
(ハルト、クレア……)
それよりも壁下に飛び降りた二人の事が心配でならなかった。
「ルルーーーー!!!!」
そんなルルの目に飛竜に乗ったハルトとクレアが映る。ルルの表情が明るくなって叫ぶ。
「ハルトーーー!! クレアーーーー!!!!」
ハルト達はルルの姿を確認すると直ぐにその前に飛竜と共に降り立った。
シールドを解きふらふらと飛竜から降りるハルト。ルルが飛び出して来てハルトに抱き着く。ハルトは力なくルルにもたれ掛かる。
「良かった、良かった……、え、えっ!? ハ、ハルト!?」
ぐったりしたハルトに驚くルル。ハルトが小声で言う。
「……大丈夫。ちょっと疲れただけ。飛竜は敵じゃない。すまん、ちょっと休ませてくれ……」
そう言うとハルトは目を閉じて全体重をルルに預けた。しっかりとハルトを抱きかかえるルル。そして心の中で言う。
――ありがと、ハルト。
ヒト族を乗せ、急に降り立った団長リーヴァに驚く周りの飛竜。皆が戸惑いの表情を見せる。
「グワアアアアァァァ!!!!」
リーヴァは大きく咆哮すると叫んだ。
「こいつらは敵じゃない、客人だ!!! 危害を加えることは許さん!!!」
それを聞いた飛竜達は小さく鳴き、皆大人しくなった。
「ハルト、大丈夫?」
ルルにもたれ掛かるハルトに肩を貸すクレア。
「うん、大丈夫。疲れたんだって。少し休ませてあげよう」
「分かったわ」
クレアが返事すると、それを聞いたリーヴァが近くに寄って来て言う。
「何故か私も力が出ない。召喚界に戻されるのかな。後は副団長のリレルに任せる」
リーヴァは頭上を飛んでいた比較的立派な飛竜に向かって何か叫んだ。その直後白くなって消えるリーヴァ。すぐに真上に居たもう一体の飛竜がクレア達の前に降り立つ。
「私は斥候団、副団長のリレルだ。どうぞこちらへ」
リレルはクレア達に背中に乗れと言った感じで低く姿勢をとる。二人はハルトを両側で支えながらその背に登る。ゴールドバードとは違って硬い背中。ルルがちょっと残念そうな顔をする。
「では、行くぞ」
そう言ってリレルは大きく翼を羽ばたかせる。勢いよく飛び立つリレル。飛竜の里にクレアの叫び声が響いた。
「あれ? ここは……?」
ハルトは目を覚ますと見慣れない天井が見えた。木で組まれた簡易的な建物。露出した岩と木が綺麗に組まれている。寝かされていたのは藁で作られたベッド。シーツが敷かれ、ふかふかして気持ちが良い。
ハルトが目覚めると隣にいたクレアとルルが声をあげた。
「ハルト! 起きたのね!!!」
ふたりに安堵の表情が浮かぶ。ルルに至ってはそれだけで既に涙目である。
「……あれ、俺は。あ、そうか!!」
ハルトは思い出したように手を叩いた。
「ごめんなさい。それから、あ、ありがとう……」
目覚めたハルトにクレアが下を向いて小さな声で言った。
「えっ?」
ハルトがクレアを見る。下を向いてはいるが顔が赤くなっているのが分かる。
「あ、あんたが私達を真剣に守ってくれているのが分かったわ。だ、だからそのお礼よ。変な意味じゃないから。勘違いしないでよね!!」
最初静かに話し始めたクレアだったが、最後には自分自身に言い聞かせるように強く言った。
「もう少し素直になれば、クレア」
ルルが少し笑って言う。
「わ、私はとても素直よ!!! こうやってちゃんとお礼している訳だし!!!」
クレアが向きになって言う。
「ああ、分かってる。ありがとうクレア。みんな無事で良かった」
ハルトはにっこり笑って答えた。
「お目覚めですか?」
ハルト達の騒ぐ声を聞いてかひとりの飛竜が部屋に入って来た。
「あ、リレル」
リレルと呼ばれた飛竜は部屋に入ると一礼してハルトの前にやって来た。
「ハルト殿、無事目覚められたようで安心しました。早速で申し訳ないのですが、我らがリーヴァ団長を呼んで頂けますか?」
ハルトは頷きながら言う。
「ああ、そうだな。すまない。じゃあ外に出ようか」
ハルトはリレルを連れて外に出る。そして召喚の詠唱を始める。
「我が名はハルト。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【飛竜】!!」
一行の目の前に魔法陣が出現し、そしてその中からリーヴァが現れた。
「リーヴァ様!!」
リーヴァの姿を見たリレルが先に声を掛ける。
「ん、ああ、リレル」
「ご無事で、何より……」
リレルはリーヴァの元に行くと頭を下げた。
「ハルト……」
リーヴァはハルトの姿を見ると名を呼んだ。
「ああ、ありがとう。リーヴァ。お前のお陰で助かったよ」
「よい。無事で何よりだ」
「ちなみにだが、どうして俺の召喚に応じてくれた?」
ハルトが聞くとリーヴァは真面目な顔をして言った。
「お前が悪人ではないからだ。敵意なき者に危害は加えない」
「そ、そうか」
ハルトは少し苦笑いをして言った。
「それよりもう少しお前達のことについて聞かせてくれないか?」
リーヴァが言う。ハルトはリーヴァとリレルにこれまでの経緯について丁寧に説明した。
「なるほど、そういう訳か」
リーヴァはハルトの説明に頷きながら言った。
「となると、私はハルトの【ヒトナキモノ】としては壁を降りるまでになるかな。地上の空気は汚れていて我等には長時間いることはできない」
「そうなんだ」
ハルトが言う。
「皆の体力が回復したら壁下まで送って行こう。それまでは少し里で休むと良い。滞在許可はリレルにお願いして里長より頂いておこう」
リーヴァはリレルに向かって言う。
「里長への許可を頼む。それから見ての通り私はしばらくハルトと一緒に行動する。一時的に団長の権限をお前に渡す」
それを聞いたリレルは頭を下げて言う。
「はっ、承知しました!!」
それを聞いたハルトが言う。
「有難い、リーヴァ。俺達でできることがあれば何でも言ってくれ」
リーヴァはハルトを見て笑顔で言った。
「ああ、じゃあ魔物退治を手伝って貰おうかな」
ハルトは苦笑いして頷いた。
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