二百四十話 「アズモを超える」8
「いったーい!!」
カレンが絶叫した。
「武器を使うなんてズルだよ! ズル! カレンちゃんはこうして素手で戦っているのに!」
そして、あたし達に対する抗議を淡々と述べた。
ズルって言われても……。
と、反応に困るというのが正直な感想なので特に返す言葉はない。
それに今は戦いの最中だ。
戦いにズルも何もない。
準備を怠った方が圧倒的に悪い。
「氷炎突弐式・袈裟!」
カレンの反応などお構いなしにスピサは攻撃を続ける。
狙いは剛毛で覆われていない部分、顔・首・胴体など。
カレンは泣き言を言っておきながら、正確にスピサの攻撃を綺麗にいなしていく。
反応速度と反射速度が今まで戦って来た相手の比じゃない。
今まで詰んできた経験が違う。
こっちはあたしも大剣を引っ提げて混ざりながら、攻撃を行っているのにカレンは全てを躱していく。
「ああ、痛かったな~。そっか二つ下だから攻撃なんて通らないって思っていたけど武器って手があったか」
どうしてあたし達の熾烈な攻撃を避けながら話す事が出来る。
これが年長者の余裕……!?
どうしたら崩せる。
冷静に考えろ。
あたしは氷竜。
これからスピサの作るグループの脳をやっていく凍てつく竜。
考え事はあたしの役目だろ!
まず出来る事は、冷気の出力を極限まで高めて相手の機動力を低下させる。
その場に静止して大剣を放り投げて集中する。
あたしを中心に冷気による凍えるフィールドを再構築。
程度は?
持てる限界を行く。
フィールドに居る人は、あたしにスピサにカレンだけ。
あたしによるフィールドの効果はあたしに無関係だし、スピサも炎王龍の血を引くサラブレッド。
自前で身体に灯る熱を上げてもらえば良い。
そうすれば、カレンにしかあたしのフィールドによるデバフを受けない。
「凍てつく大地……!」
思いを言葉に乗せて言霊にする。
そうすればいつも以上の冷気で場を支配出来る。
――ピキピキ。
影響は直ぐに現れた。
スピサとカレンの両手両足が先から凍って行く。
「そんな力を隠していたなんてな! やるじゃねえか相棒……! 俺様も負けていられねえ!」
スピサは吠え、熱を灯し氷結を食い止め押し戻す。
「これは流石に困ったね」
カレンは両手両足をプラプラと振り、凍りついている事を確認する。
「これじゃカレンが勝つ方法が、完全に凍り付いて動けなくなる前に君達二人を倒すしかなくなっちゃった訳ね……いいよ! 面白い!」
カレンがこちらをグルリと首を動かして見てニマと笑う。
「でもその前にメロシィヌちゃんを倒すって選択肢もあるね」
カレンがこちらに跳んでやってきてあたしの事を殴る。
両足が凍っているため、カレンの機動力はほぼ削がれている。
しかも凍った地面の上。
凍った足で凍った地面を動き回るなんて、訓練を行っていないと出来る訳がない。
殴りかかってきたカレンの右腕を腹部にまともに受ける。
今の一発はフィールド展開による集中を欠く事が出来なかったためによるものだ。
機動力を経つためなら、一発ぐらいもらってやる。
一撃分、氷上を滑る。
凍った地面の上だ。
当然あたしも滑る。
腹も少し欠けた。
だが、許容範囲から出ていない。
跳躍による移動により、拳に力が入っていない。
籠っているのは重力だけ。
あたしは離された分、滑って近づき蹴りで返す。
カレンは凍った腕でそれを防ぐ。
「双剣炎舞、狂い華!」
スピサが技名を叫びながら、空中で身体を錐揉み回転しカレンに襲い掛かる。
スピサの放った斬撃はカレンのガードを通過し、カレンにまともな傷を作っていく。
「いったーい! もう二人揃うとそんなに厄介になんだね!」
カレンは叫びながら、スピサに殴りかかる素振りを見せスビサを引かせる。
「うーん、どうしようか。氷が依然カレンの身体を侵食しつつあるし……やっぱり優先順位は……」
カレンはこちらを向いて腕を揮う。
あたしはそれに対し両手をクロスさせてガードする。
少し滑ったが、踏ん張れないフィールドのためちっとも痛く無い。
「うん、厄介だね。でも分かった。君達の相性は最悪だ」
……何を言っている?
