Ep105 優しいエルフとオーガが逝っちゃう栄養剤
隊長らしき兵士に連れられて、集落の中を進んでいく。
部外者である風香たちに警戒しているのか、武装したエルフ以外は誰一人としていなかった。
しばらく進み、一軒の小屋の前で立ち止まった。
「この中へ入れ、中の人物がお前たちに対応してくれるだろう。先に言っておくが、メララ様の紹介とは言え、余計な行動は慎むようにするんだぞ!」
そう言い放って、兵士たちは持ち場へと帰っていってしまった。
武器は取られたままだが、これ以上場を悪くしても良くないので、指摘はせずに見送った。
どうせ大した武器ではないし、予備もある。
「失礼します」
全体の交渉担当である風香がノックをして、先頭で建物に入る。
中は様々なハーブや香辛料の混じった匂いがするが、不思議と嫌な感じはなく、小綺麗な印象だった。
「ほう、人間の冒険者さんですか。ようこそ」
風香たちの気配に気づいたのだろう、奥の扉から人のよさそうな笑顔を浮かべた壮年のエルフが出てきた。
「えっと、私達はド……いえ、エルフのメララさんからの紹介でやってきました」
風香は素直にドワーフの紹介でと言いそうになったが、さっきの対応を思い出し、リーフ達の方に便乗することにした。
「ほう、救世主メララ様のご紹介ですか。それはそれは、どうぞ狭い家ですが、奥の方へいらしてください」
奥に案内されると、丸いテーブルがあり、全員そこに座り、壮年のエルフが手際よくお茶を用意してくれる。
「おいしっ」
さっぱりとした風味のハーブティーに思わず風香は声を漏らす。
「お口にあったようで良かった」
エルフはにこやかに応じる。
ちらりと横を見ると、ツナ吉やリーフもおいしそうにお茶をすすっている。
シーチに至っては、目をつむってブツブツと考え事をしているようだ。きっと、味の解析をしているのだろう、研究熱心なことだ。
更にその奥で、器用に器を持ってカバ太もお茶を飲んでいる。
「さて、私はエルフのパクナと申します。こんな辺鄙な村までどのような御用ですかな?」
「私は風香と言います。実は仲間が……
そういって風香はこれまでのいきさつをパクナに語る。
「そうですか、銀輝竜と戦って……あ奴はここら辺を縄張りにする厄介者でしてな、我々も村の外で何かとちょっかいをかけてくるので迷惑しているんですよ」
「そうなんですか。山の方は何かわかりませんか?」
「ふむ、場所からしておおよそは見当がつきますが、流石に地下までは知りませんでした。たぶん噴火の名残が天然の洞窟を作ったんじゃないでしょうか? 地形的にはその可能性は十分にあり得ます」
「なにか助けに行くいい方法はないですかね?」
「うーん、もしかしたら書庫に記録が残っているかもしれませんね。さっそく調べてみましょう」
そう言って、バクナは椅子から立ち上がる。
「私も手伝います」
「俺も手伝うっす!」
「うー!」
「あれ、シーチちゃんとリーフちゃんは?」
横を見るといつの間にか二人はいなくなっていた。
「そう言えば居ないっすね」
「もしかして、連れの女の子達ですか?」
「はい」
「それなら、風香さんが話している間に、外に出ていきましたよ。トイレかと思って、特に指摘しないでいたのですが、申し訳ありません」
申し訳なさそうに、バクナが頭を下げる。
「いえいえバクナさんは気にしないでください。こちらこそ仲間が勝手なことをしてしまって」
「探してくるっすか?」
「問題があってもいけないから、ツナ吉君、お願いできるかしら。カバ太もお願いしても良い?」
「了解っす!」
「うー!」
ツナ吉とカバ太はそのまま外へと出ていった。
「私も一緒に探しに行きましょうか?」
「いえ、地下に落ちた仲間も心配ですから」
「そうですか、では書庫はこちらです」
事務的な話に飽きたリーフは、風香たちが話している建物の近くで魔法金属の加工の続きをやっていた。
大半はヒロのストレージに保管されているが、いつでも修行できるようにとヒロにいくつか課題として渡されていた分である。
木の精霊が金属の加工しているのはシュールな光景ではあるが、慣れた手つきでコンコンと金槌を振る姿は幾分か様になっていた。
「ねぇ、貴女精霊でしょ?」
ふいに横から声を掛けられた
リーフが、そちらを振り向くと、そこにはリーフと似たように背中に薄い羽根をはやしている少女が経っていた。
