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PKになった俺は孤立するしかなかった  作者: 北神悠
第三章 赤き老兵と豚の将軍
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Ep62 元ドワーフ王国王国騎士団副団長の回顧録

 俺の家は元々上流騎士の家系だった

 何人もの上位騎士を輩出し、家は王都の貴族街の一角にあった

 数え切れない賞状や感謝状、褒美の品々が所狭しと飾られ

 こんな家に生まれた自分は騎士になるんだと何も疑わずに育ってきた

 次男で腕っ節も強かった俺は、特に何も考えることなく騎士になるための王道、王立学院に入学した


 ドワーフ王国では騎士というのは、王城で働く武官であり、一般兵士と違って儀式や政治に関しても一定の知識を要求される

 もともと王立学院は文官希望者や、貴族、果ては王族までもが通う場所なので、そういった事を学ぶにはうってつけな場所なのである


 更に言うならば、上位貴族や王族とコネクションができれば言うことはない

 まぁそう簡単にできるものでもないが

 

 と思ったんだが、蓋を開けてみれば隣の席が王族関係者だった

 それも王弟の息子

 最初はかなり緊張した

 普段では絶対に会話などしない雲の上の人物である


 話をしていくうちに、気のあった俺達は友と呼び合う関係にまでなった

 まぁ、基本的に学院内でしか合うことはない

 彼は王弟の息子というだけあって、学校以外では多忙を極めていた上、俺も剣の稽古や、騎士になるために様々な勉強をしなければならなかった




 そして、別れは必然的にやって来る

 王立学院卒業式

 この時点で俺は無事に騎士になることが認められていた

 卒業してしまえば彼とは王族と平騎士

 気軽に会ったり、話す事もなくなる

 俺達は、悲しみつつもその日は遅くまで別れを惜しんだ


 それから5年

 騎士団長を目指し励む俺は、小隊を率いる隊長にまで昇進していた

 そんなある日、1つの辞令を受けた

 なんでもある人物の護衛らしい

 

 騎士として、護衛の任務は非常に名誉な職だ

 護衛される人物はかなり高位の人物であり、見出されれば相当優遇される

 中には、有力貴族のお抱えとなり騎士団長に並ぶほどの高給取りになる者もいるらしい

 それに護衛に抜擢されるということは、騎士の中でも実力と品性を認められたということ同義で、出世する上で非常に大きなアドバンテージになる


 ただ、今回の辞令に俺は疑問を覚えた

 通常護衛の任務は専門の騎士団の団員が指名される

 今の俺の所属は、それとは全く関係ない

 確かにそういったケースもあるが、そういう場合はいろいろと理由がある


 例えばコネ

 さっきも言ったように、護衛任務は出世する上で大切なポイントだ


 他にも、護衛対象が女性や子供、病気持ちの場合はそれに合わせた人選がされる

 妙齢の護衛を男がするのはいろいろ不便がある

 トイレや風呂などは無防備になるので狙われやすい所に異性では護衛といえども入れないからである

 

 しかし、俺はそのどれにも当てはまらない

 実家は上級騎士になるためにいろいろ支援はしてくれるが、下手に貴族のコネを使ってしまうと、後々ケチがついたり、脅迫材料になってしまうためそういったことはしない

 

 そんな俺の疑問は、呼び出した人物の顔を見て理解できた

 5年ぶりに友人と再会を果たしたのである

 彼は国の重鎮であるため、国絡みのイベントでよく顔を見ることはあっても、話すことはできなかった

 

