Ep91 言ってわかんないなら、殴ったのよ。例えそれが神だとしてもね
サナを残して行くことに後ろ髪をひかれつつも、ユーノラと風香は玉座の裏の扉前へ行く
この中に歴代王族達が収集してきた宝物と、ドワーフ王を決める王冠がある
入り口のセキュリティーは、王族にのみ代々伝えられている
ユーノラはメモを取り出し、扉の仕掛けを一つずつ外す
落ち着いてやればさほど難しいものではないが、外から聞こえる激しい戦闘音がそれを邪魔し、仕掛けの解除が思うように進まない
「大丈夫、サナは負けないわ」
震えるユーノラの手を風香が左手でそっと支える
「だから、ユーノラさんは落ち着いて、出来ることをしましょ」
「ああ、そうだったな。……すまない」
「謝るよりも、全部終わらせてから感謝の言葉が聞きたいかな。サナもそう言うと思うわよ」
いや、サナなら剣か戦う相手を報酬として要求するだろうなぁと風香は内心思っていたが、空気を読んで黙っていた
しばらくすると、カコンと何かが外れる音がして、扉が静かに開いた
中には、ピカピカに光るアイテムや財宝で溢れかえっていた
「うわぁ、さすがは国の宝物庫ね」
風香は中のものに圧倒されていた
ユーノラはそれらに目もくれず、目的のものを探す
少し時間はかかったが、部屋の一番奥にそれはあった
手のひらに収まってしまう程度の小ぶりな王冠
宝石なども付いておらず、全体的にくすんでいる所は年代を感じさせる
しかし、それでもなお有り余る存在感を放っていた
ユーノラは初めてこの王冠を見たが、一瞬でこの王冠以外ありえないと感じた
埃などから守る防護ケースを慎重に外し、王冠を手で持ち上げる
その瞬間光が迸り、王冠が宙に浮かぶ
そして、王冠を中心にして、白いひげを蓄えたドワーフが現れた
「儂を呼び出せるとは中々のものじゃのう」
「あなたは?」
驚きながらも、ユーノラは問いかける
「儂か? 儂はこのドワーフ王国を司る神にして、王の選定者じゃ」
「か、神様!」
ユーノラはその場で平伏する
「神様お願いがあります、ドワーフ王国はいま最大の危機に直面しております、ぜひそのお力をお貸しくださいっ!」
「それは無理じゃ、女に王となる資格はない」
「そんな」
「ふむ、まぁここまで来たことは誉めてやろう、ふはははは」
王冠の神はユーノラを馬鹿にするように笑う
プチッ
実際に何かが切れたわけではないが
絶望に顔を染めるユーノラの横で、怒りに震える者がいた
「ふざけんじゃないわよ、神だか何だか知らないけど、ちゃんと見もしないで、人の覚悟を踏みにじるんじゃないわよ!!!」
いつの間にか合流していたサナが声を荒らげる
「サナっ」
風香が止めるが、それを聞く耳などなかった
「ほう、どうすると言うんじゃ人間? 下位の存在である貴様らではどうすることもできんぞ」
余裕を浮かべる王冠の神に向かって飛び掛かったサナの拳は空を切り、後ろの棚に突っ込む
しかし、それで諦めるサナではなかった
見てないと思っていても、誰かが観ていることがある
激戦を乗り越えボロボロになった少女、もうここで歩みを止めても誰も文句を言わないだろう
しかし、それでも前に進み、神にまで立ち向かう少女の姿に心を動かされてしまった
―――おもしろい、お前なら―――
それはささやく様な声だった
しかし、先程までとは何かが変わった
ドガァ
再び振り抜いたサナの拳は王冠の神の顔面にクリーンヒットした
「ぐはぁあ、な、なんだと、なぜ儂に触れられる」
殴られた痛みよりも、殴られたことに対する衝撃に王冠の神は目を白黒させる
「知らないわよ、でもこれで、あんたが首を縦に振るまで殴れるわね」
キラーンとサナの眼が光る
「げはぁ、やめ、ごは、話を、がぁ、死っ」
「サ、サナ殿。さすがに、そろそろ」
色々なことが一気に起こりすぎてフリーズしていたユーノラが、慌ててサナを止める
「はぁはぁ、何というやつだ」
「何よ。で、どうするの?」
サナの眼が光り、拳が握られる
「くっ、仕方が……」
「あっ?」
「うっ、ぜひユーノラにドワーフ王国の次期国王をやってもらいたい」
「あの、良いんですか?」
「構わん。これ以上殴られるのはごめんじゃ、それに、どうやら儂は耄碌しておったようじゃ」
「何、手のひら返すの早すぎない?」
疑わし気に、サナが睨む
「ホントじゃ、さっきまで何故か頑なに否定していたんじゃ、おぬしに殴られているうちに悪いものが薄れて行ったと言った方が良いかもしれん」
「ふーん」
「信じてくれ」
王冠の神が必死に訴える
そう言えば、嫌な感じが失くなっている気がする
そして、いつの間にか王冠は金色に輝いていた
「改めて、王の選定人たるドワーフ王国の神ジノ=ベッケルニが宣言する。次期ドワーフ王国国王はユーノラ=ベッケルニじゃ」
宙に浮いていた王冠は、ユーノラの頭の上へ移動する
「王国の安寧の為、全力で問題に当たらさせていただきます」
「うむ、任せたぞ」
ユーノラの言葉に笑みをたたえて満足げに頷き、ドワーフの神ジノは王冠に吸い込まれるように消えてしまった
宝物庫から出ると、そこには簀巻きにされた国王ゼオとシーチやみゅうみゅう達潜入部隊の面々がそろっていた
「なっ、馬鹿な、まさか王冠に認められたというのか!」
ユーノラの頭の上に乗っかる王冠を見て、ゼオは目を見開いて驚く
そして、力なくうなだれてしまった
何か小さい声でぶつぶつ言っているが、誰も気に留めなかった
『激戦が続く広場の前
異種族たちも、ドワーフたちも激しく戦っていた
誰が最初に気づいたかはわからない
光り輝く王冠をその身に乗せて皆の前に現れたユーノラ
ある者は歓声を上げ
ある者は平伏し
ある者は涙で頬を濡らした
そして、皆一様に矛を収めた
後に、英雄王と称されるユーノラ=ベッケルニが真にドワーフ王国の王になった瞬間であった
(英雄王ユーノラ 第三章第8話 降臨せし英雄王より抜粋)』
おまけ
実際はサナが暴れてる馬鹿を何人か殴って、静かにさせたとか、させなかったとか
それを止めたユーノラに対して、あるドワーフ兵が「悪鬼羅刹さえも、意のままに操る、あの方こそ我らの英雄王だ」とかなんとか言ったのが、英雄王の由来だったりするとかしないとか
後の歴史家には知る余地もない
これにて4章終了となります
出来たら評価とかブックマークいただけると、作者のモチベがアップップですよ
うん、ホントに




