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二百四十二話 「アズモ姉と呼んでいいぞ」


「いや、自分が世界の敵になっているから、同じようにやらかしている奴見ると安心する。しかもラフティーの妹。私の事をアズモ姉と呼んでいいぞ」


 アズモが妙に慣れ慣れしい。

 困惑するあたしにグイグイくる。


「異形化したか。そうか、大丈夫だ、そんな気にしなくて。私も異形化しているから。更に言うと、竜王家の上の兄妹なんてほとんど異形化しているし、身近な所でいうと、ルクダは勿論、貴様の姉の友達のブラリとダフティも異形化している。異形化している奴は信頼出来る。だから私を姉と呼べ。アズモ姉だ」


「え、ダフティ姉も異形化しているの?」


 ブラリは名前を聞いた事あるけど、会った事は無い。

 ダフティ姉なら一度だけ家に来た事があるから知っている。

 とても気まずそうな顔をずっとしていたからよく覚えている。


 ダフティ姉も異形化していたんだ。


 世界って狭いな。


「食いつくのはそこなのか。……まあ良いが。ダフティもしっかり異形化している。というかあの時あいつが敵を誘いこんだだろうから私が異形化したまである。うん、元を正せば諸悪の根源はダフティ……いや、古い家訓に従って自由を与えない教育を施した魔王家が悪い。どうだ、一緒にスイザウロ魔王国を滅ぼしに行かないか?」


「何言ってんの?」


 いや、本当に何言っているんだ。


 あたしを焦がしたアズモってこんなにやばい事をサラッという奴だったの?


 あたしの想像していたアズモ像はもっと、恐ろしくて、近づきにくくて、荘厳な物だと思っていたのに。


「場を和ますためのジョークだ」

「はあ?」

「でも半分本気だ」

「はあ?」

「ダフティは会ったら一発ぶん殴る。ついでにブラリも殴る。双子だから連帯責任だ」

「はあ……?」


 呆れる。

 なんだこの生き物は。


 自分で言うのもなんだが、あれだけ重い話を聞いたら慰めに走るのが正常な人なんじゃないの?


 さっきから自分の話ばっかりで、あたしの事なんてちっとも気にしていないように思う。


 これが魂竜アズモ?


 竜王家の末っ子として散々周りから甘やかされた者の末路とでもいうの?


「うむ、決めた。ダフティは殴りにくいから代わりにブラリを二発殴ろう。あいつなら笑って許してくれそうだ」

「待って待って、さっきから何の話をしているの?」

「私が異形化したのはあの二人が悪いという話だが」

「なんでそんな話になったの?」


「貴様が異形化したのが私のせいだと思った。だからここで制裁を受けても仕方ない。異形化させた奴に制裁を加えても良いなら『あ~、そう言えばあいつらも悪くね?』って気付いたから制裁しに行く」


 ……?


 頭にハテナマークしか浮かばない。


 あたしより小さい癖してとんでもない事を言っている。


 というか流したけど、こいつはあたしより何故小さいんだ?


