Ep55 儂が出よう
大火竜イグニファスの神殿に到着すると、既にそこには多くの住人たちが集まっていた
緊急時で皆が浮き足立っているにもかかわらず、比較的神殿内が静かなのは守り神でもあるイグニファスの前だからだろう
初めてイグニファスを見るリーフが小さな声で「おっきいでし」と言って驚いている
「なんだヒロも来たのか」
神殿内にやってきたオレ達にガーラントが声をかける
「スティグマに誘われてな」
「師匠も来たそうにしてたじゃねえか。それに、師匠は実力のある技術者だからな、その知識が役に立つかもしれんだろ」
一体オレはどれだけスティグマの中で評価が上がってるんだ
この間も鍛冶を始めたのはここ数日だと言ったら
「師匠はやはり天才だ」とか言ってやがった
まぁ、前のゲームでは死ぬほどやってたんだとか説明しても伝わらないだろうし
こっちの世界のやり方を習わんと大きなミスがあるかもしれない
生産職の中には、いきなりオリジナルの方法で始めようとする奴らもいるが、オレから言わせてもらえばナンセンスだ
基本ってのはルールだ
ルールをまず知らないといいものはできない
出来たとしても場当たり的なものだ
オレが求めるのはそんな偶然の産物ではないからな
なんか、話がそれてきたな
「で、今は何をしてるんだ?」
「今は……」
ガーラントが話そうとした瞬間、人々の間からざわめきが上がる
「どうやら、火竜様の遠見の火が帰ってきたようだ」
「とおみ? なんだそれ」
「えーとだなぁ……」
「儂から説明してやろう、これは儂の力で創った使い魔みたいなものといえば理解できるか? こいつらを通して儂は遠くの情報を手に入れるんじゃよ」
突然イグニファスが会話に割り込んできた
どうやら遠隔操作できるカメラみたいな物ってことか
便利だな、いずれどこかで再現してみよう
「それで火竜様、状況はどうだったんですか」
待ちきれない住民の一人がイグニファスに声をかける
「ふむ、オークの兵士がざっと3000といったとこかのう、それにこれはハイ、いやジェネラルまでいるようだのう」
その言葉を聞いた瞬間、先ほどまでそこそこに静寂を保っていた人々は急に騒がしくなる
「オーク3000がやばいってのはわかるが、ジェネラルってなんだ。なんかやばいのか?」
「オークジェネラル、オークの国の将軍だ」
将軍と言われてもいまいちパッとしない
オークはRPGじゃあ非常に有名な魔物だ
豚みたいなツラで、女なら見境がない
だいたいキングやらロードみたいな奴がボスで、物語の中ボス的なポジションだ
それに比べるとジェネラルは、ちょっと強いモブにしか思えない
オレが微妙そうな顔をしていると、イグニファスが補足してくれた
「オークジェネラルと言うのは、お主にわかりやすく言うなら<ランク6>相当の魔物じゃ、ちなみに普通のオークは個体差があるものの、だいたい<ランク2~3>と思ってくれればどういうものかわかるじゃろ」
つまり、レッサーデビルトレント以上の奴が来るってことか
この街のドワーフたちがどれくらい強いかわからんが、<ランク4>のバーストツリーを集団で倒せないことを考えると、<ランク3>と個人で渡り合えればいいところだろう
「なる程な、でガーラントのオッサン、この街で戦える人員ってどれくらいいるんだ?」
「戦える者はかき集めてざっと300~400人といったところだろな」
絶望的な表情でガーラントが話す
それなら住人の反応ももっともだ
自分らと互角かやや格下が10倍近い兵力で攻めてきて、しかも圧倒的な存在までいるんだからな
「今まではどうしてたんだ?」
過去にも同じようなことがあれば、対処法もあるだろう
しかし、そんな安直な考えは簡単に否定される
「過去にこんなことがあってたまるか、せいぜいゴブリンが100匹位流れてきたとかだ。くそっ、一体どうすればいいんだっ」
スティグマがヤケクソ気味に叫ぶ
「何、心配する必要なない、儂が行って奴らを蹴散らしてくる」
皆が絶望に嘆く中、イグニファスが皆を諭すように力強く言う
住人たちは、そんなイグニファスの言葉に一様に安堵の表情を見せる
そりゃそうだ、オークジェネラルでさえ<ランク6>
<ランク10>の大火竜イグニファスが出ていけば一方的な戦いになるだろう
しかし、なんだこの違和感は
何かが違うと訴えているような気がする
「しかし、火竜様お一人では」
「ふん、儂にかかれば造作もない、この翼で軽く飛んで、空から炎のブレスで全てを焼き尽くしてくれよう」
何人かが心配そうに見上げるが、イグニファスは自信満々に答える
軽々飛んで
遠見の炎
なんだろう、自信満々なイグニファスの言葉を聴けば聴くほどに、何かを見落としているような気にさせられる
上手くいき過ぎている?
いやここはもうゲームではないから、そんなこともないのかもしれないが
そこで、オレは小さな声でガーラントに聞く
「なぁ、イグニファスが今まで戦ってるとこって見たことあるのか」
「そういえば、儂等がこの街を創ってからお立ちになられたとこすら見たことがないな」
「ん、街を創ったって?」
「そうか、話していなかったか、この街は今から10年前にドワーフの国から流れてきた者たちが集まって創ったんだよ」
「その後、イグニファスがやって来たのか?」
「いやいや、元々ここは火竜様の土地だったんだよ、そこに我々も住まわさせてもらい、火竜様がいらっしゃるこの場所に神殿を増築したんだ」
「ほう、懐かしいのう、あれから10年も経つのか」
オレ達の話を聞いていたイグニファスは、目を細めて懐かしむ
「はい、火竜様のおかげで10年も平和に過ごすことができました」
「何、儂も楽しい時間であった、お互い様じゃ」
さて、とイグニファスは外に出るのに巻き込まれてしまうので、避難するよう住民たちに言う
「おい、師匠、早く行くぞ」
「ヒロなんで止まってるんだ、火竜様の邪魔になっちゃだめだろ」
一向にその場を動かないオレに対して、スティグマとガーラント双方から声がかけられる
「オレは、こういう推理モンとかは結構得意でな、まぁ何かを作るのってのはある程度まで行くと挑戦と失敗の繰り返しだからな」
「師匠、急にどうしたんでしか?」
リーフまでもが、オレの行動を疑問に思ってるようだ
「さっきから妙な感じがしてたんだ、もしかしたら勘違いだったらって思うんだがな」
考えてみれば最初からおかしかったんだ
どんだけ生きてるのかはわからねえが、相当にイグニファスは賢いはずだ
それに、ここの住民を大切に思ってる
「オレは何も挑戦しないで、考えをやめるってのが嫌いでな」
「何が言いたいのじゃ」
イグニファスが刺すような視線で睨んでくる
流石は<ランク10>だ、眼光だけでこれかよ
体中から嫌な汗が出てきやがる
だが、ここまで言ったんだ言わないわけにはいかない
「お前、嘘付いてるだろ」
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