Ep68 出かけた先はドワーフ領
ブンッと軽快な音を立てて、サナは最後の魔物を打ち倒す
<ランク4>である大型の魔物ヘビーリザードも、レベルが上がった彼女にとって既に強敵というカテゴリーからは外れつつあった
「よしっ、上々!」
サンドルクの街から北東を目指し出発した初日
普通に街道を進むサナを見た風香はちょっと感動していた
元々裏方の仕事も多くこなしていた風香は、常に想定外な事でも対処できる様な準備を心がけている
しかし、毎回サナは多少を上回った想定外な行動にでる
その為、どう準備しても尽きる食料、装備、アイテム……
「武器がなくなったら、そこら辺で調達すればいいのよ」
これはサナと出会った頃に聞いた言葉だ
その時は冗談だと思ったが、この世界に来てすぐに本気だったと思い知らされた
最近はいい加減慣れたが、それでもやっぱり癖で準備してしまう
どうせ無駄なこととは思いつつ
だが、今回は違った
サナが寄り道しないのだ
遠くに魔物が見えたら、考えるより先に体が突っ込んでいくような彼女だというのに
淡々と道を進み、進行を邪魔する魔物だけ対処する
その結果、風香が当初計算していた3日分の距離を初日の夜には踏破しきってしまった
サナの急変ぶりに驚いたが、せっかく順調に進んでいるのだ
余計なことを言って水を差すのもよくない
そう考えた風香はあえて何も言わずに、温かい目で見守ることにした
レベルアップは人間的な内面も成長させるものなのかもしれない
夜寝るときにはそんなことまで本気で思った
次の日
「ねえサナ、なんで? どうして?」
出発してから数時間後、気づけばいつも通り完全に道から外れて魔物狩りに興じていた
「ん? どうしたのよ風香、変な顔しちゃって」
襲いかかる魔物を弾き飛ばしながら、楽しそうに聞き返してくる
「昨日はずっと街道進んでたじゃない。なんで今日はいきなり道外れてるのよっ!」
「んー、ああ、そのことね、よく見てるじゃない風香」
そうなのよねぇ、と言ってサナが話し始める
要約すると実に単純な話だった
強そうな魔物がいそうなところまで直進してるに過ぎなかったそうだ
それがたまたま今回は街道の上だっただけということらしい
確かに、北東へまっすぐ伸びる道だった
その話を聞いた風香はガックリと項垂れる
つまりは何も変化してなかった
何か胃に効果のある薬草を本気で探そうと改めて思う風香であった
そこから迷うこと5日
一行はドワーフ王国の入口に当たる街、ゼオルトに到着した
いい加減まっすぐ進まないサナの為に、<広域探査>と<方位探知>の二つのスキルを取得した風香がなんとか誘導した結果だ
何もしなかったら、この倍はかかっただろう
ゼオルトはドワーフ王国への関所も兼ねる街であり、山の中腹に存在している
街は一本のトンネルを中心に南北二箇所で構成されており、トンネルより北側がドワーフ王国となる
ドワーフ王国に入国するには申請が必要となる
もちろんドワーフ以外の種族が対象だ
この申請の審査があまりいい話を聞かないので、風香はサナ達を置いていくことにした
審査を受けて、改めて彼女は自分の判断が正しかったと悟った
サンドルクで集めた情報によると、ドワーフ王国は他種族に対して排他的であるらしい
普通ファンタジーだと、ドワーフは気さくで豪快、エルフとは反りが合わないといったイメージなのだが、なんとも悪い方向に期待が裏切られた感じだ
審査では代表者がいくつか質問を受けるのだが、非常に態度が悪かった
当たり障りなく冒険、観光と答えても明らかな疑いの眼差しで見られ
小娘と馬鹿にされ
人族の嫌味をグチグチと聞かされる
その上で結構な額を取られるのだ
サナだったらあの審査官は今頃メッチョメチョにされているところだろう
こんなところで国を敵になんて回したくない
なんとか、入国許可証を取り次の日にはゼオルトの北側
つまりもうここはドワーフ王国内
そこは街並み自体にあまり差が見られない
しかし、至るところにドワーフ達がいる
ドワーフは人族よりも身長は低めで、男性はヒゲが濃く筋骨が逞しく、女性は人族を少し小さくした見ためだ
総じて、骨格がしっかりしており、恰幅が良い者が多いように感じる
