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二百三十五話 「アズモを超える」3


「アズモはね、とにかくおかしいの。私のこの尻尾分かる? 先端が毒針になっていて刺された人は普通なら皆死んじゃうの。それをね、アズモはブスッと自分から自分の手に突き刺したの。そしてね私に言ったのよ『お前の毒弱いな、こんなんじゃ身を守る事なんか出来ないし、俺が守ってやるぜ』って。ね、変でしょ? しかもそれをやったの、ほぼ初対面よ?」


「ね? おかしいでしょ?」とスフロア姉が捲し立てるようにペラペラと教えてくれた。


「毒針? ブスッ?」

「そう! 毒針をブスッて自分に刺したの!」


 愉快そうに笑いながらスフロア姉が話す。


「ちなみに、本当の初対面の時は何度シカトしても自分の名前を連呼してくる変な生き物だったわ!」


 ……。


 毒針を自分自身に刺す?

 何のために……?

 いや、理由があったとしてもその行動は異常。


 そしてそれを耐えた?


 スフロア姉がまだ未成熟な子供の身だったから、毒の威力もそこまでだった?

 竜特有の状態異常に対する強力な耐性があったから?

 でもそれを同じく子供である竜が耐えられるのか?


「またちなみにだけど、アズモは毒針を刺した後ぶっ倒れたわ! 私の事を守るとか豪語していた癖に倒れちゃったの!」


 倒れたのかよ……!


「むーん、アズモが毒針を耐えた? 閃いたわ……!」


 姉が不穏な言葉を発する。


 スフロア姉に届けてもらった課題を「むんむん……」言いながら解いていた姉がこちらに寄って来て、スフロア姉の尻尾に触れようとする。


「あっ!?」

「絶対やると思った。やらせないわよ?」

「最強の証明がしたいわ!」

「いいからあんたは最強の証明をする前に、証明問題の一つでも解いていなさい」

「むえー……」


 アズモと同じように毒針を刺そうとした姉をスフロア姉が牽制し、課題に戻らせる。


 流石スフロア姉。

 スフロア姉が後一秒でも動くのが遅かったらあたしが姉を止めていた。


 何はともあれ、アズモは毒針を耐えた、と。

 その事実は頑丈さの証明になる。


 だけど、知能指数は姉と同等かそれ以下?

 とにかく本能で動いている事は間違いなさそう。


「あとはそうね、保育園の頃のアズモと言えば、負け知らずだったわね。私の知っている限りだと、同じ園児相手には負けた事は無かったわ。勿論、異様に強いあの先生には一度も勝てた事は無かったけど。メロシィーちゃんもたぶん担任の先生が同じはずだから分かるわよね。あの先生、問題児や厄介そうな子の担当になるから」

「先生!」

「そうよー、先生よー。鬼のように強いあの先生ねー」

「知ってる! いっぱい拳骨されたもん!」

「あら、メロシィーちゃんもお姉ちゃんと同じで好戦的なのね~。可愛い~」


 スフロア姉が楽しそうに笑いながら、私にそう言い聞かせる。


 ……ふーん。


 良い事を聞いたかもしれない。

 アズモは園児には負けないが、先生には負ける。


 じゃあ、子供には勝てても大人には負けるんだ。


 これは指標になる。


「他には? 他には?」

「アズモの話はまだまだあるわよ、だって私、アズモとずっと一緒にいたもの」


 スフロア姉はあたしを椅子におろし、隣に座る。

 そして、持って来た鞄からお菓子を取り出してあたしに差し出す。


「いいの?」

「いいわよ。長くなるからお茶でもしながら話そっか」

「わーい! ありがとー!」

「お菓子!? あたしにもくれ!」

「いいわよ。でも、その見開き1ページが終わってからね」

「分かったわ!」


 あぁ……我が姉が別の姉に躾けられている。

 こんな姿見たくなかったよ、姉……。


「ああ、そうだ。うーん……でもこれはちょっと違うんだけど」

「どうしたの、スフロア姉?」

「んー、メロシィーちゃんならまあいっか……アズモなんだけどね」

「うん」

「異形化した子を倒した事があるのよ」

「うん……?」

「異形化した子なんだけどね。たぶんこのお家にも来た事があると思うんだけど、ルクダっていう女の子で友達なんだけど、私達のせいで異形化しちゃって――」


 異形化した子を倒した……?



―――――


「アズモの事を姉の友達に聞いた」

「でかした、相棒!」


 週末が明け、登園日。

 朝からあたしとスピサは集まって作戦会議をしていた。


「まず、アズモは馬鹿」

「馬鹿なのか」

「とんでもなく馬鹿」

「とんでもなく馬鹿なのか」

「自分で自分に毒針刺す」

「とんでもねえ馬鹿だ」


「でもすげえな。そんな事しちゃうんだ。覚悟がキマっているぜ」スピサは興奮したように話しながら、針を掴むような動作をし、それを自分の手に突き刺す。


 たぶんだけど、スピサも姉と同じような事するんだろうな。

 その行動は胆力があるだとか、度胸があるだとかなんて綺麗な言葉では収まらず、救いようのない馬鹿という言葉に形容されるのに。


 スピサの行く末を俯瞰して考え、ふっと笑みが漏れた。


 流れで相棒関係が結ばれてしまったが、あたしは絶対にこいつの面倒を看ない。

「あ、こいつ使えないな」って思ったら速攻で切り捨てる。


 あたしは姉のような年上には天使であろうと決めたけど、同学年以下には何があっても絶対に媚びない。

 特に年下には厳しい女でありたい。


 だって誰彼構わずに愛敬を振りまくなんて疲れるでしょ?


