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二百三十二話 「なんかよく分からないけど、うざいやつ」


「ヒロイン力とは、外堀埋め能力にある」


 黒紫色髪の子が指を立てながら、水色髪の子に熱弁する。


「恋愛なんてまやかしだ。ドキドキしていられるのは一瞬で、やがては一緒に居る事を当たり前の事だと認識し始める。そんな当たり前になってしまう事のために、友達になって話す回数を増やして、二人で出掛ける仲まで持って行って、特別な関係になって、あれこれとプレゼントを送り合って、気持ちを理解し合って……待っている先は倦怠期。空しいとは思わないか?」


「何言っているか分からないわ!」


 アズモの熱弁は、メロシィヌによって一蹴された。


「ここどこ? おまえ誰? コウジ兄はどこ行ったの?」


 メロシィヌは子供心ながらに、事情を知っていそうなアズモに矢継ぎ早に質問する。


「うるさい」


 アズモは質問にそう返した。


「うるさくしてないわ! だいたいおまえの方がうるさかったわ!」

「ふん、私はオタク特有の早口でペラペラ喋っただけだ。無論、オタク特有の早口故、声量はほぼないに等しい。一般人なら「え、なんか言った?」と返す程の声量だ。対してお前は、動員数の少ない地下アイドルを応援する熱心なオタク並にうるさい」

「なに言っているか分からないわ~! コウジ兄~、なんか変な奴がうるさいわ!!」


『あー、ごめんごめん。そいつ今もふてぶてしい顔しているだろうけど、悪気はないんだ』


「コウジ兄の声が聞こえたわ! コウジ兄、こいつ倒していい?」


『喧嘩は駄目だ。メロシィーちゃんは信じられないだろうけど、そいつ、ラフティーの親友やるくらいには、許容力がある奴だからメロシィーちゃんとも仲良く出来ると思うぞ』


「ほんと?」


『ああ、本当だ。……あと、アズモ、こっちの戦いに脳のリソースを全振りしないと下手すりゃ死ぬからあまりふざけるな』


「第一印象が大事だとよく聞くから少しユーモアのある会話をしただけ。これで私の印象はバッチリなはずだ」


『……メロシィーちゃん、目の前の子の事どう思う』


「なんかよく分からないけど、うざいやつ」

「なっ!? 私がコミュニケーションを失敗しただと!?」

『逆に成功した事例を教えてくれ。まあアズモがどう思われるかなんてどうでも良いが、メロシィーちゃんに何が出来るのかは早急に知る必要があるから、アズモはアズモに出来る事を頑張ってくれ。俺は目の前のアギオ兄さんをどうにか凌いでいるから』


 そこで、何かが切れたかのような「ツーツー」という音が流れた。


「あー! 電話切れちゃった! コウジ兄~、こんな奴と二人にしないでよ!」


 これ以上メロシィヌが外界に対して助けを求める事がないように、コウジの言いつけを早急に完了するためのアズモによる演出だ。


「……私と貴様は初対面ではない。実はあった事がある」


 アズモが話し始める。

 今度はテンションに任せた終着点の分からない見切り発車ではない。


「何よ急に」

「思い出してみろ。コウジと貴様が初めてあった時の事を」

「うーん……」

「貴様がコウジの事を認めた後は、コウジやラフティーと仲良くゲームをしていたはずだ」

「したわ。でも三人だった……ん、なんかコウジの隣に小さい奴がいた。……あれがおまえ?」

「理解が早いな。姉よりも記憶力が優れている」

「え、なんで居たのにゲームに参加しなかったの!? あんなに面白かったのに!」

「私には身体が無いからな。参加したくても出来ないのだ。まあ、何戦かはコウジの身体を借りてやってはいたが」

「そうなの?」

「ああ、勿論その時は全て一位を取った」

「うーん……?」

「信じられないなら一戦するか、ちょうどそこに私の模倣したゲーム機がある」

「やるわ!」


「フン」

「ギャー!」


 一勝。


「フン」

「ギャー!」


 二勝。


「フン」

「ギャー!」


 三勝。


「では、もう一戦……」

「もういいわ! 分かったから! あとアニメで見たけど、普通こういうのって、弱い方が負けを認められずに何戦も申し込むもんじゃないの? なんで自分で一戦って言っときながら当たり前のように四戦目に行こうとしているの?」

