二百三十八話 「アズモを超える」6
「頼もー!! 俺様の名前はスピサ!! ここに居る年長の奴等で腕に自信があるっていうコンビが居たら手を挙げろ!! 俺様達がぶっ飛ばす!!!」
朝、鳥の鳴き声が止まない中、年長組の部屋の扉を勢いよく開け放ち、開口一番スピサが名乗りを上げる。
後ろで手を組みながら眺めていたあたしにとっては二回目の光景なので少し思う所があるくらいで済んだが、初見の年長達はそうはいかない。
――おい、なんだあいつら。
――なんかやばくね?
――おい、誰かなんか言ってこいよ。
ざわつくのを感じる。
当然の反応だろう。
自分よりも年下の女の子が道場破り紛いの事をやって来たら当然こういう反応になる。
「あれも言った方が良いんじゃないの?」
あたしは壁にもたれかかりながらスピサに助言する。
「俺様は炎王龍アミフィリア・ネスティマスの娘、スピサ・ネスティマス! いずれ世界最強になる女で、今はただの保育園最強! そんな最強に挑みたい奴はいないか!?」
――最強……?
――何言ってんだあいつ。
――俺より強いって事か?
――私より強いはありえないでしょ。だって、見た感じまだ年少さんでしょ。
――でも、あの炎王龍の娘なら……。
――最強なんて馬鹿らしい。俺だろ、最強は。
ここは魔物保育園。
闘争心に飢えた、ツワモノ共の卵の巣窟。
強さには人一倍敏感な施設。
「ちなみにこっちで佇んでいるのは俺様の相棒のメロシィヌ・ネスティマス。こいつも竜王家の一員だ。俺様の次に強いかもしれない」
俺様の次に強いかもしれないってなによ。
なんと思うものの、こんな場面で反応して小競り合いにでも発展したら面倒なので黙ってスルーする。
「――ねえねえキミ達、最近この保育園で噂になっている炎氷コンビ?」
あたし達より一回り大きい、青髪でモフモフの毛で耳が覆われた女の子があたし達の元にやって来た。
見た感じ、大して強そうには見えないが、甘えるのが上手そうな子だと感じた。
この子はきっと、肉体戦というよりも狡猾に一つ一つ歩ける道を潰していって、気付いた時には逃げられなくしているタイプの子……という印象を持った。
「なんじゃあそりゃ? 俺様達が噂になっているのか?」
「え、知らないの? 有名だよ、炎氷コンビ!」
青髪の子は手で口を覆い、オーバーなリアクションをする。
一々反応が大きくてイライラしそうだ。
家での完全甘えモードの自分を見ているようで。
でもお前のそれもあたしと一緒で養殖なんでしょ?
「知らねえけど、炎と氷で括られたコンビ名ならきっと俺様達の事だな。だって俺様達なら噂になって当然なくらい強い。うん、当然だ。俺様達が炎氷コンビだ」
「やっぱり! そうだと思った! じゃあきっと強いんだね!」
「おう、俺様達は強いぜ!」
「じゃあ戦ってあげるから朝のお勉強が終わるまで待ってて! 年長さんには朝にちょっとだけお勉強する時間があるんだ!」
「そうなのか。じゃあ仕方ないな。おい、俺様達と戦うのなら名前を教えろ」
「あ、名乗ってなかったね! カレンの名前はカレンだよ! カレン・サーウロス!」
――ズルズルズル。
身体が壁を滑って行く。
「そうか、カレンか! じゃあ奥の大樹の前で待っているから終わったらそこまで来てくれよ!」
――ズルズルズル、ゴン。
態勢を保ったまま、身体が滑り落ち、頭が床に落ちた。
「うん! そういう訳で一旦じゃあね! スピサちゃん、メロシィヌちゃん!」
―――――
「良かったな相棒! 年長組、初戦の相手が無事決まったぜ!」
いつもの場所――大きな樹がある場所までやって来たあたし達は先程の会話の内容を振り返っていた。
「さ・い・あ・くだわあああああ!」
あたしは大樹に両手をつけ大絶叫した。
「ど、どうしたんだよ相棒?」
「前に話した子がいるじゃない」
「前に話した子? どいつだ?」
「姉の友達の妹」
「ああ、あれか。え、まさか?」
「そのまさかよ、家名が一言一句同じ! 一発目から戦いたくない相手に当たったんだが! なんでスピサは一発目から姉の友妹に話しかけるのよ!」
「えー……向こうからだったしなー……俺様が悪いか?」
「悪くないわよ!」
「悪くなかったか。でも、本気で戦うつもりなんだろ?」
「それは当たり前。本気を出さないのは相手に失礼」
「じゃあいいじゃねえか。遅かれ早かれどうせ戦うことにはなったんだから」
「それはそうだけど……うーん…………」
考え込んでいると力を込めてしまったのか大樹の両手で触れている箇所がパキパキと凍っていく。
後で先生になんか言われそうだからいつもなら気付いたら直ぐに止めるが、今はそういう気分にならなかったら。
凍ってしまおうがどうでも良い。
「おお? 力の確認か? なら、俺様も」
スピサが隣で両手を樹に添える。
「うおりゃあ!」
炎がスピサの両手を中心に広がり、凍っていた大樹の皮が露出した。
「ふんっ!」
凍らすのと違って、燃やすのは不味いだろ。
それよりも、あたしの氷を溶かした?