彼女は緑色の髪をストレートに伸ばし、少し釣り目なのが印象的だった。
「……誰でしか?」
「やっぱりそうね。私は木の上級精霊アールファンシェ、アールで構わないわ」
「リーは木の精霊リーフでし」
「ねぇ、リーフ、ここまであの人間たちを連れてきたのあなたでしょ」
「そうでしよ」
誇るべきポイントなので、しっかりと胸を張って、自信満々にリーフは応える。
「やっぱりそうなのね。だとするとなおさら、私が管理する森の迷宮をどうやって突破したの?」
「木と交渉したんでし」
相変わらず、自信満々に話すリーフに、樹の精霊アールファンシェは驚きに目を見開く
「ふざけないで、普通の木の精霊が、上級精霊である私の支配を受けてる木から情報を得るなんて普通じゃないわ」
「師匠に習ったんでし」
「もしかして、更に上位の精霊……」
「人間でし」
「人間!? 人間なんて下等な生き物にそんなことができるわけがない」
「師匠は凄い奴でしよ」
「精霊には精霊としての生き方が」
「そんなのリーは知らないでし。リーはリーのやりたいように生きるって決めてるんでし!」
そう言いきって、リーフは魔法金属を叩く作業に戻る
そんな姿にアールはぶつぶつ言っていたが、しばらくすると何処かへと飛んで行ってしまった。
アールが立ち去ってから、リーフは手を止めて銀輝竜のいた山の方を見て声を上げる。
「まったく、弟子を置いて、師匠は何やってるんでしか!」
はっくしゅん!
風邪か?
いや、サナが剣をへし折って、俺に文句でも言ってるんだろ。
もっと大切に扱えってんだ。
まぁしかし、戦闘馬鹿のおかげで、素材も新鮮で高レアリティなのがたくさん集まって、より高みへ到達したな。
ヒロの目の前には、緑と紫がぐちゃぐちゃに混ざった液体が石鍋で煮詰められていた。
本人はずっと作業を続けているため慣れて気付いていないが、周囲のモンスターが全く近づかないほどヤバい臭いが漂っている。
栄養剤3級(薬品・料理)
品質2 レア度7
うーん、道具がちゃっちいから結果がパッとしないわね。
もっと道具も選んでやりなさい。まぁでも、このペースで品質が上がっているのは評価してあげるわ。あっ、でも、内臓の処理がもう一歩ね。血液は反応が強いから、ちゃんと丁寧に取らなきゃだめよ。
普通にレア度7が作れるようになった。
どう考えても鑑定の説明とは思えない内容だが、このコメントのおかげでここまで短時間でこれたことは間違いない。
薬関連は、やたらと丁寧にダメ出ししてくれる上、ちゃんと解決策もアドバイスしてくれるので、非常に助かった。
こういう指導が鬱陶しいとかいう奴もいるが、俺からすればより良いものが作れるならオリジナリティなど二の次で良いと思っている。
そんなことを考えながら、作業を次のステップに移す。
粗熱を取り、ペースト状なので、水をくわえて散布しやすくして、作業場の横に生えている世界樹の近くに全てぶちまける。
だいたい2時間に1回のペースで栄養剤を掛けられた世界樹は、既にヒロの両腕が回らないほど幹が太くなり、高さも10メートルくらいになった。
相変わらず、栄養剤を与えるとビクンビクンしてるが、太陽の光も殆どない中でたくましく育っている。
栄養剤のおかげなのか、栄養剤に耐えられるように必死になっているからなのかはわからないが、順調に大きく成長していた。
本来の世界樹は、苗木でも年に2~3メートルくらいしか伸びないことを考えると、育ちすぎとも言えなくもない。
ちなみに、ヒロの鑑定には栄養剤3級と表示されている今回の薬、本当の名前はエモーシャルの救命薬と呼ばれるもので、地底に住むエモーシャルリザードと言う強力なモンスターの肝がベースとなっている。
エモーシャルリザードは、全身が赤褐色の硬質な鱗に覆われており、暗い洞窟内で音もなく忍び寄り、鋭い牙と爪で襲い掛かる凶悪な魔物で、ランク6もあるが集団で狩りをする慎重で狡猾な性格のモンスターである。
それが既にヒロの所にはダース単位で集まっている。
そして、エモーシャルの救命薬は、一滴で意識不明の人間を復調させる起死回生の劇薬で、頑強な肉体と鉄の胃袋を持つと言われるオーガでさえ、ジョッキ一杯飲めば超興奮状態に陥り、3日程度で肉体が限界を超えて死ぬ位の強力な仕様である。
今日も世界樹は素材にされないようにすくすくと必死に成長している。
読んでくれて、ありがとでしー!




