再会
「シズク!」
俺がそう言うとシズクがこちらに気づく。
「あ、ユウト」
こっちに気づいてもまるで驚く様子がない。
「お前、こんなところで何してるんだ」
「んー・・・弁償?」
「は?」
言っている意味が分からず俺が首をかしげていると、そのやりとりを見ていたジェームスがこう言った。
「おい、ユウト。この可愛い子は誰なんだ?知り合いなのか?」
「ああ。俺の探していた人のうちの一人だ」
「――!」
俺がそう言うと、レミリーやソフィアさんもこちらを振り向く。
「じゃあ、この人が・・・?」
「ああ」
「?」
俺達のやりとりを不思議そうに見ているシズク。
そこへ、厨房に行っていたエレニアが戻ってくる。
「シズクー終わったら次はこっち・・・ん?コップが割れてるじゃないか!シズク、早くホウキとちりとりを持ってきて」
「うん」
そうして割れたコップを掃除したあと、俺はエレニアにシズクの事を聞いてみた。
「こいつはどうしてここで働いているんだ?」
「ん、知り合いなのか?」
「エレニア、これがユウト」
「何、こいつがか!名前が同じだからなんとなくそんな感じはしてたが・・・。
まあいい。
じゃあ、ご飯を食べながらでいいから聞いてくれ。
こいつがどうしてここで働いているかというと、私の大事にしていた写真立てを割ってしまったからだ」
そうしてエレニアはカウンターの内側の戸棚から割れた写真立てを取り出した。
「これは結構高いやつでな。本当ならすぐお金で返済して欲しかったんだが、お金も何もないって言うんでこうしてバイトとして働かせていた」
「そもそもどうしてシズクがここに?」
「私が皿洗いをしていた時にな、突然入口が光ったんだ。何かと思ったらこいつが倒れていてな。それで後ろから声をかけたら突然攻撃されたんだ」
「あー・・・」
シズクは背後に忍び寄られることを嫌っている。
暗殺者としての名残がまだ残っていて、背後に忍び寄られると反射的に攻撃してしまう。それで攻撃されたんだろう。最近は無くなったと思ってたが、慣れない環境で驚いて手を出してしまったのだろう。
「で、私が避けた先に写真立てがあって、あとはご察しの通りだ。しかしなかなかいい一撃だったな」
「・・・そういうわけ」
「お前な・・・。まあでも無事でなによりだ」
とりあえずほぼ奇跡に近い確率でシズクを見つけることができた。これで後はユキとリリカを見つければ・・・。
ん?待て。
とりあえず現段階の最優先事項は3人を見つけることだ。
でも見つけたあとはどうする?魔界に戻ったとして俺たちに何ができる。
まして俺は今、能力的には人間となんら変わりない。敵に見つかれば完全に詰みだ。
じゃあ人間界へ残る?でもあの聖族たちが追ってくるかもしれない。光の扉は解除方法を知っている者がいるのなら、別に誰で開けようと思えば開けられる。聖族達が知っているとも限らない。
ただ、あの聖族のトップ・・・エリーゼには、前も思ったが懐かしく感じた。
向こうは何故か俺の名前を知っているようだったし・・・俺の魔王に出会う前の記憶に何かあったと考えるのが妥当だろうか。
しかしどうして思い出せないのか気になるな。
・・・と、俺が考えていると、シズクが俺に近づいてきて、包帯で巻かれた俺の手に優しく触れた。
「・・・怪我、大丈夫?」
「ん、なんだ心配してくれてるのか?確かにあの時はやばかったが、そこにいるソフィアさんに手当してもらったから大丈夫だぞ」
「そう、それならいい」
そう言うとシズクは静かに呪文をつぶやいた。すると間もなくして青いオーラが俺の怪我している腕を優しく包み込んだ。自然治癒の速度を数倍にあげてくれる魔法だ。
「助かるよ」
「・・・ん」
いつものような辛辣な言葉ではなく、素直に応じるシズク。心配をかけていることがわかった。
「シズク。他の2人は?」
するとシズクは首を横に振る。
「知らない。念話にも応答しなかったし・・・。そういえばユウトはなんで念話に応じなかったの」
「あーそれはだな」
「待って。それは私が説明するわ。私の責任だもの」
「・・・?」
そこへレミリーがシズクの近くへと寄り、軽く一礼をした。
「初めまして。貴方が、ユウトの探していた人ね。私はレミリー=オルコット。レミリーって呼んでくれて構わないわ」
「そう」
大して興味がなさげな表情で頷くシズク。レミリーは続ける。
「ユウトはね、私のせいでいま魔法が使えない状態なの」
レミリーがそう言うと、シズクの表情が変わった。
「どういうこと?」
心なしか怒っているように見える。いつも表情を変えないシズクにしては珍しい反応だった。
そしてレミリーはシズクに全てを話した。レミリーが実は吸血鬼で、俺の血を吸ったことで病が完治し、俺が魔法を使えなくなり、レミリーが俺の魔法を使えるようになったこと・・・。
シズクは話の腰を折ることもなく、かと言って相槌を打つわけでもなく静かに聞いていた。
「そう・・・」
レミリーの話が一通り終わると、シズクはこちらに寄ってくる。そして肩に手を置いてこう言った。
「・・・私はユウトが雑魚になっても気にしないから」
「・・・」
そしてそのまま他の人の注文を取りに行ってしまった。シズクの言った言葉にエレニアとジェームスが笑った。
「ユウト、あんた女の子に雑魚って言われるなんて・・・。惨めだね」
「あの子、シズクちゃんはもしかしてユウトの事嫌っているのか?」
「いや、あれはいつものことだ。嫌ってはない・・・と思うが」
しかし、一度怒ったように見えたのは気のせいか?
