二百三十四話 「アズモを超える」2
「アズモがどれくらい強かったか? そうね……」
休日になり、姉が帰って来たのでアズモの事を聞いた。
姉は「うーん」と唸りながら目を瞑り、腕を組む。
言葉で強さを表すのが難しいのか、はたまたそんな事を考えた事が無かったから返答に困っているのか。
「あ、そうだわ」
姉は目を開き「閃いたわ!」と言わんばかりの顔をした。
「学園中で私の次に強かったわ! あたしが一番で、アズモが二番!」
「……」
本当なのか?
同学年じゃなく、学園内で姉が一番強かったという事にそもそも引っ掛かるのに、その上でアズモが次に強いと……。
「やっぱり姉が最強!」
「そうよ、あたしが最強! 一番!」
取り敢えず、姉の言葉は信じられなかったが乗っかっておく。
「やっぱり姉凄い!」
「そうよ、あたしは凄いわ!」
「姉すごーい!」
「ふふふ、そうよ! あたしは凄いのよ! 空中戦でも、陸上戦でも無双したわ!」
「すごい、すごーい!」
空中戦でも、か……。
あたしはまだ飛べない。
だけど、アズモは魔物化して飛ぶ事が出来た。
いつからだ。
いつから、アズモは空を飛べるようになったんだ。
「ねえ、アズモはいつから魔物化が使えるようになったの?」
「さあ、あたしは妹と違って保育園に通ってなかったから保育園時代の頃は知らないけど、スイザウロ学園で会った時には飛べていたわね。あ、勿論、あたしもよ!」
「そうなの? なんで姉はアズモと同じように保育園に行ってなかったの?」
「んー、なんかパパが『力の使い方が分からない間は、周りの奴等が危ねえかもしれねえから家に居ろ』って。だからほんと退屈だったわ。パパとママが相手してくれたからその時は分からなかったけど、学園に行ってから『あー、あたしって退屈な幼少時代を過ごしたんだなー』って思ったわ」
「そうなの?」
「そうよ。だから保育園に行っている妹が羨ましいわ。良い? 友達沢山作って遊びまくるのよ! というか友達は出来た?」
「出来た。スピサって奴。なんか炎王龍の娘で、保育園で一番強くなるって言っている奴。あたしとコンビを組んで一番になるんだって」
「一番……。素晴らしいわ! その子はあたしみたいに大物になるわ!」
……。
表情に出しちゃ駄目だ。
いや、絶対そんな事ないと思う。自惚れているだけだと思う。
……なんて絶対に顔に出しちゃ駄目だ。
姉は凄いけど。
空飛べるし、格闘戦強いし、水吐けるし、氷吐けるし、ゲーム強いし、可愛いし、美人だし。
勉強できないだけでそれ以外は凄いし。
「スピサに言っておく」
「ええ、そうして頂戴。偉大なる姉が褒めていたわって」
「分かったー」
うーん、だけどアズモの強さがよく分からないな。
当時の強さを知っている人何処かにいないかな。
会話が終わり、姉に一週間振りのじゃれつきをしながらそんな事を考えていた。
「――フィーちゃんー、お友達が見えたわよ」
暫くすると、ママの声が聞こえた。
「お邪魔します」
ママの声に続き、友達の声が聞こえた。
この上品で余裕のある大人の女みたいな声は……。
「げっ、スフロア」
スフロア姉だ。
姉に無い物を持っていて、とにかく美人な黒髪のお姉さん。
「げって何よ、げって。週末の課題をものの見事に学校に置いてったあなたの内心点を見かねた、あなたの担任の先生に『すまんが、ラフティリに課題を持っていってやってくれ、やらないと思うが一応』って頼まれたブラリに『ごめーん、週末予定あるから僕の代わりに持って行ってあげてほしいな』って頼まれたダフティに『私、あの方とそこまで親しくないので代わりに持って行ってくれませんか。すみません、兄様からのお願いを断るという選択肢はなかったので』って頼まれて渋々やって来た友達に対する答えがそれであっていると思っているのかしら? げっ、じゃなくてそこは『来てくれてありがとうございます、スフロア様』くらいは言うべきじゃないかしら?」
うわ、たらい回しにされた面倒な案件を引き受けさせられる幸の薄い人だ。
こんな美人な人を使いっぱしりにするなんてやっぱ姉は凄い。
「宿題、要らない。持って帰れ」
「受け取れって言ってんでしょ馬鹿」
姉が紙でバシっと殴られる。
やっぱ凄いな、姉。
普通だったら、ごめんって言ってしまいそうなところを「要らない」って突っぱねる事が出来るなんて。
今度機会があったら参考にしよう。
「ほら、受け取れ」
「むーん」
「あと終わるまで見といてあげるから」
「え゛」
「泊まりも覚悟しているから必要な物は色々持って来たわ。おばさんにも宿泊の許可はもらったから」
「む……」
「私の覚悟は出来ているから後はあんたが覚悟するだけよ?」
「むえー……」
姉が負けた!
