二百三十九話 「アズモを超える」7
「やっぱ面白れぇな! バトルってのはよお!」
空中を錐揉み回転しながら降下するスピサが地上にいる生徒相手にあたしの作った短剣で十連撃以上の攻撃を叩き込む。
相手が体勢を崩したのを視認したあたしは即座に冷気を強め、一瞬で相手を凍りつかせる。
これで今日の戦いも終わりだ。
特に苦戦する事なく、今日も完勝を収めた。
「ああ、最高だな! 相棒のタッグマッチは!」
あたしの氷結で凍り付いた相手を自前の炎で氷解させながらスピサが興奮しながら言う。
「ほらどっか行け、先生が来る。ちなみに記憶が飛んでいたら面倒だから言うが、俺様達の勝ちだ」
今日の相手二人が短い悲鳴を上げた後に、逃げるように去って行く。
「さあ、本命バトルだ。準備は良いか相棒?」
「当たり前。スピサこそ張り切り過ぎて今のバトルで疲れていないか心配」
「五割の力も出して無いから余裕」
その後先生が飛んで来て、先程までのお遊戯と違い本気で戦ったがあえなく敗北。
どうやったらあの大人に勝てるかを模索する日々だ。
「くぁー、負けたな」
「また負けた」
地面に仰向けで倒れたあたし達は頭にでかいたんこぶを作りながら本日の感想戦へと入った。
「ブレスも、通常攻撃も、武器攻撃も効いている気がしねえ……」
「冷気もいくら浴びせても足を止められない……あの先生は何者? 本当にただの魔物?」
「もしかしたら、序列石に名前があったりしてな。まあ先生の名前も知らなければ、肝心の序列石も全部型無って連中にぶっ壊れされたから確かめようがないが」
どうやったら勝てるかよりも、どうしても勝てないの話の方が多い。
あたし達は強い。
だからそこら辺のスーツを着て会社で戦っているような大人には負けない自信がある。
それなのに、あの先生に勝てるビジョンが見えない。
あたし達の力が圧倒的に足りない。
解放とか異形化とかを覚えて盤面をひっくり返すしか……。
「そんな事より! なあ相棒!」
「……何よ」
「俺様達でレディースを結成しねえか?」
「レディース?」
「暴走族の女版だよ」
「暴走族の女版? そんな危なそうだし、管理も大変そうな物を作りたいの? あたし達だけで充分じゃない」
耳を疑った。
色々言いたい事はあるが、一番は仲間にしたいと思えるような人が居なかった事。
「何も今すぐって事じゃない。スイザウロ学園に入学してからの話だ。国中から色んな奴が来るからそこでなら相棒の眼鏡に合う奴もいるはずだ」
「スイザウロ学園でチーム作り……」
少し面白そうと思った。
だが、一つ懸念が。
「スイザウロ学園は小中高一貫のエリート校。そんな場所にスピサが入れるの?」
あたしはともかく、スピサが入れるかが疑問だ。
「あー、そこら辺は大丈夫。なんたって俺様はこれでも炎王龍の娘だから」
「親が関係あるの?」
「昔、竜王の娘って肩書で学園に不正入学した奴がいたらしい」
「不正入学? おだやかじゃないわね」
「そいつは座学で一桁点取っただけでは済まず、名前欄もミミズみたいな字で提出して採点者を困らせたらしい」
「名前も書けない奴がスイザウロ学園に入学? それが本当ならスピサも問題なく入れそう」
「ただ、だ。実技で満点を取ったらしい。実技は的当てテストらしいんだけど、そいつはブレスでやけに正確なコントロールと、やけに上手い威力調整で満点をもぎ取っていった」
「実技で満点か……」
あたしだったら取れるのだろうか。
今のあたしはちょっと涼しいくらいの氷ブレスか、最大威力の氷ブレスしか吐けない。
威力調整はまだまだ未熟だ。
「あたしはスピサが馬鹿じゃないって事は知っているから座学で馬鹿みたいな点数を取らない事は分かるけど、実技は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。……と言いたいところだが、ブレスの威力調節は苦手だ。だからそれはこれからの課題だ」
「そう」と相槌を打ち、起き上がってスピサの事を見る。
「三年後、あたし達はスイザウロ学園でレディースをやるの?」
スピサの目を見つめながらそう言った。
「やる」
迷いが微塵も籠っていない返事が返って来た。
「名前ももう決まっている。烈土龍頭雪。俺様が頭で、相棒が参謀……つまりは脳だ。俺様が頭で相棒が脳のグループを作る。これは決定事項だ」
「……あたしの決定権とか、気持ちは?」
「関係ねえ! 相棒は俺様と一緒だ! 獰猛で、戦いが好きで、なにより俺様と一緒に馬鹿やっているのが大好きだ!」
「はあ……。スピサにはあたしがどう見えているの? あたしはただの冷たい女なのに」
獰猛じゃない。
戦いは目的を全うする為の手段でしかない。
スピサと一緒にいるのも目的の一つでしかないのに。
だいたいレディースって何よ。
そんな物にあたしが食いつくとでも?
