Ep103 木の精霊式交渉術とドワーフ王国での疑問
サナとヒロが穴に落ちて2日後。
風香達は、エルフの隠れ里がある森の入り口までやってきた。
「うわぁ、おっきい岩でし!」
リーフがペチペチと目の前の黒い巨岩を叩く。
「この黒岩から、まっすぐ東に進むと、エルフの隠れ里と呼ばれるエルシャ村があるそうよ」
「隠れ里って言う割には、わかりやすいところにあるんっすね」
「隠れてない、ダメ兄と同レベル」
「シーチ、そこで俺の事ディスる必要あった?」
「必要」
「うー!」
「カバ太も同意」
「うっ?」
「そこは否定してほしかったっす」
がっくりとツナ吉は項垂れた。
隣をボケっと歩いていたカバ太は、なんとなく鳴いただけだったが、ツナ吉の心を抉るには十分すぎる一撃だった。
「隠れ里に突撃でしー!」
「ほら、シーチちゃん達も先に進むわよ」
「うー」
「ダメ兄、早く来ないと置いて行く」
「わっ、ちょっと、待って待って」
一行がしばらく進むと、周囲は森だらけになった。
「結構森が深いわね。みんな、はぐれない様に付いてきてね」
地図とコンパスを見ながら先頭を進む風香は、全員付いてきているか時々後ろを見て確認する。
「風香、東はこっちでし!」
「えっ」
突然リーフが、風香が進んでいる方角とは違った方を指さした。
「そんな、東は……あれっ、いつの間にか南に」
風香はコンパスと地図を見比べながら確認する。
「風香が間違うなんて珍しい」
「そうっすね。でも、ミスなんて誰でもあることっすから」
「ダメ兄はもっと反省すべき」
「妹が厳しい」
「うーうー」
肩を落とすツナ吉に、カバ太が慰めるように前足でポンポンと叩いた。
「慰めてくれるのは、カバ太だけっす」
がしっと、ツナ吉はカバ太に抱き着いた。
「……もしかして、ねえリーフちゃん、いつから私が進路を変えたかわかる?」
「今さっきでし。急に方向転換したでし」
「他に気づいた人いる?」
「まっすぐ進んでたっす」
「気づかなかった」
「うーうー」
カバ太も首をフルフルと横に振る。
「じゃあ、やっぱりそう言うことか」
「やっぱりって、どういう事っすか?」
「何らかの方法で妨害されてるのよ」
「そうなんでしか?」
「ええ、リーフちゃんだけ大丈夫みたいだけどね。ねぇリーフちゃん達木の精霊って、どうやって方角確認しているの?」
「リー達は木の教えてもらってるでし。お日様の当たる方角から、木は大体の方角がわかるんでし」
「じゃあ、これから先はリーフちゃんに案内を任せてもいいかしら?」
「もちろんでし。リーに任せるでし!」
トンと胸を叩いて、リーフが意気揚々と東に向かって歩き出した。
「あっ」
しばらく進むと、リーフが突然声を上げた。
「リーフちゃん、どうしたの?」
「声が聞こえなくなったでし」
「声って、木の?」
「そうでし、リーの呼びかけに答えなくなったでし」
これはまずいと風香は思った。
森の中で、方角を求める方法はいくつか知っていたが、風香の知る限りこの森に関してはどれもあてにならない。
ここまでリーフの後ろをついていきながら色々と試していた風香は、リーフが方角を見失う様なら、撤退も考えていた。完全に迷ってしまった場合、森を抜ける事すらできなくなってしまうかもしれない。
風香が1人思案にくれている中、リーフはおもむろに一本の木に近づいた。
ペタペタと周りを触ったり、顔を近づけて観察したりしている。
「ちょっとカバ太と、そこのダメ人間、こっちに来てほしいでし」
くるっと風香たちの方を見て、ツナ吉とカバ太を指さしこっちに来るように手招きする。
「うー」
「俺はダメ人間じゃなくて、ツナ吉って名前っす」
「ダメ兄にぴったりの名前。改名すべき」
「ひどい」
「カバ太は、あっちの岩を粉砕してほしいでし。ダメ人間はこれを持っててほしいでし」
右手で近場の岩を指さし、左手でのこぎりの様なものをツナ吉に渡す。
「うー!」
ずがぁあん
カバ太が体当たりして、3メートルくらいの岩が砕けた。
「だから、ツナ吉って名前がっすね」
のこぎりみたいな物を受け取りながら、ツナ吉は抗議する。
「いちいちうるさい人間でし。向こうのピンクの髪がお前の事ダメ兄ダメ兄って呼んでたでし。お前はリーフの兄じゃないから、ダメ人間でしっ!」
ビシッとツナ吉を指さしながら、リーフがまくしたてるように言う。
「シーチィィィ!」
「うるさい」
「ダメ人間の妹の言う通りでし。黙って立っとけでし」
「ダメ人間」
「ダメ人間の妹……不覚」
兄妹そろってダメージを受けていた。
「さて、生意気にも木の精霊であるリーに逆らったでしね。ここで、カバ太にへし折られて、ダメ人間にバラバラにされるのと、素直に方角教えるのどっちがいいか選んで良いでしよ?」
先ほどの木に向き直って、リーフがニヤッと笑って話しかける。
その瞬間、木がわさわさと揺れる。心なしか、ビビってるようにも見える動きだ。
「ふーん、へぇ、そうでしか……カバ太」
「うー?」
ざわざわわさわさ
「……それでいいでし。最初からおとなしく答えればいいんでし。風香、東はあっちでし」
リーフは笑顔で、東の方を指さした。
「ねえ、リーフちゃん、さっきのって木の精霊の交渉方法なの?」
「違うでし。師匠に教えてもらったでし!」
「そ、そうなのね……」
ヒロ君、なんてこと教えてるの!
