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二百三十三話 「アズモを超える」1


「おいお前、俺様の相棒になれ」


 全身から炎を迸りさせながら、赫灼の翼を広げた子があたしにそんな事を言って来た。


 ジャカランダ保育園、登園日初日。

 転移魔法であたしと一緒に保育園にやって来たパパが、「じゃあパパは大人の話をしてくるから」と言い残し、厳しそうな顔をした先生と何処かに行った。

 暇潰しに水ブレスで地面にお絵描きしていたら変な奴が絡んで来た。


「誰おまえ」

「よくぞ聞いた! 俺様の名前はスピサ! 竜王家六女こと、炎王龍アミフィリア・ネスティマスの娘だ!」

「ふーん。誰」

「俺様の名前はスピサ! 竜王家六女こと、炎王龍アミフィリアーー」

「長い。誰」

「だからスピサだって言っているだろうが!」

「スピサ?」

「そうだ、スピサだ。やっと覚えたか……。で、お前は誰なんだ。今度はお前が俺様に自己紹介する番だぞ」

「え、やだ」

「なんでだよ!」

「パパが変な人とは話してはいけませんって」

「こいつ……! 俺様がこんなに友好的に話し掛けてやっているというのに……もう許さん! 燃やし尽くしてやる!」


 そう言うと、スピサは口元に魔力を溜め、炎ブレスを吐いて来た。


 あたしは溜息を吐いてから、口元に魔力を溜める。


 スピサの放った炎ブレスは眼前まで迫っていたが、あたしが水ブレスを吐くと、瞬く間に押し戻されスピサの眼前まで達する。


「うわっ!」

「シンプルに、炎が水に勝てる訳ないわ」


 あたしの水ブレスにやられ、吹き飛ぶスピサにそう言う。


「それにあたしのパパは竜王家十八男のフィドロクア・ネスティマス。相性はパパに分があるけど、それでもどうしたって竜王家六女のアミフィリア・ネスティマスには勝てっこないわ。それでもあたしはおまえに勝った。どういう意味か分かる? おまえが大好きな親とは違っておまえは弱いってこと」


「なんであたしが雑魚の相棒になんてならないといけないの?」


「くそ……テメー! たった一回のブレス勝負で何勝ち誇っているんだ! ああそうだ、水と炎で相性は悪いだろうが、勝負は相性の有利不利だけで決まるもんじゃねえ! 勝負を決めるのは総合力だ! ブレスで勝ったからってなんだ! 最終的にこの場に立っていた奴が強い!」


 そう言うとスピサはあたしに飛び掛かって来た。


「策も何も無い、愚直な飛び込み……。殴りかかろうとするのが動作で簡単に分かる」


 あたしはしゃがんで攻撃を避け、しゃがんだまま半回転しスピサの足払いを行った。

 スピサの態勢が崩れ、攻撃のチャンスが生まれる。


「弱いわ」


 踵落としを顔面にぶち込む。

 そう決め、動作に移ったが、あたしの足は何も捉えなかった。


「甘ぇんだよ! 俺様達は竜だろ!」


 翼だ。翼があった。

 あまりにも低空飛行で本来の使用用途とはズレている。

 だが、この場では最も良い選択肢。


 足払いにやられて態と態勢を崩し、これ以上ない隙を見せられた。


 隙を見せられて、一撃を加えない馬鹿はいない。


 勿論、それはスピサも。


 スピサは宙を蹴るあたしの横から回し蹴りで、胴を捉えて来た。


「ぐっ!」


 たまらず吹き飛び、校舎に激突する。

 インパクトの直前に炎を脚に纏わせていたようで、噴射による加速とついでの火傷。


 センスは確かにあるようだ。


 胴体を水で冷やしながら、相手の次策を窺う。


 次はどう来るか。


 どうやってそれを絡めとるか。


 それともこちらから飛び込むか。


 ……楽しくなってきた。


 あたしはニヤリと笑い、立ち上がる。


「雑魚って言ったのは取りけすわ。……それとあたしの名前はメロシィヌ。メロシィーって呼んでも良いわ」

「ああ、ならメロシィー、お前も早く魔物化を使え。じゃないと俺様にはついてこれねえぞ」

「あたしはまだ魔物化を使えないわ」

「なにっ!? まだ魔物化が使えないだと! ……俺様の見込み違いだったようだ――」


「――その代わり、結晶化なら使えるわ」


「けっしょうか……だと? なんだそれは」

「見せてあげるわ。ママから貰った力を。……結晶化」


 身体がバキバキと音を立てて割れていく、バキバキ、バキバキと更に音を立てて割れた身体を再構築していく。


 氷像。


 髪は白くなり、一本一本が凍る。

 肌が更に白くなり、頬にバキバキと割れ目模様が入る。

 胴体、腕、脚、全てが凍てつき、所々に見える割れ目が氷になっている事を証明する。


「相性の有利不利の話をしたわね。あたしの本当の属性は氷。だから、相性補完で言うのならば、あたしにとってスピサは良い存在かもしれないわ」

「おいおいおい、そんなのありかよ。水も氷もイケる竜かよ。……やっぱメロシィーは俺様の相棒だ。これは決定事項だ」

「あたしを楽しませてくれるなら良いわよ」

「なら、ババアに禁止されているが火力を上げるぜ。辺り一面が焦土になっちゃうから禁止されていたが、氷相手ならババアも許してくれる……はず。まあ良い、とにかく飛ばすぜ!」


