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二百四十三話 純白の翼


 何かが宙を切る音が聞こえる。


 それはあたしの眼前を通り過ぎていった。


 それが腕だったと理解するのにはそう時間が掛からなかった。


「コウジ兄ー!」


 あたしはお腹から絶叫した。


 するとコウジ兄は宙を逆回転して敵から距離を取った。


『メロシィーちゃん、戻ったか』


「戻ったわ! なんかアズモと、黒いアズモに身体中をまさぐられて大変だったわ! 後で怒っておいて!」


『あいつらに何されたんだ……。ところで動けるか?』


 コウジ兄があたしにそう問う。


 意味は、無限龍と戦えるか?

 という意味。


 答えは勿論……。


「無理だわ!」


 あたしの力量で敵う訳がない。

 だいたいあれ、先生よりも強いでしょ。


「あー、なら、身体の操作権はもらうぞ。ここぞって時には力を借りるから常に気持ちの準備だけはしといてくれ」

「……!? 口が勝手に動いたわ!」

「俺が口を使って言葉を発している。舌を噛まないようにするのと、ブレスとか吐く時に使うからこの戦いの間は口の権利ももらうぞ。ちなみに、メロシィーちゃんの言葉は心の中で唱えてくれたら聞こえるから」


『こんな感じ?』


「完璧だ。とてもクリアに聞こえる」


『あたし凄い?』


「ああ凄いぞ。飲み込みが早い」


「よしっ、アズモ! メロシィーちゃんの力の使い方を教えてくれ!」


『分かった。直接頭に流し込むから驚くなよ』

『うわ、アズモの声が聞こえたわ!』

『ここに居るから当然だ』

『チナみに僕もいたリ』

『黒いアズモの声!?』

『黒アズモ参上!』

『うるさい黙れ』

『頭の中がうるさいわ!』

「あまりメロシィーちゃんをからかうなよ? 身体に複数人の意識が入り込む事はメロシィーちゃんにとって初めての経験なんだから混乱する」


 身体に複数人の意識……。

 難しい話だけど、心の中で散々アズモと話したから少しは理解出来る。

 でもなんでコウジ兄はこれに対する理解度が高いんだろう・


「じゃあアズモ頼む」

『任された』 

『ついデに異形化の力も流スネ』


 アズモと黒いアズモが頭の中で何かをする。

 あたしには全く分からない事が行われているけど、コウジ兄は「なるほど……」なんて言いながら二人の情報を受け取る。


「メロシィーちゃんは魔物化した事がなかったのか……。すまん、メロシィーちゃん機動力を上げたいから魔物化していいか?」


 情報を受け取ったコウジ兄はそんな事を言った。


『良いけど、出来るの?』


 スピサは使えていたけど、あたしには出来なかった事。

 翼を生やしたり、爪や牙、鱗を生成したりする力。


「出来る。……魔物化」


 ――バリバリ。


 コウジ兄がそう呟いたら、背中に物凄い違和感が生まれた。


 何かが生まれ出しそうな気配。


 違和感が形となって、顕現する。


 それは服を突き破って生まれ出した。


 純白の翼。


「これが魔物化だ」


 気付くと視界に映る腕がスピサと同じようになっていた。


 これが魔物化……。


「そんで結晶化なんて力もあんのか。使えるか分かんないけど試しに。……結晶化」


 ――ピキピキ。


 身体が凍っていく。

 純白の翼が凍てつき、氷の翼へと変わる。

 身体に出て来た鱗も凍り、更に強度が上がったように見える。


「これで戦える」


 そう言ってコウジ兄は空を飛ぶ。


 無限龍の元まで飛んで行き、宙でピタと止まる。


「凍てつく大地」


 あ。


 あたしのフィールドが形成される。

 全てを凍らしてめちゃくちゃにしたあたしの氷のフィールド。


 あたしの身体を中心に氷のフィールドが作られていく。


 だけどその上で戦っている、姉と無限龍は凍らない。


 無限龍は地面が凍った事に対しやりづらそうにしているのに対し、完全魔物化をして本物の竜になった姉は猛攻を繰り広げる。


 影響がないのか……いや――


 ――ピキピキピキ。


 無限龍の手足が凍っていく。


「強いな、この力」


