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追放された最悪スキル『疫病マスター』の私、色男たちに監視されることになりました  作者: 竹屋 兼衛門


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16/18

第十六話:どうやら私、知ってしまうようです。

その日の夜だった。


孤児院は静かだった。


昼間の騒ぎも落ち着き、子供たちも眠りについている。


私も眠ろうとしていた。


その時。


【子供】

「ロラがいない……」


小さな声が、広間に落ちた。


私は飛び起きる。


【エンフェリア】

「え?」


毛布がめくれている。


ロラが寝ていた場所だけ、ぽっかり空いていた。


嫌な予感がした。


私はすぐに立ち上がる。


【エンフェリア】

「ロラ!?」


広間。


廊下。


食堂。


どこにも居ない。


胸の奥が、冷たくなる。


また。


また誰かが居なくなった。


【ルシアン】

「どうした!?」


騒ぎを聞きつけてルシアン様達もやってくる。


【エンフェリア】

「ロラが……居ないの……!」


空気が変わった。


ガレスさんが即座に窓を確認する。


【ガレス】

「……開いてる」


夜風が入り込んでいた。


【ルシアン】

「まさか誘拐か!?」


【ガレス】

「まだ分からん」


その時。


外の警備兵たちも騒ぎに気づき、孤児院へ駆け込んできた。


【兵士】

「何がありました!?」


【ルシアン】

「子供が一人消えた!」


兵士たちの顔色が変わる。


【兵士】

「すぐ捜索します!」


兵士たちは慌ただしく街へ散っていった。


でも。


私は、その場で立っていられなかった。


【エンフェリア】

「私も探しに行く!」


【ルシアン】

「当然、余も行くぞ!」


【セドリック】

「いえ。

 殿下は残ってください」


セドリックさんが即座に否定する。


【ルシアン】

「なぜだ!?」


【セドリック】

「もし今回が陽動なら、ここを空にする方が危険です」


ルシアン様が言葉に詰まる。


【セドリック】

「まだ子供達は残っています」


【ガレス】

「……そういう事だ」


ガレスさんも頷いた。


【ガレス】

「お前はここを守れ」


【ルシアン】

「ぐ……」


ルシアン様は悔しそうに拳を握る。


でも。


しばらくして。


【ルシアン】

「……分かった」


小さく頷いた。


【ルシアン】

「必ず連れ戻せ」


【エンフェリア】

「うん!」


私は強く頷く。


セドリックさんは静かに外套を羽織った。


でも。


その顔は妙に険しい。


【エンフェリア】

「セドリックさん?」


【セドリック】

「……嫌な予感がするのです」


小さな声だった。


【セドリック】

「まるで、誰かに誘導されているような」


誘導。


その言葉に、胸がざわつく。


【ガレス】

「心当たりがあるのか?」


【セドリック】

「まだ確証はありません」


そう言いながらも、セドリックさんは考え込んでいた。


何か分かっている。


そんな顔だった。


その時。


ふと。


私は昼間の事を思い出す。


銀色の腕輪。


“怖い夢を遠ざけてくれる”


アドリアンさんの言葉。


嫌な寒気が走った。


【エンフェリア】

「……ロラの腕輪」


【ガレス】

「ん?」


【エンフェリア】

「腕輪、付けたままだった……」


セドリックさんの表情が変わる。


【セドリック】

「……そういう事ですか」


【エンフェリア】

「え?」


【セドリック】

「エンフェリアさん」


セドリックさんが真っ直ぐ私を見る。


【セドリック】

「今夜は、絶対に私達から離れないでください」


【エンフェリア】

「え……?」


【セドリック】

「いいですね?」


声が、少し強かった。


私は小さく頷く。


【エンフェリア】

「……うん」


【ガレス】

「行くぞ」


夜の街へ、私達は歩き出した。


月明かりだけが、石畳を照らしている。


そして私は、まだ知らなかった。


ロラが――


“自分の意思で”