 話によれば七歳にはなっていたはず。


 今のアズモは二歳かそこらにしか見えない。


「ねえ、アズモってもっと大きくないの? 慎重」

「ん? ああ、今の私の身体が小さいからアズモ姉と呼びづらいのか」


 話しを遮ってそう言うと、アズモは勝手な解釈をしてあたしから離れる。


 そして謎の光に包まれた。


「何その光」

「私は魔法少女だからな。当然の光だ」

「???」


 光が終わると、スフロア姉から写真で散々見せられたその人が立っていた。


「アズモ・ネスティマス七歳。一年十五組の姿だ」


 髪が紫がかった黒色で、目がでかく、睫毛がバッチバチ。

 顔立ちがスフロア姉に勝るとも劣らない。

 非常に目鼻立ちが整っている。


 きっと、黙っていればスフロア姉のようにモテるのだろう。


「アズモね……」

「アズモね……?」

「アズモ」

「アズモ(ねえ)と呼べ」

「無理よ。ここまでのアズモの奇行を見たらとても姉とは呼べない。お前はぬるま湯で散々甘やかされて育った末っ子よ。そんな奴に姉を付ける必要はない。アズモで充分」

「な、なぜだ……」


 アズモがプルプルと震えている。

 顔がいいせいでそれすらも様になっている。

 というか声も無駄に良いなこいつ。

 なんでそんなに素材が良いのに中身は残念なのよ。


 それと気付け。


 あたしが、姉と付けない年上はアズモだけ。


 ここまであたしの事を知っても引かなかった、なおかつ同じ異形化体として同志味を感じた事から来る特別な呼び方。

 あたしがアズモをアズモと呼ぶのは特別な事なの。


 それを言ったら付けあがりそうだから言えないけど。


「アズモはあたしのやった事を聞いて引かないの?」

「引く? 何故だ? こっちは三百万人くらいの者から魂を奪取した天災竜だぞ」

「そう」


 アズモはやっぱり特別だ。


「異形化で思い出したが、私は貴様の力を知る為にここに貴様を招いたのだった」

「あたしの力を知る?」

「ああ、こんな和やかに話しているが、外では貴様の身体をコウジが操作して絶賛戦闘中。そんなコウジから『力の使い方を聞いて来てくれ』と頼まれたのだ」

「なんでそんな重大な事を直ぐに言わないの?」

「……」


 アズモは腕を組んで黙り込んだ。


「貴様の事を知らないと意味が無いと思ったからだ」


 そしてそう言った。


「……」


 何を言っているの?

 とは言えなかった。


 その人の事を知れないと力を揮えない。


 それに一理あるなと思ったから。


「だから今から問おう。貴様の氷の力と、異形化の力を」


「……あたしの氷の力はママの……氷の結晶族由来によるもの。そしてあたしの異形化の力は……温度を奪取・付与するもの」


「そうか。それが聞けたら力の使い方は十分だ。……戻ってもらう前に一つ聞いておきたい」


「なに?」


「異形化の力を解放しても大丈夫か?」


「……良いけど、加減も出来なければ、使いこなす事も出来ないと思うわ」


「いや、出来る。コウジの中には異形化専門の力の使い方を知っている奴がいる。……紹介したくもないのだが。出て来い、私の偽物」


 アズモがそう言うと、床から黒髪がにゅっと生えて来た。

 アズモはそれを片足で踏み、それ以上の進行を阻止する。


「ナニをする。僕の出番なんダロ?」


 黒髪から声が聞こえた。


「……」


 アズモは黙って足を放した。


 すると、先程までのアズモと同じ背丈で同じ顔をした色黒の女の子が出て来た。


「ヨオ、お久」


 黒い小さなアズモはそう言い、アズモに抱き着いた。


「離れろ」


 アズモは黒い小さなアズモを引っぺがし、ベッドに放り投げた。


「連れナイな~」


 黒いアズモは何事も無かったかのように起き上がり、あたしを見た。


「コイツか?」

「ああ」

「チョット調べサセろ」


 そう言うと、黒いアズモはあたしの身体にまとわりつき、身体の中にスーッと入っていく。


「ちょ、何こいつ」

「私の偽物で、コウジの異形化の副産物だ。ちなみにコウジは黒アズモと呼んでいる」

「違くて、何やってんのこいつは」

「今、貴様の身体の中に入って、異形化体と話を付けている所だろう」

「ウン、ソウ。そしテ終わッタ」


 ヌルっと黒いアズモがあたしの腹から顔を出して言った。


「きゃっ!」


 あたしはびっくりして黒いアズモを引っぺがしてベッドにぶん投げた。


「久しブリに出タノに僕ノ扱い酷くネー?」

「いつ出ようが貴様に対する扱いはそれで十分だ」


 目を潤ませながら、良い扱いを所望する黒いアズモに対して、アズモは言い切った。


「マ、別にソレでイイケド」


 黒いアズモはベッドの上で肘を曲げ、手の上に頭を置き寛ぎだした。


「じゃあ早くメロシィヌは元の場所に戻ると良い」

「もう終わりなの?」

「ああ、絶賛戦い中のコウジが一人だからな。早く戻ってやらないといけない」

「そう。……あ、最後に」


 あたしはもう行ってしまおうとするアズモを引き留める。


「メロシィー。あたしの事はメロシィーって呼んで良いわ。特別よ」

「そうか、ではメロシィーと呼ぶ。あたしの事はアズモ姉と呼ぶが良い」

「じゃあ、アズモ。あたしも行くわ。この扉から出れば良いのよね」

「待ってくれ。私の事をアズモ姉と呼べ」

「先に行っているわ!」

「行くなメロシィー! 私に姉属性を付与してからいけ!」


「私を置いて行くなー!!」


 絶叫するアズモを置いて扉から出て行った。



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