サナ達はとりあえず買い物や観光をするために宿を取ることにした
余談
(サンドルク出発前夜)
サナ編
角御門の執務室を出ると、そのまま建物の外まで足早に進んでいく
既にここでの用事を終えたサナにとって、こんなところは一秒でも居たいところではなかった
「それで姐さん、これからどうするんっすか?」
建物を出るとツナ吉がそんなことを聞いてきた
「さっき指示を出したでしょ」
うんざりしたようにサナが言う
「いやいやいや、風香さんとシーチはあったっすけど、俺は何も聞いてないっすよ」
「あーもう、うるさいわねえ、それくらい自分で考えなさい、あたしは忙しいのよ」
そう言って、つかつかと人混みへと消えていってしまった
「姐さーん」
ツナ吉の声だけが虚しく響いた
やっと面倒事が終わったわ
あたしはこの間サンドルクに来た時、気になっていた建物へと足を向けた
『無敵流サンドルク道場』
無骨な看板が一枚だけ掲げられた入口の前
剣の握り具合を一度確認して門を蹴破る
「たのもー」
とりあえず、普通に道場破りをしてみた
突然のできごとに、全員がこっちを見るがまともに武器を構えられる者の少なさに驚いた
このままここに突っ立っていても仕方ないので、道場の奥へと歩く
ここでようやく門下生らしき人物が声を上げた
「おい、お前いきなりなんだ、ここはお前みたいな小娘が……っ、お前はあの時角御門さんにタメ口聞いた女」
「誰?」
なんかあたしのことを知ってるような口ぶりだが、全く記憶にない
「貴様っ! 俺は角御門さんの護衛ゴーレンだ。あの時は角御門さんがいたからおとなしくしていたが、今度はただじゃぎゅはべふっ」
「話が長い」
ゴーレンと名乗る人物の顔面にサナの拳がクリーンヒットする
人を挑発してるのに無防備過ぎだ
これであの『要塞』の護衛とは……弾除けか?
「おい、女、いきなり不意打ちとは卑怯だぞ」
「ゴーレンしっかりしろ、クソッ」
「女に舐められるなんて」
ここは戦いを教えてる道場じゃなかったのだろうか?
不意打ちがが卑怯とか魔物に言ってみて欲しいものね
もしかして、来るとこ間違えたかしら
サナがそんなことを考えていると、周囲の門下生達が手に持った木刀で襲い掛かってきた
集団で襲いかかることは卑怯じゃないのかしら、と一瞬頭をよぎったが、そんな些細なことはすぐにどうでも良くなった
「少しはあたしを楽しませなさいよ」
そう言って、あたしも剣を抜いた
数分後
そこには門下生たちが死屍累々と積み重なっていた
「弱すぎるわ、なんなのよ、無敵流とか舐めてんの!」
その中心で、不完全燃焼のサナが叫んでいた
「ふっふっふ、所詮そ奴らはただの門弟、師範代である私が相手になろう」
道場の奥から一人の男が出てきた
先ほどの連中よりも骨がありそうだ
15秒後
「ぐはぁ、待ってくれ、私の負けだ」
「雑魚がしゃしゃってんじゃないわよっ! 師範代名乗ってんだから、もっと根性見せなさいっ!」
「ひぃ、助けてくれー」
師範代と名乗った男は、情けない声を出して逃げていった
「ふっふっふ、やつは所詮師範代の中でも最弱、次は我がグハァ」
「やりおるな、しかし御主が倒してきたのは所詮師範代、この副師範のげはぁ」
「……準師範のオレギャフハッ」
「師範のおぐはぁ」
「超師範のベフッ」
「裏師ゲハ」
…………………
…………
……
「次、次はもういないのっ!」
影の真裏最高師範マーク2改をぶっ倒したところで、打ち止めになった
偉そうな名前がついている割には、雑魚ばかりだった
これならまだツナ吉の方が殴りがいがある
このままでも仕方がないので、影のなんとかを蹴って起こす
「ぐはっ、はっ、私は一体、ひぃ、やめてくれ、降参する」
「あんたより強い奴はいないわけ?」
「はいっ、ひぃ、殺さないでください、すみません、私がここの道場の責任者ですので、本部に行けばもっと強い方もいると、はい、ホント調子乗ってゴメンなさい」
本部はサンドルクの街の中にないらしいので、興味を失ったあたしは看板を砕いて外へ出た
それから、暴れ足りないと次の獲物を探しに歩き出すサナであった
なんだか余談の方が長くなったなぁ
「ふっ、やつは所詮四天王最弱」ってやつをやりたかったのでこんな話ができました