 彼にも仕事があるので、あまり長く話すことはできなかったが、それでも俺達は再会を喜び合った

 気を利かせて、二人きりにしてくれたのも粋な計らいだったと言える


 そして、俺の新たな任務は、なんと第三王子の護衛であった

 どうも彼の話では、王子は少し変わった人物で、中々合う護衛が見つからないらしい

 そんな話が彼の耳に届いた時に俺の事を勧めてくれたらしい


 王族の護衛は通常中隊長以上の上位騎士が行うものだ

 それだけ彼らの命は国にとって重要な存在である

 しかも世継ぎであれば、その重要度は飛び抜けている


 あまりに突飛な話に、彼は笑いながら落ち着けという

 落ち着いていられるわけがない

 そんな大役を騎士になって5年程度の男に任せるんじゃない

 もっと適任がいるだろう


 俺は努力してきたが上には上がいる

 せいぜい俺の実力は騎士団でも中の上くらいだろう

 王子の護衛は荷が重すぎる


 丁重に断ろうと思ったが、彼に引く気はなかったらしい

 相変わらずの強引さである

 ごねる訳にもいかないので、俺は渋々護衛の件を受けることにした


 そして、護衛初日

 くだんの王子と初対面である

 いろいろと身構えていたが、非常に気さくで話しやすいお方であった

 年はオレより3つ上で、聡明そうに見えた

 なぜ彼が変わり者なんだろうか、俺には全くわからなかった


 しかし、護衛をはじめて3日経つ頃、俺はその意味を理解した

 多少信頼してもらい彼の住む離宮に行った時、そこにいたのはハーフエルフの執事に、獣人のメイドであった


 ドワーフ王国は非常に厳しい身分社会である

 そして、ドワーフ以外の亜人は非常に差別されていた

 まともに相手にするのは人間と金持ち位で、後の種族はギリギリ人権を認めている程度

 争いが起こればなんであれドワーフが優遇され、例え殺しても大した罪に問われることはなかった


 そんな差別される対象を雇っているのである

 通常そんなことをすれば蔑まれ、最悪貴族でも爵位の剥奪があり得る

 彼は王子という権力を使って彼らを囲っているのだろう

 さすがに王子に手を出せる人物は、国王くらいしかいない

 だが、あまり事を大きくしたくないのだろう

 だから彼を離宮に押し込め、黙認するという形で収まっているらしい


 俺は、元々ドワーフ絶対主義者ではない

 実家もあまり外とはかかわらない家だったし、遊ぶ時間は訓練に費やされていたため外に毒されることもなかった

 学生時代もそういう教育はあったが、友人に恵まれていたため染まることはなかった

 

 きっと王弟の息子である彼も、内心差別には反対派なのであろう

 だから信頼できる俺をこの任務に付けた

 理由がわかれば、後は簡単だ

 先にも述べたように、俺は別に他種族を毛嫌いしているわけではない

 最初はかなりビビられていたが、すぐに仲良くなった

 王子にも気に入いられ、その後随分と長い間彼の護衛をすることになった


 結果的に、俺の地位は騎士団の副団長

 正確には第三王子筆頭騎士の役職を得た


 この国の騎士団長の地位にあるのは全部で3人

 王国騎士団の筆頭騎士

 国王の筆頭護衛

 王宮親衛隊の親衛隊長

 である


 名前が騎士団長ではないのは、騎士の仕事は多岐に渡り、役職がわかりづらいため、こういった措置をとっている

 これに準ずるランクとして副団長級があり、主要な王族の筆頭騎士にはこの地位が贈られる


 騎士団に入団して10年も経たずに副団長の地位を得るのは非常に稀で、本来は髪に白髪が混じり始める壮年の騎士がなるものだ

 そもそも王族の筆頭騎士、それも王子の筆頭騎士など本来は上位貴族の次男や三男が得る職で間違っても俺みたいな若造がなっていいものではない

 元々はただの護衛騎士でそれでも中隊長級と言う分不相応だったのに、いつの間にか筆頭騎士に任命されていた

 これはきっとあの強引な友人の暗躍に違いない


 王子との関係は良好であった

 ドワーフ絶対主義ではなく、争いごとが嫌いな彼は、その思考も相まって基本的に政治に関与していない

 おかげで暗殺などの心配もない上、その思想から外交など外と関わることはさせてもらえず長期の遠出もなかった

 そのせいか、基本的に騎士としての護衛は俺一人で

 他は、王子のことを慕う兵士たちである


 本当であれば、王子の護衛といえば多くの騎士達が奪い合うもののはずなのに、とんだ閑職である 

 

 王子は貴族に人気がない反面、階級の低い国民や異種族に人気があった

 それは貴族たちの嫌う下水の整備やスラム問題を彼が一括して担当していたからである


 幸い、この国の上層部は低階級層や異種族を無視する傾向にあったので彼が何をやっても咎める者はいなかった

 それに、今の争点は第一王子と第二王子のどちらが国を継ぐかということもあり、ますます彼のことは上層部から忘れられていた




 さすがに長いこと彼の護衛をしていると、小さな変化に気がつくようになる

 ある日、いつもと様子がおかしいことに気がついた


 本来護衛が主のプライベートに踏み込むことはしないのだが、俺は既に友人でもあったため聞いてみた

 最初はなんとも要領を得ない話であったが、次第にポツリポツリと思いの丈を話してくれた

 それを聞いた俺は驚いた

 なんと国を捨てるというではないか


 それは、先日決まった一つの法令である

 ついに国が異種族の一部、エルフと獣人の奴隷化を認めたのである

 そんなことをすれば、この国の差別化はより酷くなる

 しかも、手始めに周囲の無実のエルフや獣人まで捕らえているらしい


 こんなことは許されるわけがない、と言って彼は奴隷として捕まえられた人々を開放する気らしい

 そしてそんなことをすれば、如何に王族とは言え許されるわけもない

 