 コウジ兄がそう言う。


『あたしの力が強い?』


「強い。戦況をひっくり返せる可能性を秘めた力だ」


 全てをめちゃくちゃにするんじゃなくて、戦況をひっくり返す……。


「異形化」


『えっ……!?』


 その力は使っちゃ駄目な力。


「こんな強い力を使わないのはもったいない。それにお姉ちゃんはこの力を食らってもピンピンしている」


『だとしても、その力は……』


「まあ、見ていてよ。力は使い方が全てなんだ」


 異形化を使ったコウジ兄が更に無限龍に近づいていく。


 姉の猛攻を受けながらも、こちらに目を向けた無限龍が一瞬の隙を尽き、腕を揮ってくる。


 ――パリン。


 あろう事かコウジ兄はそれを避けなかった。

 だけど、あたし達は攻撃を受けなかった。


 あたしに触れようとした無限龍の腕が凍って砕けた。


 無限龍の腕が宙を舞い飛んで行く。


「……これは困った。俺の力じゃどうにも出来ない」


 無限龍がそんな風に言う。


「ですよね、囚われのアギオ兄さん!」


 コウジ兄は片腕を失くした無限龍に飛び付く。


「今楽にしてあげます」


 無限龍の肩に抱き着いたコウジ兄は無限龍から体温を奪い、肩を起点に凍らせる。

 無限龍が何かアクションを起こすよりも先に無限龍は完全に凍り切った。


「――ムエエ!」


 竜形態になった姉が何かを叫ぶ。


「ああ、頼んだ」


 コウジ兄はそう言って直ぐに無限龍から離れた。


 直後、姉が右の前脚で無限龍を踏みつける。


 ――バギン!


 姉が脚をどけると、凍ってバラバラになった無限龍の破片が転がっていた。


『無限龍を倒した……?』


 完全に凍り付いた無限龍は復活の兆しを見せない。


 無限龍、完全に沈黙。



―――――



「これが魔物の全力の戦い……」


 大剣を構えた私は二つの戦場を入口付近から見ていた。


 一つは、師匠がひたすら短剣を振って異形蟻を追い詰める戦場。

 もう一つは、ラフティリさんとコウジさん達が無限龍を追い詰める戦場。


 どちらに入ろうか。

 そう考えて止めた。


 私では足手まといになる。


 人間をやめて機械人形になったが、この二つの戦場に混ざれる気がしない。


 ならばどうするべきか……。


 なるべく気付かれないようコウジさんの肉体を安全な場所に運ぶ。


 それくらいしかやる事がない。


 心臓を穿たれたコウジさんの身体は、血液がとめどなく流れているのも含めとても軽かった。


 コウジさんの肉体を壁にかけて一息つく。


 戦場に混ざる事が出来なそうなので、眺めているしかない自分がもどかしい。


 そうこうしている内に決着がついた。


 師匠の方は異形蟻の足を全部切り取り、コウジさん達の方は無限龍を完全に凍らせた。


 あとはトドメをさすだけだ。


 ――ドス。


 眺めていたら背中に感触が走った。


 慌てて距離を取り、後ろを振り返る。


「おや、この短剣で刺したのに動けるとは」


 黒い翼の女の人が立っていた。

 年齢は五十代くらいか。


「うーん、この身体を奪った時のように上手くはいきませんね」


「身体を奪った……!?」


 身体を奪う、短剣。

 結びつく答えは、型無の構成員ということ。


「型無の構成員が何故ここに!?」


 私は大剣を構えた。


「良いんですか? この身体はコラキという娘の親の物ですよ」

「……!?」

「無事に取り返したかったのではないですか?」


 コラキ・ウィンドミルの母親の身体……!?

 何故ダンジョン、フルトゥーナのボス部屋に!?


 考えが頭の中に色々と浮かんでくる。


「それと、『何故ここに』ですか……。そんなの構成員の一人がピンチになっているから助けに来たに決まっているじゃないですか」


 そう言って型無の構成員は師匠のいる戦場へと飛んで行った。


 早い……!?

 本来、あの身体の持ち主はそんな速度で飛べないはずだ。

 むしろ、飛ぶのを忌避していた種族のはず。


「師匠!」



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