Ep36 戦いは蜜の味
あたしはイラついていた
なんたって三日間も戦っていないのだから
体が鈍ってしょうがない
しかし、風香を怒らせると小言がうるさいので、つま先立ちで歩いたり、腹筋に力を入れたりして戦えない自分を抑えてきた
そういえば、崖を登るのはいい運動だった
しかも夜というのが難度が上がってなお良かった
今度また挑戦しよう
何とか戦えないイライラをごまかしながらここまで来た
正直ただのPKならば正面切って叩き潰しに行っても良いのだが、一人気になる存在がいた
ツナ吉も含め気づいていなかったが、あたしの感覚ではかなりの猛者だ
下手に手下をボコボコにしてしまうと、リスクを避けるために逃げるかもしれない
さすがに風香たちを置いて追っかけていくわけにもいかないので、捕り逃がすことになるだろう
そしたら楽しめない
ドラゴンや巨人を相手にするのもワクワクして楽しいのだが、対人戦はまたそれとは違った楽しみがある
何より、プレーヤーはAIと違ってちゃんと思考がある
こういうゲームではパターン化して、強敵を周回するみたいな攻略組がいるが、あたしは全く賛同できない
もちろん前情報や下調べをすることは否定しないが、ブレスを撃ったら必ずしっぽで攻撃してくるみたいな感じのは受け付けられない
そんなことして何が楽しいんだろう
相手も自分も死力を出し尽くしたギリギリの戦い
それこそが私の求める理想だ
戦闘禁止を言い渡され、三日目の夜ついに獲物の巣が見えてきた
尾行している奴も含めて気が付いていないらしい
こんな森の奥でPKをやっているのに索敵スキルが甘い
精進していないのだろうか
と、そんなことを考えていたら、不意にぞわりと嫌な感じがした
感覚を研ぎ澄ませ、飛んでくる何かを弾き飛ばす
真っ黒な矢とはまた手が込んだものを
それに続くようにして人間が降ってくる
この気配は、あの時のプレーヤーだ
相手からかかって来てくれるなんて願ったり叶ったりね
この楽しみを余計な奴に邪魔されないよう、手早く指示を出し
近くで惚けているプレーヤー目掛けて矢を打ち払った剣をそのまま投じる
そして、腰に差してあったもう一本の剣を抜き相対する
キン
短い金属音が鳴り響き、相手の一刀があたしのバランスを崩そうとする
ヒュン
そして、体重の乗った鋭い二刀目があたしの死角から襲ってきた
カーン
あたしは、力で強引に体制を立て直し素早く二刀目を防ぐ
中々に鋭い一撃だ
たった二回の攻撃でこいつが相当にできることを確信する
黒塗りの矢に始まり、大技に見せかけたフェイントの一撃目
並の相手なら、このどちらかで詰んでる
そして、暗闇の中完全に視覚の外から振るわれる本命の二擊目
このあたしに反撃をさせずにここまで打ち込んでくる相手はひさしぶりだ
更に、二擊目を外した後無理せずしっかりと間合いを図っているのも評価が高い
きっとあたしは今ものすごく楽しそうにしていることだろう
これは相当に楽しめそうだ
ずっと受けてばかりでは相手にも申し訳ないだろう
今度はこっちから行くわよ
まずは突き
暗い森の中では、下手に振り回すよりもこちらのほうが確実だ
鋭く打ち込んだあたしの突きを軽々といなし、コンパクトに二刀を切り返してくる
あたしは一本、相手は二本
手数では負けているので、何発かあたしの体をかすめるも、懐深く入り込み振りは小さくとも大きく力を込めた攻撃で相手を弾くように剣を打ち込んでいく
相手も何とか距離を置こうとするが、そうはさせない
それに、二刀とはいえ、一本一本の刀の力もスピードも両手で一本の剣を振るうあたしに敵うはずがない
しかし、本当によく粘る
二刀の良さである手数を生かしつつも、フェイントや技の急緩をつけることで付け入られる隙を減らしている
更に、思いもかけないところで鋭い一撃が飛んでくる
やはり対人戦はいい
特にこういう強敵は大歓迎だ
げしっ
あたしは蹴りを放ち一度距離をとり、木を蹴り飛び、空中から襲い掛かる
現実世界じゃあできないこんな動きも、レベルとスキルでどこまでも成長できるこっちの世界なら可能だ
そんな空中からの一撃に対しても、相手はしっかりと対応してくる
流石はあたしが認めた相手だ
一人倒したあと、サナの戦闘音に注意を惹かれていた他のプレーヤーを追加で二人ほど倒した
正直後味は良くないがこのままのさばらせておけば、私達が帰るために協力的なプレーヤーの数を減らされてしまう
それに、PKが出ることでアクティブなプレーヤーが減ることも問題だ
感情を殺して斬りに行くしかなかった
心の片隅で、これはゲームで死んでない、私は殺してないって必死に自分を説得しながら
とりあえず、目に付いたプレーヤーを一通り倒しきったのだが、未だにサナたちは戦い続けている
私の戦った相手は弱かった
前のゲームでの経験もあるし、サナのせいで死ぬほど戦わせられたからそうそう負けるつもりもなかったけれども
今回サナ達についていったのはそういった自信もあってのことだった
しかし、サナと互角に戦うプレーヤーが出てくるとは思わなかった
私ではあっさり殺られてただろう
ほとんど暗くて見えないが、それでも森に響く音でその戦いぶりがわかる
サナが負けるとは思っていないし、下手に近づくとサナの邪魔にもなりかねないので、とにかくサナに近づくプレーヤーがいないかどうかと気を張る
木を使って、立体的に相手を攻め込む
向こうは間合いを取ろうとするが、それはさせずに攻めたてる
そして、ほんの僅かに相手の刀が鈍ったところで、隠し玉の空踏みをつかって空中を蹴り、背後に回り込む
しかし、それは誘いだったようだ、二つの刃があたし目掛けて襲い掛かる
背面は木で避けることもできない
これも計算に入れていたのであろう
本当に油断できない相手だ
これ、あたしじゃなかったら詰んでるよ
この相手ならば、ここまで誘って嵌めに来るだろうと予測していた
剣を合わせるうちにあたしは気づいていた
ただ残念、あたしの真打は空踏みではない
襲い来る二刀のうち一本を剣で受け止め、もう一本を横合いから左手で掴み取る
そしてそのまま相手に突っ込むように頭突きする
もちろんこれで終わらせるつもりはない
突然の頭突きに握りが緩んだ刀を掴んでいた左手で引き抜く
あー、手が痛い、ちょっと切れたかな
しかし負けじと振るわれるもう一刀
だが、こんな中途半端な姿勢で振るわれたものなどあたしが受けきれないわけがない
剣を巻き上げるように振り、刀の機動をそらしつつ、更に蹴りを一撃
平地なら、そのまま吹っ飛んでいき距離が取れただろうが、ここ森の中だ
すぐ後ろの気に叩きつけられる
相当の衝撃だったのか、木にぶつかったあとズルズルと沈んでいく
反撃される前に、刀を踏んで封じ、首めがけて剣を右手で思いっきり振るう
がしっ
「なぜ、トドメを刺さない」
あたしの剣は木に刺さって首筋で止まっていた
「ふんっ、いい加減その臭い芝居と覆面をやめたらどうなの、みゅう?」
あたしの目の前には馴染みのギルドメンバーが、にこやかに微笑を浮かべて見上げていた