 スピサの赫灼の翼が煌めく。

 地面がグツグツと音を立てて煮え始め、形を失くす。


「面白い。面白いわ」


 スピサに呼応し、こちらも冷気を上げていく。


 空気を凍らせ、焦土から凍てつく大地へと変貌させる。


「この一撃に今の俺の全てを込めるぜ」


 スピサが火球を作り出す。

 それは徐々に大きくなっていき、特大の球へと変わっていく。


「なら、それに合わせるわ」


 宙に氷の塊を作り出す。

 スピサに負けないようにこちらも特大の球を作っていく。


「――はあ、おかしいなあ。なんでちょっと目を離しただけでこうなっているんだ」


 ……パパ!?


 集中して氷の塊を作っていたらいつの間にか先生を引き連れたパパが火球と氷塊の間に現れた。


「魔物の保育施設ではこのように度々、子供同士の喧嘩や力試しが行われます。……こう度が過ぎた場合、私共も胸が痛むのですが、行動に移させてもらいます。構いませんね?」

「はい、いいです。というか付き合いますよ。保護者と親戚のケジメとして」


 パパと先生が何か喋った後、二人の姿が消えた。


「取り敢えず危ねえからこいつらは空に蹴とばしとくか」


 パパがなんて事ないようにスピサの作った火球を宙に蹴とばし、その後、あたしの作った氷塊を火球に向けて蹴とばした。


 口をあんぐりと開けてボーっとしていると、スピサが先生に殴られ地面に倒れ込むのが見えた。


 次はあたしの番か?

 などと考えている間に、脳天に衝撃が走り意識が途絶えた。



―――――



「おい、相棒」


 昼寝の時間中、スピサがコソコソと話し掛けて来た。


 このジャカランダ保育園に来て少し経った。

 給食が思ったより美味しい事が分かったし、年少組には昼寝の時間がある事が分かったし、周りの魔物の子供らが好戦的な事が分かったし、一部逆らってはいけない先生がいる事が分かったし、スピサが馬鹿だけど悪い奴じゃない事が分かった。


「なによ」

「この保育園に伝説の喧嘩師がいた事が分かったんだ」

「それが?」

「まあまあ聞いてくれ、そいつ三歳の頃には年長組の奴等にも喧嘩売ってはぶっ潰して回るような奴だったらしい」

「イカれているわ」

「だろ? 噂では俺様達の担任のあの先生も懐柔していてそれはもう無敵だったらしい」

「へえ、で。それになりたいの?」

「お、話が分かるようになってきたじゃねえか相棒」

「当たり前だわ。スピサが単純過ぎるんだもの」

「そうか? まあ良いや取り敢えず伝説作ろうぜ」

「馬鹿なの?」

「まあ聞けって」

「そう言えば馬鹿だったわ」

「良いから、聞け聞け。なんとその伝説の暴君なんだがな――」


「――アズモ・ネスティマスって奴らしい」


「アズモ・ネスティマス……って、魂竜じゃない」


 魂竜アズモ・ネスティマス。

 皆から魂を奪う悪い奴で天災扱いされた竜。

 ネスティマス家から出た二体目の天災竜。


「魂竜?」

「ニュース見ろ馬鹿」

「え、てことは、テレビにも映る超有名人ってこと? マジかよ、超え甲斐があるな」


 アズモ・ネスティマス……。


「ん? おい、どうした相棒」

「超える気なの?」


 寝返りを打ち、背中を向けながらスピサに質問する。


「当たり前だろ。俺様達で新しい伝説を作るんだよ。ちなみに、暴君アズモにはルクダっていう子分もいたらしいぜ」

「ふーん……」


 アズモ・ネスティマス……いや、「アズモ」という名前はよく姉の口から出ていた名前だ。


 曰く、親友だったと。


 そう言う姉の目は少し寂しそうだったのをよく覚えている。


 あの元気な事が取り柄の姉を曇らせる人物。


「スピサにしては珍しく面白そうな事を言うじゃない」

「お、珍しく乗り気だな、相棒」

「だって面白そうじゃない、アズモを超えるって」


 あたしがアズモを超えてやる。



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