しかも参謀をやれだって?
ふざけている。
この女はあたしの事をよく理解ってない。
「まあ相棒は恥ずかしがり屋だから認めたくねえのかもな。少なくとも俺様からはそう見えるし、そうなる物だと思っている。取ろうぜ……保育園だけでなく、スイザウロ学園で天辺をよお!」
「はあ……何を言っているのかしら。もういいわ。先生がもう来るから早く準備して」
―――――
「おぐぅっ!?」
スピサが短く声を漏らす。
「キミは来ないの? 空気を冷やし続けるだけ?」
カレンはそう言いながら、獰猛な笑みをあたしに向けた。
「スピサの攻撃が避けられた……?」
理解するのに時間が掛かった。
避けられただけじゃなく、不意打ちのような一撃でスピサが地に背中を付けている。
違う。
これは違う。
あたしの想定していたシナリオと違う。
「なにやっている相棒!?」
「隙あり! てねっ!」
――ガン。
スピサの声とカレンの声が聞こえた気がする。
その直後、頭に痛みが走る。
スピサがされたのと同じように、顔を掴まれ、地面に叩きつけられた。
「目が覚めた」
あたしの顔面に触れているカレンの手。
それを凍えさすために冷気を瞬間的に強めた。
―ピキ。
音と同時に感触が跳んで離れていく。
ボロボロと結晶化させた頭の破片を雪のように散らしながら起き上がった。
頭が痛い。
地に頭をぶつけられたのは初めてかもしれない。
でもそのおかげで、スピサが攻撃された事で混乱してしまった頭が活性化していく。
「相棒大丈夫か?」
顔に血を滴らせたスピサが空を飛びながら、あたしの元にやってくる。
「……………………でしょ」
「え?」
「天辺取るんでしょ! なぜ地面に転がる! 相手は二年上なだけでしょ!」
「お、おお……」
「あいつに負けちゃ天辺が取れないでしょ!」
空を飛ぶカレンの襟元を両手で掴み叫んだ。
変だ。
どうかしている。
でもそれほどまでに地に伏せているスピサの姿が見たくなかった。
「……!?」
あたしの反応を受けたスピサは赤い目をギラつかせた。
「今のを食らったのはまぐれだ。次は失敗しない。相棒あれを頼む」
「分かった」
二振りの氷剣を作り出し、空に放り投げる。
スピサはそれを受け取り、剣に炎を纏わせた。
「俺様は本気で行く。相棒は?」
「勿論本気で行く」
冷気の出力を恒久的に強め、辺り一面の地面を凍らせた。
これでもう地面はあたしのフィールド。
だから、空は任せたわよ。
「炎突壱式改め、氷炎突一式改・凸!」
スピサがしっかり技名を叫びながら戦いが始まった時の動きを模倣する。
しかし、今度炎を纏わせたのは、腕ではなく剣。
更に突進するスピードも上がっている。
それを確認した私は氷上を動き、加速する。
あたしのフィールドは初見殺し。
だから相手が氷に慣れる前に最大火力をぶっ放す。
スピサの物とは別に剣を一振りの剣を作り出した。
だが、それはスピサに渡した物よりも大きく、あたしの身体よりも大きい大剣。
スピサの突進に合わせ、氷上を勢いよく滑り、スピードを利用して大剣をぶちかます。
――ガキン。
手応えはあった。
あたしとスピサの攻撃はカレンの魔物化した剛毛な両腕で防がれたが、捉えた。
剣が過ぎ去った場所から流血しているのが見えた。
攻撃が確かに通っている。
「いっ……」
カレンが大きく息を吸い込む。




