Ep61 結果的に勝てたんだからいいじゃんか(後編)
今日中に間に合った
ヒロがドノッポイの街で対オーク用兵器や武器を開発する中、リーフはカバ太にまたがって夜の森を疾走していた
カバ太にはヒロが作った鎧の大半のパーツを外し、その代わりリーフが乗れるように簡易的な鞍が取り付けられている
そろそろオーク達がいるとされているあたりまで来ているだろうか
ここまで、魔物との戦闘は一回もない
リーフの姿を認識させなくなる能力は、自分とその周囲のものに対して効果が発動させられる
カバ太が走る音までは消失させられないが、ヒロが作ったカバ太用の靴下の様な履物により音はかなり抑えられている
仮に気付かれても、全力で駆けるカバ太に追いつける存在は殆どいない
「うー」
突然カバ太が小さく鳴いて足を止める
その視線の先にはわらわらと群れを作って休むオーク達がいた
周囲には松明が燃え、大きな鳴き声が聞こえる
「めちゃめちゃいっぱいいるでし」
キモいでし、と小さな声でつぶやきながら、リーフは背中のリュックからきっちりと栓がされた容器を取り出す
「ホントにいいんでしか?」
「うー」
気の進まないリーフに対して、カバ太は任せろと言わんばかりに力強く頷く
リーフは意を決して二重に栓がされた容器を手早く開け、カバ太の鞍にかけていく
赤黒い液体がドバドバと鞍に注がれ、あたりには甘ったるい血の匂いが広がる
中身を全て出し尽くした容器は、自分にかからないように注意しながら再び密閉する
それをさらに一回り大きな袋に入れ、完全に匂いを遮断する
中に入っていた液体は、簡単に言うと魔物たちを集める誘引剤だ
内容は動物の血と、花や木の蜜、そこに多少興奮させる成分が入っている
この匂いを嗅ぐと、理性の少ない魔物は思考力が落ち暴れやすくなる
「それじゃあ、そっちは任せたのでし」
「うー」
互いに頷きあって、カバ太は走り出した
真っ暗な闇の中に確かな足取りで消えていった
そんなカバ太を少し心配そうな瞳で見送ったリーフは、リュックの中から大小2つの容器を出す
こっちはさっきよりも更に厳重に梱包されており、先ほどのものも含め暗闇でも区別がつくように工夫がされている
もう一度心の中で作戦を反芻し、小さい方は再びリュックにしまって、大きい方の容器をいつでも使えるように準備する
「後は、やるだけでしね」
自分を鼓舞するように、拳をぎゅっと握ってオーク達の方へと静かに飛んでいく
オーク達はまだまだ元気らしく、大量の魔物の肉を食い散らかしながら騒いでいた
しかし、野良の魔物とは違い全員が何かしらの武装をしており、周囲には何匹ものオークが歩哨に立っている
想像以上に統制が取れていることに、リーフは驚いていた
内心ビクビクしながら、静かにオークたちの輪の中へと飛んでいく
歩哨に立っているオークは外ばかり気にしており、騒いでるオークたちは食事に夢中らしく、特に発見されることもなく潜入に成功した
「臭いでし」
無事に中心部までやってきたリーフは鼻をつまみながら飛んでいた
3000匹ものオークが武装した上、多分まともに体など洗っていない
その不潔さは想像を絶するものだった
呼吸するたびに、目の奥がチカチカする
匂いをなんとか我慢しながら、陣地の中をオークにぶつからないように進む
その結果、どうやらオーク達は大きなテントを中心に3つの集団になっているらしい
よく見るとそれぞれの集団には体格の大きい、一際強そうなオークがいる
そして姿は確認できないが、中央のテントにいるのがオークジェネラルだろう
一通り確認したリーフは風上まで回り込み、大きい方の容器の蓋を開けて周囲に蒔く
中身は濃縮して、粉末にしたかなり強力な興奮剤だ
ちなみに殆ど味も香りもない
ただいくら強いといっても、風に相当薄められてしまうためあまり効果は出ないだろう
せいぜいちょっと熱くなりやすい程度の効果しか出ないだろう
だがこれで十分である
ただでさえ不衛生な中でも普通に生きているオークを殺すには相当な量の毒薬が必要になる
だが、興奮させるだけならそこまで難しくはない
処方量さえ守れば、本来は気付け薬なのだから
ちなみにリーフに影響が出ないように、事前にヒロから無効化薬を処方されている
しばらくすると周囲から戦闘音が聞こえてくる