歩かされている事を。


――


セドリックさんは、迷いなく夜道を進んでいた。


その後を、私とガレスさんが追う。


夜の街は静かだった。


昼間の賑わいが嘘みたいに、人通りが少ない。


石畳に、靴音だけが響く。


【エンフェリア】

「……どこに居るのか分かってるの?」


私は思わず聞いた。


セドリックさんは前を向いたまま答える。


【セドリック】

「おそらくは」


その声は静かだった。


でも。


確信に近いものが混じっていた。


やがて。


私達は、一軒の店の前で立ち止まる。


武器と装飾品の店。


昼間、ロラと一緒に来た場所。


【エンフェリア】

「……なんで?」


胸の奥がざわつく。


どうして、ここに。


セドリックさんは、ゆっくりと私を見る。


【セドリック】

「エンフェリアさん」


真っ直ぐな目だった。


【セドリック】

「どんな事があっても、私達はアナタの味方です」


私は目を瞬かせる。


【エンフェリア】

「……え?」


どうして。


今、そんな事を言うんだろう。


【セドリック】

「そうですよね、父上」


【ガレス】

「ん?」


ガレスさんは少し首を傾げ――


すぐに笑った。


【ガレス】

「当たり前だろ」


【ガレス】

「俺はエンフェリアの父親なんだからな」


【エンフェリア】

「もう。

 まだ候補ですよ」


私は少しだけ笑う。


ガレスさんも豪快に笑った。


でも。


【セドリック】

「私は、アナタの兄として」


セドリックさんが静かに続ける。


【セドリック】

「アナタを守ります」


どんな刃よりも強い覚悟があった。


その瞬間。


少しだけ緩んだ空気が、凍った。


私は息を呑む。


どうして。


そんな顔をしてるんだろう。


まるで――


これから、とても恐ろしい事が起こるみたいに。


【ガレス】

「……ああ」


ガレスさんの表情も、ゆっくり厳しくなる。


【ガレス】

「俺も、お前を娘として守る」


【ガレス】

「どんな事があってもな」


夜風が吹く。


店には灯りがついていた。


でも。


扉は閉まっている。


セドリックさんが、ゆっくり扉を叩く。


コン、コン。


しばらくして。


静かに扉が開いた。


【アドリアン】

「――お待ちしておりました」


アドリアンさんだった。


白い髪。


柔らかな笑み。


昼間と変わらない穏やかな顔。


でも。


なぜか今は、すごく冷たく見えた。


【セドリック】

「ロラさんは、こちらですか」


【アドリアン】

「ええ」


アドリアンさんは、あっさり頷く。


【アドリアン】

「どうぞ」


私達は店の中へ入った。


店内は静かだった。


ランプの灯りが、棚の商品を照らしている。


そして。


店の奥。


小さな影が見えた。


【エンフェリア】

「……ロラ!」


良かった。


やっぱり、街で迷子になって。


この店で保護されていただけなんだ。


そう思った。


でも。


ロラは、私を見た瞬間に顔色を変えた。


まるで本当に、化け物を見たみたいに。


【ロラ】

「っ……!」


ロラは怯えた声を漏らし、そのまま机の影へ逃げ込む。


銀色の腕輪を握りしめながら。


【エンフェリア】

「ロラ?」


どうして。


私は、ゆっくり近づこうとする。


その瞬間。


【ロラ】

「来ないで!」


びくり、と身体が止まった。


【ロラ】

「来ないで……悪魔!」


頭の中が真っ白になる。


悪魔。


その言葉だけが、胸に突き刺さった。


【エンフェリア】

「……え?」


胸の奥が、ぎゅっと掴まれたみたいに痛くなる。


息がうまく吸えない。


ロラは震えている。


涙を流しながら。


まるで、本気で私を怖がっていた。


【ガレス】

「おい……」


ガレスさんが低く唸る。


セドリックさんは、静かにアドリアンさんを見る。


【セドリック】

「やはり魔除けのアイテムでは無かったのですね」


【アドリアン】

「いやいや、

 ちゃんと魔除けの効果はありますよ?」


【アドリアン】

「……連絡機能もありますが」


【セドリック】

「それで……

 ロラさんへ、ドレイケルド王国での疫病の正体を教えたのですね」


【アドリアン】

「私は……

 事実を伝えただけです」


笑っているはずなのに、

人の温度だけが感じられなかった。


【セドリック】

「子供に背負わせるには、重すぎる事実です」


【アドリアン】

「ですが、現実です」


アドリアンさんは静かに答える。


【アドリアン】

「ドレイケルドでは、多くの子供が疫病で死にました」


【アドリアン】

「家族を失った者もいる」


【アドリアン】

「ロラさんも、その一人です」


ロラが、腕輪を握りしめる。


【ロラ】

「……みんな死んだの」


震える声。


【ロラ】

「お母さんも……お兄ちゃんも……」


私は、何も言えなかった。


アドリアンさんが私を見る。


【アドリアン】

「エンフェリア様」


そしてアドリアンさんは、

震えるロラへ視線を向けた。


【アドリアン】

「これが……貴女のやった事です」


ロラは、

震えながら腕輪を握りしめていた。


【アドリアン】

「……貴女は、事実を拒みますか?」


その目は優しかった。


でも。


どこまでも冷たかった。


まるで、

逃げる事を許さない目だった。


【セドリック】

「いいえ」


セドリックさんが、一歩前へ出る。


【セドリック】

「エンフェリアさんは、そんな弱い方ではありません」


静かな声だった。


でも。


迷いは一切なかった。


その言葉だけが、

崩れそうな私を、

辛うじて繋ぎ止めていた。


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