「ラフティーならそうだったから……」

「あたしは姉とは違うの! あたしはあったかい姉とは違って、冷たい女なの!」

「……」


 アズモが唇を結び、頬を膨らませる。


「あたしは冷めているのよ!」


 アズモの頬が更に膨らむ。


「キンキンなの!」


「――!」


 ドッ。

 アズモが噴出して、暫く笑う。


「酷い、笑ったわ!」

「悪いとは思っている。貴様はラフティーみたいに能天気ではないのだな」

「あたしと姉とでは環境が違うの! 姉は学園に通うまでパパとママの元で育ったから事件も起こして無いし!」

「姉は学園一年目で、父親を目の前で瀕死にされ、親友を二人異形化されたがな」

「……!」

「貴様に何があったか知らないし、私が異形化した後ラフティーがどう過ごしたのかも知らない。……だが貴様ら姉妹は似た者同士だと思う」

「……ラフティー、ラフティーっておまえはさっきからなんなのよ!? 姉にとってどういう存在なの!」

「親友だ」

「……」


「私の名前はアズモ・ネスティマス。今世界を騒がせている魂竜アズモ・ネスティマスの一部。貴様の姉とはスイザウロ学園で出会い直ぐに打ち解けた。今にして思えば、同じ竜として対抗心をメラメラ燃やされていたような気もするが……。だが、同じ布団で寝るくらいには仲が良かった。そして……クラス対抗戦後に心の支柱であったコウジを奪われ異形化した哀れな竜だ」


 私には友達が居た。

 全員、コウジのお陰で出来たと言っても過言ではない友達だ。


 スフロアに、ルクダに、ラフティリに、ブラリ。


 皆大事な友達だった。


 だけど、コウジの存在が大きすぎた。


 コウジ無しでは生きられないと思ってしまった。


「冷たくて、冷めていて、キンキンな女で、事件も起こしたか。だが、水面下ではコウジ以外の全てを信じていなくて、魂竜の進行予報が連日のニュースで報道される私よりはましだろうな」


 私以上に最悪な奴はいないだろう。


「メロシィヌは私にとって、ただの可愛い子供。そこら中に居る大勢の子供の魔物の中の一人。それ以下でもそれ以上でもない」


「…………メロシィーでいいわ。認めてやるわ、あたしの大事な人って」


「そうか、では私の事もアズモと呼ぶと良い」


「ねえ、アズモはコウジ兄に何を頼まれているの?」

「メロシィーの記憶を読んで、どういう戦い方が出来るかを知る事だ」

「あたしの記憶を読む……」

「ああ、先程言っていたが『事件』という物があるのだろ。一緒に振り返るように観る事も出来るが、嫌ならば私がメロシィーの頭を覗く事も出来る」

「勝手に覗かれるのは嫌だわ。見るのなら一緒に観るわ。それにあの日の事は、自分で決着させているつもりだわ! 力には責任が伴う、パパがそう教えてくれたの!」

「では、メロシィーの半生上映を始めよう」



―――――



「マ、マ……」


「ママって言おうとしているわね。これはシィーちゃんに一番に呼んで貰える喜びは貰ったわね」


 ゆりかごから見える三人の顔と、自分の両手。


「アネアネアネアネアネアネアネアネアネアネアネアネアネアネ」

「ア、ア…………アネ」

「やったわ! あたしの勝ちよ! ほーら妹よ、姉の抱っこよー」


 伸ばしていた両手ごと身体をすくわれ、姉に抱っこされる。


「キャッキャッ!」


 あたしは嬉しそうに声を漏らす。


「ちょっと今のはずるいわよ~」

「ずるくても良いのよ。あたしがどうしても一番に呼ばれたかったもの」

「目的のためには手段を選ばない。流石、ママの娘だ……」

「ちょっとどういう意味なのかなー、フィーくん?」


 視界の端でママがニコニコしながら、パパを早歩きで追いかけ回すが、あたしはそんな事関係なしに、姉に抱っこされた。



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