ダンジョンに行く道
それから二週間が経過した。セレーネ達のダンジョン遠征への準備は整い、レイアーとミルズからも許可が下りる。そして、ダンジョンへの遠征日がやって来た。クロも一緒にツイれていきたいところだったが、普段の旅行とは違うので、念のためクロは留守番となった。セレーネ達の代わりに、キリルが面倒を見る事になった。
ダンジョンに行くメンバーは、セレーネ、フェリシア、カノン、マリア、テレサ、ルリナ、スピカの七人だ。ベネットは騎士団の仕事で来られなかった。
そんな七人でダンジョンのある場所まで向かうので、移動は復旧した魔動列車に乗る。いつも通りの貸し切り車両での移動だ。
セレーネ、フェリシア、テレサ、マリアは、向かい合わせの四人席に座って話している。
その中でカノン、ルリナ、スピカはカウンター席にいた。カノンとルリナは、軽食の準備中だ。カノンとルリナは、それぞれ耳と尻尾を覆っているメイドスタイルだった。
「何だか、私以外身内のパーティーだね」
「ん? まぁ、確かにね。特に気にしなくても良いんじゃない? お嬢様も気にしている感じはないし」
「今回はセレーネ様の研究を進めるために行くんだよね?」
「うん。それがヒントになるかもしれないからね。それで研究が進めば良し。進まなくても、お嬢様とフェリシア様には良い経験になるだろうから、それでも良しって感じかな。基本的には、お二人を守るのがスピカの仕事。というか、スピカの方は、本当に仕事大丈夫なの?」
ここまで来て今更ではあるが、カノンはもう一度確認する。スピカが無理に付いてきているといけないからだ。
「うん。担当月は、まだ先になるし、これでも仕事の要領は良いから、書類仕事とかは手早く終わらせているしね。一ヶ月抜けていても問題はないよ。寧ろ、他の人が育たないから、今回の仕事を受けて外部で修行しろって言われた」
「教会はそれで良いの?」
「異例だけど、私には認めるしかないってさ。実際、外回りで色々な病院を回ったり、呪いを解いたりしていたしね。外に出しておいた方が、私の評判が広がるし、それが教会の評判にも繋がるから良いんじゃないかな」
あまりにも教会を大事に思っていないスピカの言葉に、ルリナは少し驚きながら軽食の準備をしていた。
「それにしても、魔動列車にこういう場所があるとは知らなかったなぁ」
「次代の聖女様でも、貸し切り車両は使わないのですか?」
ルリナは純粋に疑問に思ってそう訊いた。それに対して、スピカは苦笑する。
「あはは……それは周りが勝手に言っているだけだからね。実際、近い場所にはいるけど、貴族でも何でもないから、貸し切るだけの権力も財力もないかな。使うものがないから貯金はしているけどね。教会の下の方は、そこまで儲けないから」
明け透けなスピカに、ルリナは驚いて目を丸くしていた。教会関係者と話す機会がある訳でもないので、ルリナのイメージでしかないが、もう少し教会を敬っているイメージが強かったからだ。
「あまり教会を貶める事を言わない方が良いんじゃない? 上に上がって教会を変えるつもりなのに、そこに上る事が出来なかったら意味ないでしょ?」
「そんな教会に告げ口をするような人はいないでしょ? ね?」
「は、はい!」
スピカの優しい笑顔が、ルリナには圧にしか感じられず、少し上擦った声で返事をしていた。そんなルリナに、スピカはやはり優しく微笑み掛ける。その微笑みを受けたルリナは、カノンと一緒に作った軽食を運ぶために離れていった。
「ふふ、可愛い。そういえば、カノンは、このパーティーに本当にベネットを呼ぶつもりだったの?」
「え? うん。盾が欲しかったから」
「カノンって、時々盾としての要素でしかベネットを考えてないよね……」
「え? う~ん……まぁ、確かにね。攻撃の要にもなるけど、ベネットの強みは攻防一体である事だと思うし、どちらかというと足りなくなりがちな盾として呼びたくなるかな」
「でも、ベネットはあれでも男性だよ?」
スピカのその言葉を受けて、カノンは車両内を見回す。そこに居るのは、全て女性だった。
「う~ん……でも、ベネットは気にしないでしょ?」
「セレーネ様達が気にされるかもしれないよ?」
「あぁ~……まぁ、今度はそこも確認してから、ベネットに要請しようかな」
「そうしてあげて」
割と雑に扱われがちなベネットだが、ベネット自身がそれを気にしていない事が多いので、カノン達も雑に扱ってしまっていた。カノンは、その事を内心反省する。
────────────────────
カノンとスピカが会話している中で、セレーネ達は四人席で過ごしていた。そこにルリナが軽食を持ってくる。
「セレーネ。軽食が来たわ」
「あ~ん」
自分で書いたアイデア出し用の紙束を読みながら口を大きく開けるセレーネに、テレサがサンドウィッチを食べさせる。その間に、ルリナはカウンターへと引っ込んでいった。
「今回はセレーネの研究のためのようだけれど、フェリシアはどんな調子なの?」
「順調ではあります。カノンさんに手伝って貰って、実用出来る耐久度を探しているところです」
「そう。中々難しそうね。柔らかい結界だなんて、アカデミーでも研究しているところを見た事がないわ。セレーネの空間魔術もそうだけれど」
「何で?」
セレーネ自身は、研究を通じて空間魔術の可能性に気付いているため、研究を進めない理由が分からない。さらに、フェリシアが研究している結界に関しても、フェリシア自身が命を救われているので、研究に値する重要なものと考えていた。
「結界の場合は、より強度と硬さを求めるからよ。何があっても割れない結界を求めているという事ね。空間魔術に関しては、セレーネも論文を読んで分かる通り、無駄や徒労に終わる可能性が高いのよ。魔術師は結果を求める事が多いから、そういうものを嫌うのよ。お金の問題もあるわね」
「ふ~ん……私は学生だから気楽に出来ているって感じ?」
「そうね。アカデミー生よりも気楽ではあるかもしれないわね。私も自腹を切らないといけない研究があったりするもの。まぁ、その分研究成果を出せば褒賞が出る可能性もあるから、そこに期待する人もいるわ」
「ふ~ん」
「どのくらいの援助があるものなのですか?」
アカデミーで研究したいと思っていたフェリシアは、丁度良い機会だと思い質問した。
「そうね……正直研究にもよるわ。アカデミーが研究を後押しするだけの価値があると判断すれば、経費の八割以上を出してくれるわね。私は戦闘魔術の研究をしていたから、七割くらいは出して貰ったわ」
「結局は、アカデミーにどれだけ有用かを知らしめないといけないという事ですか?」
「その通りよ。最大の金額とかは私も知らないわ。人によってまちまちだもの」
「そうなのですね。アカデミーでの研究もどうするか考えておくべきでしょうか?」
「一年生で考える事じゃないわ。目の前の研究に集中しなさい」
「はい。ありがとうございます」
色々と教えてくれたテレサに、フェリシアはお礼を言いつつ、サンドウィッチに手を伸ばす。三人の近くにマリアを配置して、様々な警戒をしていた移動だったが、結局何事もなく目的地の街へと着くことが出来た。