カバ太が上手くやっている証拠だろう
この森の魔物は3000のオークからすれば大した障害ではないとは言え、それでもかなり大量に出てくればちゃんと対処しないと怪我や死者が普通に出る程度には厄介だ
歩哨だけじゃ対処できない様子に、今まで食事に夢中だったオークたちは不満そうに鼻を鳴らしながら武器を取って立ち上がった
騒ぎを聞きつけたらしく、中央のテントから巨躯のオークが出てくる
ほかのオークたちと違って非常に豪華な鎧を着ている
こいつがきっとオークジェネラルなのだろう
リーフは近くの暗がりから、見つからないように身を潜めて様子を伺う
どうやら、現場の確認に行くらしい
周辺の幹部らしきオークも率いて外へ出ていってしまった
その隙をついてリーフはオークジェネラルのテントに侵入する
中に入り、大急ぎで荷物を物色していく
そして、1つ綺麗に装飾された箱を見つける
中を開けると金色のコインや宝石、手紙が無造作に突っ込まれていた
どうやら相当に大切なものらしい
中身をリュックに詰められるだけ詰めて、代わりに厳重に封がされた小さな容器の中身を、飲みかけの酒の中に半分流し入れる
これはヒロが薬師の家から拝借して作った毒薬だ
製作時の鑑定では<レア度5><品質7>の超強力なやつだ
そこまでやって、急いで外へと出る
荷物はだいぶ重いが、日頃ヒロに鍛えられたおかげでなんとか飛んで外へと出る
そして、そのまま別のテントへ
ここは少し体の大きなオークのテントの一つだ
そっと中を確認して、侵入する
どうやらまだ魔物の処理に奔走させられているらしい
リュックの中身の大半をテントの端に転がして、カバ太に掛けた液体が入っていた容器も転がして外へ出る
テントの周囲にコインをいくつか転がし、陣地の中でも薄暗くて目立たないところまで飛んでいった
やっとこれで一息つける
「カバ太は無事に逃げ出せたでしかね」
オーク達の声が響く森の奥を見つめながら、リーフは小さく呟いた
少し休んだリーフは、再び陣地を飛び回りながら工作を続けていった
他の場所にもいくつか宝物を転がし、リーダー格の食事や飲みものに毒薬を入れていく
魔物との戦闘がひと段落してオークたちが帰ってくる頃には、リーフは陣地から少し離れた物陰に身を潜めていた
そろそろ薬も効いてくる頃だろう
風上の草むらからそっと顔を出して様子を伺っていた
それは怒号から始まった
オークの陣内では、オークジェネラルが斧を振り回して暴れていた
理由は言うまでもない
彼が大事に保管していた宝物がなくなったのである
さらにそれが部下のテントから見つかった
しかも、各所に毒が仕込まれていた
リーフが蒔いた興奮剤が状況をさらにヒートアップさせる
既に陣内では何匹ものオークが血を撒き散らして倒れている
毒により身を悶えさせている者達までいる
「わっわっ、すごいことになってるでし」
この争いで彼らはメチャメチャになった
そこから逃げ出す者
上官に殺される者
運良く宝を拾って身を晦ます者
形は違えど、オーク達の数はどんどん減っていった
夜が明けて、オークジェネラルが死んでいた
ヒロの作った毒が効いたらしい
仮に死んでいなくても、一夜にして1000匹近く数を減らしたオーク達にもう戦う気力は残っていなかった
ただでさえ遠くへの遠征
渦巻く味方への不信感
そんな状況では集団としての力なんて発揮できるわけもない
更には指揮官の死
オーク達は逃げるように撤退していったというわけである
撤退するオーク達を背に、リーフはドノッポイへと帰還した
「やっぱり師匠はすごい奴でし」
ひと仕事終えた彼女は、どこか誇らしげだった
それから、予定の集合場所でトレーニングに励むカバ太と合流して帰路についた
ちゃんと撤退したかどうかの確認が終わるまでに時間がかかったため、結局開戦間際になってしまった
そして、この様子はドノッポイの北の山でオークたちを監視していた監視員達も確認することができた それから何度も確認をし、ちょうどカバ太とリーフが街に戻る頃に狼煙として伝えることになったのである
実はプロット段階では普通に戦闘するはずだったんですが、まさかの毒殺と相成りました
これだから小説を作るのは楽しくてなりません
読んでいただきありがとうございます