風香はヒロに色々言いたいことがあったが、今回はそれで助かっているので、この後リーフの後ろを歩きながら一人葛藤するのであった。
おまけ(ドワーフ王国にて、国宝からサナの剣を見繕ったとき)
「サナ殿に見合う剣は、残念ながらドワーフ王国では用意できない」
乾いた笑みを浮かべるユーノラの後ろには、刀身が真っ二つになった剣が山になっていた。
「ユーノラさん、本当にごめんなさい」
「いや、良いんだよ。風香たちは我が国の英雄だから……しかし、サナ殿の言っていたことは気になる」
先ほどとは違って、真剣な顔でユーノラは語る。
「おっかしいわね」
「ちょっ、サナ、ねえサナ、もうやめてあげて」
ポキポキとサナが国宝の剣を折っていく。
いよいよ、ユーノラの口から魂が出ていた。
「ねえ、これが国宝なの?」
そう言って、ユーノラの王冠をペシペシ叩く
「むぅ、お主は……我が子孫達が集めた宝剣魔剣をガラクタにしおって」
王冠から眉をしかめたドワーフが出てくる。
初代ドワーフ王国国王ジオ=ベッケルニだ。
「そんなことはどうでもいいわ。本当に、本当にこれが国宝なの?」
「あたりまえじゃ、ここにあるのは全てドワーフ王国の職人であれば一度は作りたいと願う名品ばかりじゃ!」
「あんたまでそう言ってことは……やっぱり変ね」
「なんじゃとっ!」
「一部は装飾品や儀式用だったとしても、たった一回壁にたたきつけた程度で折れるの?」
「それは、お主の扱いが……」
「へぇ、じゃあ国宝とやらは、一カ月程度修行したやつが作った木剣に負ける程度の強度しかないってことね」
「なんじゃと」
「まぁいいわ、あたしは外で頑丈そうなやつを探しに行ってくる」
興味を失ったサナは手に持った黒い剣をへし折って出て行ってしまった。
「サナ殿が持っていた剣はどこぞの名剣かと思ったら、まさか一カ月程度の修練で作った作品とは……」
「まぁ、ちょっと事情はあるけど、間違ってはいないですね」
ゲームの世界に閉じ込められたことは秘密にしているので、風香は言葉を濁しながらも肯定する。
実際に前のゲームで名前は知らなかったが、あのサナが認めるヒロと言うプレーヤーは相当やりこんでいたんだろうから、厳密には1カ月ではない。しかし、こちらのシステムでは1カ月、仮にベータに参加していても3カ月は越えない。
「では、うちの国の技術はその程度ということか」
サナの折った剣を鑑定してみると、最高でレア度7
あの木剣はレア度6だったが、サナの事を考えて耐久極振り、自己回復機能までくっついていたことを考えると、サナの剣を越える耐久は無かった可能性がある。
「それにしても、不自然ね。材料や技術を含めて、もっと良いものがあってもおかしくないのに」
「そうだな。少し調べてみようと思う。風香、他の国の状況も気づいたら教えて欲しい。治安維持にも、魔物から町を守るにも良い武器は必要だし、ドワーフ王国は鍛冶で成り立つ国。そのままにしていて良い問題ではない」
「うん、何かわかったら連絡するわ」
「助かる」
そう言って、ユーノラは風香に頭を下げた。
遅くなって申し訳ないでし!