「双剣炎舞、狂い華!」
スピサが同じ技を放つ。
カレンは攻撃を再びまともに受ける。
流れる血液が追い込んでいる事を知らせる。
――ピキピキ。
カレンの両腕が氷から解き放たれた。
「うん、スピサちゃんの熱であったまった。今度は全力で殴れる」
姿勢を正したカレンが右腕を揮う。
今度もクロスして防ごうと思ったが、カレンの一撃は予知しない位置に放たれ、ノーガードで受けてしまった。
頭を殴られた。
視界が横から縦になり、直後凄まじい衝撃が頭の後から襲ってくる。
視界と頭がクラクラする。
カレンがそんなあたしの上に座り、マウンティングポジションにつく。
「スピサちゃん熱をありがとう。これでカレンの勝ち」
カレンが上からボコボコと顔を殴って来る。
あたしは腕を足で塞がれているため何も出来ない。
――君達の相性は最悪だ、か。
そんな事も百も承知でスピサと行動を共にしたのに、まさかこんな風に利用されるなんて。
でも、考えてみたら当然だ。
あたしのフィールド上でもピンピン動いている奴がいたらそいつから熱をもらうか。
だって、少なくともあたしの氷を無効化させる程熱いことが証明されているから。
頭を殴られ続け、意識が飛びそうだ。
視界の端でスピサが攻撃するのが見えるが、カレンはそれを意に介していない。
スピサの攻撃はカレンに通じないのか……。
打撃音と共に、自分が無力である事を思い知らされる。
年長組がこんなに強いとは。
二歳も歳が離れたら魔物はこんなに強くなれるんだ。
今日の所は負けだ……。
……。
…………負け?
負けで良いのか?
スピサがこんなに頑張っているのに、あたしが足を引っ張って負け?
そんなのあたしが許せない。
頭がぼーっとする。
だけど、それを言い訳にしたくないから。
「……凍てつく――」
フィールドを再構築する。
手足をまた凍らせれば良い。
「また凍らせるやつ? もう効かないよ」
カレンが後ろにいるスピサの炎が付与された氷剣を掴み瞬間に備える。
そうか、そうするか。
じゃあ、炎も凍るくらい強い冷気でフィールドを展開すれば良い。
「――凍てつく炎」
――ピシ。
そんな音が聞こえた。
視界がぼやけるから確認がしにくい。
「……は?」
マウンティングポジションを取っていたカレンが完全に凍っている。
人が氷像になっている。
「よくやったぜ相棒!」
スピサがそう言いあたしに引っ付いていたカレンを引き離す。
見ると、カレンの両手と一緒にスピサの両手が凍っている。
「あれ、おかしい炎が出ねえ。相棒力を切ってくれないか?」
短剣を起点に二人の手が繋がったまま。
確かにそれだと不便だ。
だけど、どうしてだろう……。
「力が止まらない……」
力を止められない。
「まじか。ならこいつも安全な場所に運ばないとな」
そう言ったスピサは機転を利かせ、翼をはためかせ上昇した。
「なんで、何故止まらない……!」
いつもなら電気のスイッチを切るように簡単にオンオフ可能。
なのに今は……!
――ピキピキ。
いつもの大樹が凍って行く。
根本から葉の先まで。
冷気があたしの予期していない所まで広がっていく。
「――またあなた達ですか」
声が聞こえた。
声のした方向を見ると先生が「はあ……」と溜息を吐きながら立っているのが見えた。
「早くその力を止めてください。園内の子供達が凍っていっています」
「え……?」
周りが全く見えていなかった。
震える身体に喝を入れ、起き上がり回りを見渡すと近くで観戦していた子や遊んでいた子が凍っているのが見えた。
「あたし、そんなつもりじゃ……!?」
「つもりかどうかはどうでも良いです。とにかくこのパニックを止めるために力を抑えなさい」
「……です」
「え?」
「それが出来ないんです! あたしは切っているつもりです! でも止まらない!」
「ふむ……」
先生はそこで考える仕草を見せた後に携帯をいじって誰かに電話をする。
「最終手段です。あなたを気絶させます」
電話は直ぐに終わったようだ。
先生は携帯をポケットに戻し、あたしの元に近づいて来る。
「……これが氷の結晶族の暴走ですか。厄介ですね」
先生は数歩近づき止まった。
脚が凍っている。
今まで凍らせられた事なんてなかったのに。
「あたしに近づかないで! 先生も凍っちゃう!」
あたしは慌てながら先生を静止する。
――ゴン。バキバキ。
叫んだら誰かが降って来た。
先程空中に逃げたスピサとカレンだ。
二人が凍り落ちてきた。
あらぬ形となって。
手足が取れてしまっている。
スピサの翼はバラバラに砕け、背中に罅も入っている。
カレンを抱えていた腕は砕けて混ざり、誰のものなのか分からなくなっている。
「スピサ!! そんな、あたし、そんな……! つもりじゃ!」
大空を翔ける翼が、あたしのせいでなくなってしまった。
双剣を持つ腕が、あたしのせいでなくなってしまった。
大地を駆ける足が、あたしのせいでなくなってしまった。
これじゃ約束を守れない。
なんで? どうして?
二人は空中に逃げたはず。
保育園を見る。
あたし達がいる大樹から園に至るまでの全てが凍っていた。
スピサは凍る範囲の速度に巻き込まれて……!
「わああああああああああ!!! ごめん! ごめんなさい! 約束が守れない!」
「……もし、心の中に声が聞こえても答えないでください」
先生が何かを言っている。
だが、あたしには何も響かなかった。
――なあ、全部めちゃくちゃにしないか?
その時、どこからか声が聞こえた。




