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追放された最悪スキル『疫病マスター』の私、色男たちに監視されることになりました  作者: 竹屋 兼衛門


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15/18

第十五話:どうやら守られているようです。

夜。


孤児院の空気は張り詰めていた。


倒れた家具。


散らばった武器。


まだ残る血の匂い。


そして。


床へ横たえられたトラカゲ。


【ガレス】

「……これ全部、孤児院に持ち込んでたのか」


ガレスさんが、床に並べられた忍具を見て呟く。


クナイ。

手裏剣。

毒針。

煙玉。


孤児院にあるべき物じゃない気がした。


【ルシアン】

「恐ろしい奴だな」


【ガレス】

「しかも音もなく忍び込んでやがった」


ルシアン様とガレスさんは警戒したままトラカゲを見る。


でも。


私は、なんだか胸が苦しかった。


忍者君を庇いたい。


だけど。


私にも分からない。


どうして、こんな事をしたのか。


【セドリック】

「エンフェリアさん」


セドリックさんが静かに言う。


【セドリック】

「起きた事を、順番に教えてください」


机には紙が置かれていた。


セドリックさんはペンを持っている。


【セドリック】

「きっと、それで見えてくるものがあります」


私は小さく頷いた。


そして、一つずつ話し始める。


トラカゲがロラの部屋へ入ったこと。


丸薬を飲ませようとしていたこと。


私が病気で止めたこと。


ロラの言葉。


“ようやく疫病から逃げられたと思ったのに”