 俺は説得しようと思ったが、彼が納得することはなかった





「スティグマ、お前も行くのか?」


 ドワーフ王国第三王子ガーラント=ベッケルニが奴隷解放作戦を決行する日の朝、外に出る支度をする俺を呼び止める声がした


「ユーノラ様」


「様はよせ、ここには私とお前しかいない」


 学生時代の友人、王弟の息子ユーノラ=ベッケルニが苦笑する

 彼はあまり敬語が好きではないらしく、こうやって二人で会うときや、ガーラントを交えたときは俺に敬語を禁止するように言う


「ああ、付いていくつもりだ、俺はあいつの護衛だしな。それに、あいつを慕った国民も一緒に出て行くらしいじゃないか、なおさら放っとけねえよ」


「ふふっ、相変わらずだな、すまないな、恨んでくれても構わない。だが、ガーラント王子を任せるぞ」


「はっ、そんなしょぼくれた顔をするんじゃねえよ。これは俺が決めたことだ、実家には失踪したとでも言っといてくれ」


「そういったことは心配する必要ない、私が全て責任をもってうまくやろう」


「そうか、悪いけど頼んだぞ」


「ああ、しかし、追っ手には気をつけるんだぞ、こればかりはいくら私でも数日押さえ込むのがやっとだ」


「それだけでも十分ありがてえよ。森まで逃げ切れれば、後はエルフたちが協力してくれるらしいしな」


「そうか……元気でな、スティグマ」


 寂しそうにユーノラが言う


「おうっ、お前もたまには仕事休んで息抜きするんだぞ」


 俺はそんな友をからかうように言い、外へと出ていく

 背中から何か言うような声が聞こえたが、俺は振り返らずに歩みを進めた



 その後、ガーラントと上手くやり奴隷の開放は成功した

 その時隣にいた美人の子連れエルフを妻と娘だと言われたときは正直驚いた


 そして、森まで逃げてきた俺たちは、奴隷にされていた人々と別れさらに森の奥へと進んだ

 ガーラントの妻のメララが言うには、この森の奥のずっと奥にちょうど良い場所があるらしい


 何日も歩き、大火竜が治める土地までやってきた

 ここまでは助けた奴隷達の中でも腕に自信があるもの達が、わざわざ護衛を買って出てくれた為大した犠牲もなく無事に到着することができた


 事情を知った火竜様は俺たちを快く受け入れてくれ、街を作ることを認めてくれた


 その後10年間、いろいろと苦労することはあったが、ほのぼのとした幸せな日々を過ごすことができた




 しかしそんなある日、ガーラントの妻メララが突然倒れた

 慌てて火竜様のところに連れて行くと、ミュリ病というとても珍しい風土病らしい

 幸い治療法があり、ミュリーナ草という植物を手に入れればいいらしいのだが、それがこの辺では最強の魔物バーストツリー周辺にしか生えていないらしい


 俺は何としても友人の妻を救うために、挑みに行ったが全く歯が立たなかった

 諦めきれない俺は、必死に良い武器を作るために鍛冶に打ち込んだ


 ここ十年間鍛冶を練習し続けた俺は、街で一番と呼ばれるだけの武器制作の技術を身に付けた

 しかしそれでも王国で働く職人達に比べればはるかに劣る

 なんせ、元々武器の手入れくらいは学んでいたが、作ることに関しては素人

 それでも、まともに武器を扱ったのが俺くらいしかいなかったので、十年前に武器職人として名乗りを上げた

 街の中は安全とは言え、周囲にはそこそこ危険な魔物もいる

 そいつらと戦うには、俺たちも武器を持たなければならないからという思いがあったからだ


 毎日ひたすら武器を作り、それを売って素材を買いまた武器を作る生活をしていた

 いくら作ってもあの魔物に挑むだけの一品はできない

 それでも諦める気はなかった



 ある日作った武器をいつものように売りに行ったら、俺の武器を馬鹿にする声が聞こえた

 しかもそれはせいぜい15を過ぎた位の人間の少年から放たれた

 連日の疲れもあって、頭に血が上った俺は少年に勝負を挑んでしまった


 結果は見事に惨敗

 明らかに石で作ったであろう無骨な斧に、俺の作った斧は完敗した

 ショックでもあったが、それと同時に少年が希望に見えた

 この少年に教えを乞えば、バーストツリーに勝てるだけの武具が作れるかもしれない


 そう思った俺は、少年の手を引いて家まで連れて行った

 報酬に秘蔵の金属まで出した

 俺が持ってる数少ない財産の一つだ

 それをやっても、友人の助けになるなら惜しくはない


 しかし、少年の口から聴かされたのは驚きの事実だった