妹の目の前で、妹に慕われる偉大な姉が負けた!
こ、これがスフロア姉の力……。
推し姉替えしようかな……。
姉がいじけた顔をしながら課題をペラペラと捲る。
「これあたしじゃ真面目にやっても一日じゃ終わらないわ。というか多くない? なんでこんなにあんの?」
「じゃあ私が泊まる事は確定か……。はー、量はあんたの今までの積み重ね。何も積まなかったからそうなっているの」
「なにそれー……」
「それは私が聞きたいわ。よく見たら一年生の時の課題混ざっているし、よく進級出来たわね、あんた」
「まあそこはあたしお得意の実技でちょちょいのちょいだわ」
「天性の才能が、勉強方面にも割り振られていたらどれだけ良かった事か……」
スフロア姉は大きな溜息を吐く。
「良い? メロシィーちゃん、こんな姉みたいになっては駄目よ。そりゃ、戦闘の才能は随一だけど、それ以外が参考にならないから」
「分かったー」
右手を挙げて子供らしく答えておいた。
「はあー」
課題と荷物をソファの近くに置いたスフロア姉が溜息を吐きながら、あたしの元へやって来る。
「む?」
何だろうと思っていたら、スフロア姉はあたしを抱っこして来た。
「はー、本当に可愛い。可愛いわ。なんで妹ってこんな可愛いのかしら? 姉はやっぱ駄目ね。可愛くないし、腹は黒いし、顔と男を誑かす能力だけ。やっぱり求められるのは妹ね」
そうだ、スフロア姉は家庭の事情が竜王家や、混血王家並みにぶっ飛んでいるんだった。
「スフロア姉」
「なぁに? メロシィーちゃん?」
「だいすき!」
そう言って、スフロア姉の豊かな双丘に顔を埋めた。
姉よりは劣るけども。
妹力が高いあたしにしか出来ない仕事を果たす。
良い妹として振る舞う。
それがあたしにしか出来ない、多くの姉達を癒す役割。
「……! か、可愛い! なんて可愛さなの! ねえ、ラフティー、この子持って帰って良い!?」
「駄目だわ。あたしの妹だから」
「そこをなんとか!」
「無理」
「くー!! ここで時間の許される限り甘えてもらうしかないわね! あんたの家に来る唯一のご褒美だもの! メロシィーちゃんタイムは!」
そう言ってスフロア姉があたしの身体を揉み込む。
あちこち触って来るのに、いやらしさを全く感じないのはこの人の気品からなのか。
しばらくスフロア姉にされるがまま脱力していたら、一つ思い出した。
そう言えば、スフロア姉もアズモの同級生だ。
もしかしたら、保育園時代のアズモの事も知っているかもしれない。
「ねー、スフロア姉ー」
「なぁに? メロシィーちゃん?」
「アズモって知っている?」
そう聞いたら、スフロア姉の手が止まった。
「知っているわよ」
その言葉には重みがあるように感じた。
「アズモってどんな奴だったの?」
「そうねえー……」
スフロア姉はそう言って少し考え込む。
「アズモは私にとってヒーローだったわ」
ヒーロー。
ヒーロー?
女なのに、ヒーロー?
「ヒーローって?」
「王子様って意味よ。まああいつが聞いたら怒るでしょうけどね。でも、私にとってあいつはどうしようもないくらいヒーローだったわ」
ああ、この人は姉と違う。
アズモの事を芯で捉えている。
言葉を紡ぐときの表情が姉と違う。
まるで、恋する乙女のよう。
聞きたい。
もっとこの人からアズモの事を聞いて知りたい。
「教えて、アズモの事をもっと」