あとこの後、姉友の妹と戦わなくちゃいけない?
色々な感情がごちゃ混ぜになって、冷気の出力をあげた。
――パキパキパキ。
――メラメラメラ。
――パキパキパキ。
――メラメラメラ。
――パキパキパキパキパキパキ。
氷が炎に打ち勝ち、スピサの両手を凍らした。
「流石やるじゃねえか、相棒!」
スピサはそう言い、炎の出力を上げ、両手を直ぐに氷解させた。
それを見たあたしは、大樹から両手を放した。
「この後の戦いではいつも通り、相手にはせめてもの償いとして本気で力を使って挑む。冷気に耐えられなくなったら言って」
「はっ!? 言うかよ、そんな弱音なんて!」
「そう、ならいつも通りに派手に大立ち回りして」
……こうは言ったものの気が滅入る。
姉の友達の妹と戦って勝ってしまったらどうなるだろうか。
姉同士の仲が拗れたりしないだろうか。
出来れば勝ちたくない……でも負けたくもない……。
どうしようか。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
―――――
「お待たせ! スピサちゃん、メロシィヌちゃん!」
時間が来てしまった。
カレンが手を振りながらこちらにかけてくる。
だが、おかしな事に、もう一人目が見えなかった。
「おいおい、こりゃどういう事だ?」
スピサもその事を疑問に思ったらしく、そう言葉を漏らした。
「もう一人はいないの?」
あたしは疑問に口にする。
「え? いないよ? だってキミ達は年少さんで、カレンは年長さんだよ?」
カレンは何が不思議なのかと言った様子で言葉を返す。
「ハンデって事か?」
スピサが「ははーん」って的を射たりといった調子でそう口にする。
一人で来た奴は年中の中にも居た。
でも、あたし達が負ける訳がないので普通にいつもより楽に勝てただけで終わる。
そして待望の先生との戦いに入る。
一人で来て負けた奴は大抵「前回は本気じゃ無かった」とか言いながら、もう一人を連れて来て再戦を望んでくるので、また勝って、また先生と戦えた。
要はお得な奴だったけど……カレンを二回倒さなければならないの……?
「ううん、ハンデじゃないよ。これでちょうど良いんだ」
そう言いながらカレンは準備運動を始める。
「キミ達は準備大丈夫?」
それどころか、こちらの準備が万全か聞いて来る始末だ。
「俺様達を舐めているのか、それとも自分の力を過信しているのか。どちらにせよそれは慢心だ。今からでも一人連れて来る事を勧めるぜ、俺様は」
スピサが心配するレベルだ。
あたしの目から見ても、正直言って強そうには見えない。
「それは大丈夫。始まれば分かるよ」
「そうか、そこまで言うならなんも言わねえ」
「あ、でも一つだけ。メロシィヌちゃんってラフティリお姉ちゃんの妹さんだよね?」
身体がビクッと震えた。
あたしがずっと気にしていた所だ。
「うん……たしはラフティー姉の妹」
言葉遣いに迷った挙句、妹モードで問いに答えた。
「やっぱり! 似ていると思ったよ、その水色の髪とか」
「それがどうしたの?」
「んー、お姉ちゃん達はカレン達の戦いを楽しみにしていたからね。どっちが勝つのかなーって。だから、カレンも楽しみ。メロシィヌちゃんもそう?」
「あたしも……楽しみだったよ」
嘘を吐いた。
この人は強い。
戦う前から、あたしは心で負けている。
「じゃあ、そろそろ準備はバッチリ?」
「あ、ああ、いいぜ」
「うん」
「じゃあ、はじめ!」
カレンの言葉を皮切りにそれぞれが動く。
「魔物化!」
「魔物化!」
「結晶化」
スピサが翼を生やし、空を飛ぶ。
カレンは身体中に青い毛を生やし、強靭な爪を備え、地を駆ける。
あたしは身体を氷の結晶にし、外気を冷やしていく。
「行くぜ! 炎突壱式!」
スピサがそう言い、両手に炎を纏い、腕を組んでカレンに突進する。
スピサの十八番の様子見だ。
実力がない者が相手だったらあれ一発で気絶する子もいる。
それ程の威力があり、避けにくい攻撃だ。
「わー、凄い! 早いね!」
カレンは軽々とそれを避け、スピサの攻撃を褒める。
「本当に年少さん? そうとは思えないくらい早い攻撃だね! よしよし」
褒めるどころか、スピサの頭に手を乗せ、撫でる。
「はっ?!」
スピサが情報を受け止めきれずに固まる。
「でも、残念! それだと年少さん止まりだ!」
――ゴン!!!
スピサの頭に手をかけていたカレンは、そのまま手を下に動かし、スピサの後頭部を地面に激突させた。
「おぐぅっ!?」
スピサが短く声を漏らす。
「キミは来ないの? 空気を冷やし続けるだけ?」
カレンはそう言いながら、獰猛な笑みをあたしに向けた。