その瞬間、トラカゲの目が変わったこと。


私は全部話した。


誰も口を挟まない。


紙を擦る音だけが、静かな部屋に響いていた。


やがて。


セドリックさんがペンを置く。


【セドリック】

「……なるほど」


【ガレス】

「分かったのか?」


【セドリック】

「はい。

 少なくとも、トラカゲさんの行動理由は見えました」


セドリックさんは、静かにトラカゲを見る。


【セドリック】

「この方は、エンフェリアさんを守ろうとしたのでしょう」


空気が止まる。


【ルシアン】

「……守る?」


【セドリック】

「はい」


セドリックさんは紙を軽く叩いた。


【セドリック】

「おそらく彼は、エンフェリアさんを外の世界から切り離したかった」


【セドリック】

「政治。

 欲望。

 争い。

 そういったものから」


【ガレス】

「だから孤児院を潰そうとしたってのか……?」


【セドリック】

「極端ですが、理屈としては繋がります」


私はトラカゲを見る。


忍者君は、まだ意識を失ったままだ。


苦しそうな呼吸だけが聞こえる。


【ルシアン】

「意味が分からぬ」


ルシアン様が腕を組む。


【ルシアン】

「守りたいなら、普通に守ればよいではないか」


【セドリック】

「きっと、普通では間に合わないと思ったのでしょう」


【セドリック】

「……かなり追い詰められていたのだと思います」


沈黙。


その時だった。


【ガレス】

「さて……問題はこいつをどうするかだな」


ガレスさんがトラカゲを見下ろす。


【ルシアン】

「牢へ入れるしかあるまい」


【セドリック】

「ええ」


セドリックさんは頷く。


でも、その視線は少しだけ窓へ向いていた。


【セドリック】

「……フェラン殿が戻る前に、王城へ移した方が良いでしょうね」


私は顔を上げる。


【エンフェリア】

「え?」


【セドリック】

「今の状況では、フェラン殿とトラカゲさんを接触させるべきではありません」


【ガレス】

「同感だ」


ガレスさんも頷いた。


【ガレス】

「今夜は色々ありすぎた。

 余計な揉め事は避けたい」


【ルシアン】

「うむ。

 なら急いだ方が良いな」


セドリックさんは立ち上がる。


【セドリック】

「私が王城まで運びましょう」


【ルシアン】

「重くないか?」


ルシアン様が首を傾げる。


【ルシアン】

「運ぶだけならガレスの方が向いておろう」


【セドリック】

「ふふ」


セドリックさんは少し笑った。


【セドリック】

「確かに力仕事なら父上の方が適しています」


【セドリック】

「ですが、皆を安心させるなら、父上がここへ残った方が良いのですよ」


ガレスさんが少しだけ目を丸くする。


【ガレス】

「……お前も、そういう事を考えるようになったな」


【セドリック】

「以前から考えていましたよ?」


【ガレス】

「ははっ。そうだったな」


少しだけ空気が緩む。


【ルシアン】

「では警備兵を一人付けよう」


【ルシアン】

「流石に忍者と二人きりは危険だ」


【セドリック】

「ありがとうございます、殿下」


そうして。


孤児院を警備していた兵士一人と共に、セドリックさんはトラカゲを運んでいった。


去っていく背中を、私は黙って見つめる。


忍者君は、最後まで目を覚まさなかった。


広間へ戻ると、子供たちはまだ怯えていた。


特にロラは酷い。


毛布に包まって、小さく震えている。


私はその隣へ座った。


【ロラ】

「……ごめんなさい」


小さな声だった。


【エンフェリア】

「え?」


【ロラ】

「私が居るから……」


【エンフェリア】

「違う!」


思ったより大きな声が出た。


皆がこちらを見る。


でも、止まらなかった。


【エンフェリア】

「ロラは悪くないよ!」


【ロラ】

「でも……」


【エンフェリア】

「悪くない!」


私はロラを抱きしめた。


小さな身体が震えている。


怖かったんだ。


当たり前だ。


【ロラ】

「……怖い」


【エンフェリア】

「うん」


【ロラ】

「でも……」


ロラが、ぎゅっと私の服を掴む。


【ロラ】

「エンフェリアが居るから、大丈夫」


その言葉に。


胸の奥が少しだけ熱くなった。


――


朝。


孤児院には、まだ重い空気が残っていた。


子供たちも静かだ。


特にロラは、ずっと私の近くから離れない。


そんな中。


【フェラン】

「……それは、大変でしたね」


フェランさんが静かに言った。


赤髪を揺らしながら、ロラの部屋を見回す。


倒れた家具。


傷跡。


ロラの肩の包帯。


【ガレス】

「忍者の奴、ロラを殺そうとしやがった」


【フェラン】

「……なるほど」


フェランさんは驚いた顔をした。


でも。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ。


何かを考えるように目が細くなった気がした。


【フェラン】

「ロラさん」


フェランさんはしゃがみ込み、ロラと目線を合わせる。


【フェラン】

「怖かったでしょう」


ロラは小さく頷く。


【フェラン】

「でしたら、少し街へ出てみるのはどうでしょう?」


【ロラ】

「街?」


【フェラン】

「ええ。

 気を紛らわせるのも大切ですよ」


優しい声だった。


【フェラン】

「そうだ。

 防御用のアクセサリーなど買ってみては?」


【ルシアン】

「防御用?」


【フェラン】

「はい。

 気休めかもしれませんが……」


【フェラン】

「人は、“守られている”と感じるだけでも、

 心を落ち着かせられるものです」


ロラが少しだけ顔を上げる。


【ロラ】

「……お守りみたい?」


【フェラン】

「ええ。

 そんな感じですね」


ロラは、ちらりと私を見る。


【エンフェリア】

「行こうか」


【ロラ】

「……うん」


――


街は少しずつ活気を取り戻していた。


露店。

修復された家。

行き交う人々。


ロラは最初こそ怯えていたけど。


【ガレス】

「おっ。

 あそこのパン屋、開いたのか」


【ロラ】

「パン?」


【ガレス】

「焼きたては美味いぞ」


そんな会話をしているうちに、少しずつ表情が戻っていく。


ロラは、いつの間にかガレスさんの隣を歩いていた。


まるで本当のお父さんみたいに。


【ルシアン】

「む……」


ルシアン様が少しだけ不満そうな顔をする。


【ルシアン】

「余もちゃんと守れるぞ?」


【ロラ】

「……うん」


【ルシアン】

「今の間はなんだ」


少しだけ笑いが起きる。


そして。


私たちは、アドリアンさんの店へ辿り着いた。


武器と装飾品の店。


扉を開くと、アドリアンさんが穏やかに微笑んだ。


【アドリアン】

「これは皆様。

 いらっしゃいませ」


その視線が、一瞬だけロラで止まる。


でも次の瞬間には、いつもの柔らかな笑みに戻っていた。


【アドリアン】

「本日はどういったご用件で?」


【ルシアン】

「防御用アクセサリーを探しておる」


【アドリアン】

「ほう」


アドリアンさんは少し考え――


棚から、簡素な銀色の腕輪を取り出した。


派手さはない。


でも、不思議と綺麗だった。


【アドリアン】

「こちらなど、いかがでしょう」


【アドリアン】

「簡易的な魔除けの刻印が入っています」


【ロラ】

「……きれい」


ロラの目が少し輝く。


アドリアンさんは優しく微笑んだ。


【アドリアン】

「怖い夢を遠ざけてくれるそうですよ」


ロラは腕輪を大事そうに抱える。


【ロラ】

「これでもう……怖くないね」


その笑顔を見て。


私は少しだけ安心した。


……安心してしまった。


でも――


なぜかアドリアンさんの笑みだけが、

少し怖く見えた。


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