 なんと既に少年がミュリーナ草から薬を作って、メララの病気を治したというではないか

 俺は慌ててガーラントの家に行き、その姿を確認した

 そこには少しやつれていたが、相変わらず美しいメララの姿があった

 俺は改めて、師匠に弟子入りした




 悪いことは続くもんで、今度は3000のオークが迫っているらしい

 しかもオークジェネラルまでいるそうだ


 学院で魔物についてはいろいろと学んでいる

 オークジェネラルはその中でもかなりの強敵として教えられた

 オークの数倍の巨体

 作戦を考え、一軍を率いるだけの知能

 そしてなにより、高い身体能力と武力により並の魔物は一撃で沈めてしまうらしい

 もし、オークジェネラルと当たるのであれば、最低でも同数以上の兵力を持って、防衛に当たるなら半数の兵力がなければ勝負にならないと教えられていた

 

 もはや撤退しか考えられなかった

 火竜様が戦ってくれると言ってくれたが、それは火竜様が犠牲になるらしい

 ガーラントは断固反対した

 俺も言うまでもない

 火竜様は恩人だ、そんなことができるわけがない

 それしか手がないなら、俺が先に果てる


 しかし、俺は街の副代表だ

 そんな俺が無責任に魔物に突っ込んで自滅するわけには行かない

 俺やガーラントが率先して皆を誘導しなければ、途中で魔物に襲われたり、オーク達に追いつかれてしまう


 藁にも縋る気持ちで街の住人たちにも意見を募ったが、いいアイデアが出ることはなかった

 更に悪いことに、一部の住民は戦うと言い出す始末である

 もはや一刻の猶予もないため、とにかく撤退の準備を始めようとした時、再び師匠が姿を現した


 火竜様の神殿で別れてからさっきまで姿を見ていなかったので、先に逃げたと思っていた

 薄情のようにも思えるが、師匠がとった行動は何も悪くはない

 俺に恨む気持ちは全くなかった


 しかし、師匠は逃げていなかった

 それどころか戦って勝てるとまで言う

 実際に師匠が作ったセキホウという兵器は凄まじかった

 これならもしかしてと思ったのは、俺だけではあるまい


 その後も、師匠の発明品やアイデアには驚かされた

 ドワーフ王国でもここまで色々なアイデアを持ち、実現できる職人は少ないだろう

 しかも技術を秘匿することなく、様々な知識を惜しげもなく教えてくれた


 そして決戦当日、二箇所のトンネルを塞ぎ、戦える全住民で持ってオークの襲来を待っていた

 しかし、やって来たのは師匠のペットの白い馬? の様な生き物と弟子の木の精霊だった

 その姿を見た師匠から驚きの事実が口にされる

 なんとオーク達が撤退したと言うではないか

 最初は耳を疑ったが、狼煙も上がり、調査に行ってもオーク達の姿を発見することはできなかった


 もの凄い肩透かしをくらった気分であるが、それ以上に俺は師匠に深く感謝した

 結果はどうあれ、彼はメ友人の妻と街と救ってくれた


 またこの街で、友人たちと気ままに暮らすことができる

 俺はそのことを改めて実感した

 気付けば目から雫がこぼれ落ちていた

 歳をとったもんだ、どうも涙腺がゆるくて困る






 ガーラントたちがオークの撤退に沸いている頃

 大火竜イグニファスの神殿


「なんと、まさか本当に何とかしてしまうとは」


「あらー、普通の人間の男の子じゃないとは思っていたけど、ここまでやるとはねえ」


 イグニファスとメララはこの結果に非常に驚いていた


「ほらねー、あたしの言ったとーりじゃん」


 ふふん、と不意に姿を現した彼女は得意そうに笑う


「あいつは本当に面白いやつだよー、まさか戦うんじゃなくて毒殺とはなー、しかも結局ずっと自分はものづくりだけしてるしー、ちょっとは見習ったらどうだー、頑固火竜」


「ふんっ、余計なお世話じゃ」


「じじいがすねても可愛くないぞー、まぁ面白かったしいいや、それじゃあねー」


 そう言って彼女は姿を消した


「本当にやかましい女じゃわい」


「あらあら、神様にそんなことを言っちゃダメですよ」


「神といっても、あれは旧神だ、いつ悪魔どもと手を組んで襲ってくるかわかったもんじゃないわい」


「あの方はそんな風には見えないですねどね」


 ふんっ、と鼻を鳴らしてイグニファスは目を閉じてしまった

 もうこうなったら、彼は何を言っても無駄だろう

 そんなことを思いつつ、メララはあらあらと微笑んだ

 

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