許可取り
それから少し日が経ち、セレーネはフェリシア、カノン、マリアを連れて、クリムソン家本邸に来ていた。そして、まずミレーユの部屋に突入する。
「お母様!」
セレーネは、椅子に座っているミレーユに駆け寄って抱きつく。ミレーユは軽々と受け止めてセレーネの頭を撫でる。
「おかえりなさい、セレーネ。また少し大きくなったみたいね」
「成長期!」
セレーネはミレーユに甘えて離れようとしない。それを見て、フェリシアは小さくため息をつく。ミレーユはすぐに気付く。
「あら、恋人が嫉妬しているわ」
「いえ、さすがに侯爵夫人に嫉妬する程余裕がない訳ではありませんので」
「余裕の愛ですね。それと、私の事はそんな余所余所しく呼ぶ必要はありませんよ。気軽に母と呼んでください。セレーネと結婚するのですから」
「え? は、はい。お義母様……」
少し恥ずかしげにミレーユの事を呼ぶフェリシアに、ミレーユは優しく微笑む。
「それで、フェリシアが呆れるくらい目的を忘れているセレーネは、何をしに来たの?」
「あっ!!」
本当に甘える事に夢中になっていたセレーネは勢いよく顔を上げる。
「お母様を味方に付けようと思って来たの! 私達ダンジョンに行きたい!」
「ダンジョンに?」
結論から入っているため、ミレーユも何故ダンジョンなのかと困惑する。そこにカノンが、紙束を提出した。ミレーユは、セレーネを膝に乗せながら、紙束を受け取って中身を読んでいく。
「なるほど……研究のために必要な事みたいね。セレーネは、しっかりと理由を口で言える?」
「うん! 行き詰まったから、気分転換に行きたいのと、ダンジョンの素材が何かしらのヒントになるかもしれないのと、ミーシャちゃんがダンジョンそのものがヒントになるかもしれないって言ってたから」
「ミーシャ様が? それなら説得力も出て来るわ。それじゃあ、あの人のところに行きましょうか」
「うん!」
セレーネはミレーユと手を繋いでラングリドの元に向かう。ラングリドは執務室で仕事をしていた。
「ん? 大所帯だな。何かあったのか?」
ここ最近何かがありすぎたため、ラングリドも警戒していた。
「ダンジョンに行きたいから許可を貰いに来たの」
「ダンジョンに?」
ラングリドが眉間に皺を寄せる。それだけで、賛成ではないという事が伝わってくるが、セレーネは全く気にせずに続ける。
「今の研究がちょっと行き詰まって、ダンジョン由来の素材とかがヒントになるかもっていうのとミーシャちゃんがダンジョンそのものがヒントになるかもしれないって言ってたから、見に行きたいの。ちゃんと紙に書いてきたから読んで」
そう言って、セレーネがカノンを見ると、カノンがミレーユに見せたものと同じ紙束をラングリドに渡す。ラングリドは、その紙束に視線を落とした。
「なるほど……セレーネの研究に必要な事かもしれないと」
「うん! リーシアちゃんも一回体験しておくと良いかもって。あと少しで、研究が実を結びそうなの。だから、お願い。ちゃんとカノンとマリアも一緒に行くから」
ラングリドは更に皺を深くする。ただセレーネが主張するだけなら、首を横に振るのだが、リーシアとミーシャが後押ししている事が大きく、セレーネにダンジョンへ行くのを許可するべきか深く悩んでいた。
「セレーネの研究に必要かもしれない以上、許可しておくのが良いと私は思います」
ここで、味方に付けておいたミレーユからの意見も加わる。
「テレサと違い、セレーネが勝手にダンジョンに行く事はありません。それはカノン達が許さないでしょう。ですが、だからと言ってダンジョンに行くことを禁止するのが、セレーネのためかというと少し異なると思います。年齢的な意味合いでは早いかもしれませんが、セレーネは立派な高等部の学生です。十分にダンジョンに挑む準備は出来ているでしょう。カノンとマリアも付きますし、それでも心配であれば、他にも護衛を雇えば良いかと。カノンなら、大きな伝手がありますし、その護衛をテレサにさせても良いと思います。娘の研究の後押しをするのも親の役目では?」
ミレーユの説得を受けて、ラングリドは皺を更に深くする。ラングリドの葛藤が窺える。そして、深々と息を吐く。
「はぁ……カノン。護衛を頼める相手はいるのか?」
「仕事が入っていなければ、ベネットとスピカを呼べるかと」
「そうか。分かった。許可しよう。ただし、最大限安全面を優先する事。ダンジョンを制覇する事が目的ではないという事を頭に入れておく事。良いな?」
「うん。ありがとう、お父様。じゃあ、準備してくるから。お母様もありがとう」
セレーネは、ミレーユに抱きついてから、全員を連れて別邸に戻っていった。
「ライルやテレサとは違うな」
「兄妹で似るとは限りませんから。あの子なりにやりたい事を考えて動いているのだと思いますよ」
「だが、ダンジョンは危険だろう?」
「あの子は沢山の危険に巻き込まれています。それを考えれば、躊躇するのは分かりますが、逆にそろそろ純粋な戦闘の訓練をした方が良いとも考えられます。カノン、マリアがいて、さらに護衛がいるのであれば良き訓練になると思いますが」
「確かにその通りだが……学園の方もあるだろう」
「セレーネ達は既に三年の内容のほとんどを終わらせています。魔術に関しても先生から実戦でもやっていけるであろうとお墨付きを頂いていますよ」
「…………こっちに回っていないのだが?」
「個人的なやり取りですので」
ミレーユはレイアーと個人的にやり取りをして、セレーネの学園の様子を確認していた。個人的なものなので、ラングリドと共有はしていなかったのだ。
平然と笑顔でそう言うミレーユに、ラングリドは短くため息をつく。
「セレーネ達はミレーユに似たんだな……」
その言葉に、ミレーユはただニコニコと笑っていた。
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別邸に戻ってきたセレーネはベッドに座って足を揺らしていた。
「カノン、カノン。早く準備しよ」
「私達だけでは行けませんので、もうしばらくはお預けです」
「えぇ~……」
「ベネットとスピカに確認して、最低でもどちらかは来てもらった方が良いので」
「あれ? そういえば、カノンの知り合いってもう一人いなかったっけ?」
「ナタリアですね。彼女は、お嬢様達と役割が被ってしまうので、なるべく穴を埋められる人員を選んでいます」
魔術を使える人間で言えば、セレーネ、フェリシア、マリア、一応カノンと全員が使えるこの中で、カノンは近接側に回るとしても、三人も後衛魔術師がいるので、ナタリアがいなくても足りているとカノンは考えている。ここで足りないのは、盾役と回復役だ。
実際には、セレーネ、フェリシア、カノン、マリアは再生能力を所有しているので、回復役がいなくても大きな問題はないと言える。なので、スピカには回復役よりも防御に徹して貰おうと考えていた。
「取り敢えず、二人に話をしてこようと思います。マリアさん、お嬢様とフェリシア様をよろしくお願いします」
「はい。お任せ下さい!」
カノンは、ベネットとスピカに予定を聞くために屋敷を出て行った。その間に、セレーネ達はダンジョンに行くための準備とダンジョンで確かめる事の確認などをしていく。