「なんだよ、その目。俺様の顔になんか付いているのか?」

「びっくりするくらい大きな蝿の大群が群がってる」

「まじかよ!? 燃やし尽くすしかねえ!」


 ――ボッ。


 炎王龍の娘という生き物は超単距離ブレスもお得意なものなのね。

 器用に顔の周りだけを燃やし尽くす真っ青なブレス。


 んー、スピサとは十五年くらいは一緒に居る仲になりそう。


 ともかく、気を取り直して。


「次にアズモの強さだけど」

「おう」

「強い」

「強いのか」

「とんでもなく強い」

「とんでもなく強いのか」

「異形化した魔物を倒したって言ってた」

「とんでもなくつええぇぇじゃねえか!!」


 異形化。

 限られたほんの一握りの魔物のみが、理性とあと一つ何か大切なものを失って手に入れる絶大な力。


「相手の能力は!? 聞けたか、ねーちゃんの友達ってやつに!」

「聞けた」

「すげえな! さすが相棒だぜ! で、どんな能力なんだ?!」

「歳を奪い、与える能力」

「と、歳を奪う!? 一体どういう意味なんだ!」

「そのままの意味よ」

「だから分からねえから聞いているんだろがい!!」


 チッ。


「おい、舌打ちするな! 拾っているからな、俺様のこの猛り狂うこの耳がよお!」

「…………ここに大きな樹がある。樹齢何年くらいだと思う?」

「五十年くらい?」

「じゃあこの樹は五十歳とする」

「おう」

「姉の友達の異形化能力有効範囲にこの樹が入ったとする」

「すると」

「この樹が縮んでいきます」

「おお、おおおお!? なんでだ!?」

「五十歳から四十九歳に、四十九歳から四十八歳に、といったようにこの樹が段々と若返って行くから」

「お、おお! 理解出来そう! その奪われた歳は何処に行くんだ!?」

「姉の友達の元へ」

「おおおおおおおお!!! まさか、そのねーちゃんの友達ってやつは奪った分だけ、成長する……歳を貰うのか!?」

「そう」

「つ、つえええええ!!! な、なあ、ちなみにだが、この樹が五十歳分、つまり全てだ! 全ての歳を奪われたらどうなっちまうんだ!」

「消滅する」

「はっ……?」

「消滅する」

「いや、聞こえている! 聞こえているぜ!? だ、だけどよ、その言葉が信じられなくてよ!」


「異形化は代償が大きい分、理不尽な能力。無限に増殖する、人間種のみを根絶やしにするウイルスになる、死者を現世に引き留めて永遠に生きる従者にする……全て異形化によって得られた力。竜王家は異常だから、その力を得られた該当者が多い。スピサもマ……母に聞いてみるといい」


「え、それはやだ。あのババア何を聞いても最終的に『で、俺が一番強いって訳』って言って来るから話になんねえ。この樹と喋っている方がマシなレベル」

「へえー。スピサがそのまま大人になったら同じような事言いそうね。酒を片手に持ちながら」

「ならねえよ、俺様はあんなババアみたいな戦闘しか出来ない奴には。これでも、ああはなるまいと、毎日一時間以上は勉強するようにしてるんだからな」

「え゛っ!? ……ちなみに何の教科の勉強を?」

「え、剣術だけど? ほら、カッケーじゃん」

「あー……。頼りにしてま、す……よ?」

「なんか歯切れわりいな」


「――で、アズモだけど!」


「お、おう、なんだ急に」

「はっきり言って無理だわ、勝てない。姉の友達に『どうやって勝ったの?』って聞いても『それは秘密』って言われちゃったから分からないのよね、あたしにも。同じ場面に立ち会った時に勝てるビジョンが見えない」

「うーん、そうなると俺様もお手上げだな」

「だからアズモに勝つのは諦める」

「って、おい! 諦めちゃうのかよ!?」


 スピサが「ここまでのくだりはなんだったんだよ!?」と言いたそうにしながら、掴みかかろうとしてきたので避ける。

 ふと思い立ち、脳天にチョップを落としてみたが、当たり前のようにガードされた。


 脳天に目でも付いてんのか、こいつには。

 なんで見えて無いのに、ピンポイントでガードが出来るんだ。


 ふとしたこういうのさえ無ければこいつとの相棒関係なんてとっくに解消してるのに。


「話は最後まで聞け。……最後にアズモを超える方法」

「超える? 勝つじゃなくて、超えるなのか?」

「ええ、理論上超える事なら可能。成功したらこの保育園の伝説になれる」

「で、伝説! うおおおおお!! 教えてくれよ、相棒! どうしたら俺様達は伝説になれるんだ!?」


 対象人物に対してピンと指を指した。


「大人に勝つ」



余談ですが、メロシィヌは母親似です。

母親のミゾレさんは、事業活動で凍てつく大地に降り立ったウン千歳年下のフィドロクアに「ドチャクソ好みな顔した年下がやって来ましたわね」で襲い掛かって嫁入りしました。

ミゾレさんに挨拶されたギニスは3秒間はフリーズしました。

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