「なんというか・・・個性的な人ね、シズクって」
「ええ・・・」
「どうしたんですか?」
「はい。人間でないならここに来るまでに私が気づいていたはずですが・・・どうして気づかなったのでしょう」
「ああ、それは・・・。
シズクは気配を消すことが可能なので、もしかしたらそれで気づかなかったのかもしれません」
しかし、ソフィアさんが満足のいく答えではなかったようだった。
「いえ、例え気配を消されていたとしても、私は見つけることができるのですが・・・。これは興味深いですね」
「ソフィアにこんなこと言わせるなんて、シズクはもしかしてすごい人なのかしら?」
「すごい人かどうかはともかく、かなりの魔法の達人ですよ」
そうして働いているシズクを横目に見つつ、俺達は昼食を終える。
昼のピーク時は過ぎ、人が減ってきたところで俺達はエレニア店内の客室へと案内される。シズクも一緒だ。念の為シズクに、防音の魔法をかけて結界を貼ってもらい、外に声がもれないようにしてもらう。
「シズク、あんたそんな魔法使えたんだ。すごいな」
「・・・ふっ」
こちらにドヤ顔でピースしてくるシズクを無視して俺達は話を進めることにする。仕切り役はエレニアだ。
「とりあえず、一度さっきのことを整理しよう。
お嬢は婚約が嫌で逃げ出してきた。本来ならお嬢は外に出ることは容易ではなかったが、そこにいるユウトの血を吸ったことにより何故か病気が完治。それにより、外へ出ても大丈夫になり、こうして私のもとへ逃げてきた・・・合ってるか?」
「ええ。その通りよ」
「ふむ・・・」
そうしてエレニアは何かを考え込むようにして黙った。彼女が口を開くのを一同は静かに待つ。
「よしわかった。じゃあとりあえず今夜は2階の部屋を使ってくれ。本当なら、ここへずっと泊めてもよかったんだが、いかんせん警備が心もとない。いくら私とソフィアが強いとはいえな」
エレニアがソフィアに目配せすると静かに頷く。
「確かに、厳し目の評価になりますがここだともし仮に誰かに襲撃された場合、すぐに逃げ出すことができません」
「そうだ。私一人なら別に問題ないんだが、全員となるとちょっとな・・・。
だから私は今考えた。
するとだな、一つ思い出したことがあったんだ。ここから1km離れた場所に私の知り合いがいるんだが、そいつなら匿ってくれるかもしれん」
「なるほど・・・。貴方の言うことだから信用しますが、一応聞いておきます。
その方は信用できる人ですか?」
慎重なソフィアさんに大して、エレニア大丈夫だと真剣に頷いた。
「ちょっと変態でロリコンのどうしようもない奴だが信用は出来る男だ。ただ、対価にどんなことを要求してくるかはわからん」
ロリコン、という言葉に何故かジェームスがびくっと反応した。ソフィアさんがジト目でエレニアを睨む。
「それ全然信用できないのですが・・・」
「大丈夫だ。お嬢は奴の対象からは外れてるさ」
そう言って笑うエレニア。
「ロリコンだってさ。ユキと会ったらどんな反応するだろうか」
俺がシズクにそう問いかけると、シズクはどうでも良さそうにこう言った。
「多分、襲われる」
「だろうな。ユキの可愛さはたまに俺でも――いっ!?」
そこでシズクにかかとでつま先を踏まれた。すごく痛い。
「ユウト、顔がだらしな・・・いや、きもい」
「わざわざ悪い方に言い換えなくてもわかるから・・・」
「ユウト、何してんだ?」
「ん、いやなんでもない。続けてくれ」
そうして俺たちは、その男のもとまで案内してくれることを約束したあと、再び厨房へと戻っていくのだった。




