リーシア達が置いていったもの
セレーネが思考に夢中になっている間に、リーシア達は屋敷から帰っていた。
「あれ? リーシアちゃん達は?」
「もうお帰りになりましたよ。しばらくはこちらにいるようですので、またお嬢様の様子を見にいらっしゃるそうです」
「そっか。ミーシャちゃんに、意見を貰いたかったんだけどなぁ」
びっしりと書かれた紙束を持ったセレーネは残念そうな表情でそう言う。何十枚も書かれている紙束は、セレーネが思い付いたアイデアを書き殴ったものだった。
「それだったら、清書してからの方が良いと思うわよ」
「う~ん……」
セレーネは自分で紙束を読み直して、フェリシアの言うとおりかもしれないと思い始めていた。
「書いたら、カノン届けてくれる?」
「はい。宿の場所は聞いていますので」
「じゃあ、清書しておく」
セレーネは自分が出したアイデアを紙に清書しながら纏めていく。早く意見が欲しいという気持ちで急いてしまっていたが、改めて纏めていく中で気付く事もあり、再びセレーネは集中し始めていく。その姿を見ていたフェリシアとカノンは互いに顔を見合わせて笑い合っていった。
そんな中で買い物に出ていたマリアが帰ってくる。
「ただいま戻りました……って、何これ?」
マリアはセレーネの部屋の中に広げられた大量の素材を見て唖然としていた。
「リーシア様とミーシャ様がいらっしゃったのです。これはお土産ですね。丁度良かったです。仕分けを手伝って下さい。保存するための環境が違うものもあるかもしれませんので」
「あっ、そうですね。下手に保存して使い物にならなくなったら困りますし」
カノンとマリアで、リーシア達から貰った素材の仕分けを始める。その様子をフェリシアは見学していた。フェリシア自身は、そこまで素材への理解が深くないので、こうして仕分けをしているのを見て学ぼうと考えたのだ。
セレーネは、ミーシャが紙に写してくれた【空間拡張】の魔術陣を見ながら研究を続けている。
「うぇっ!? これ火龍の鱗じゃないですか!?」
マリアは、大きな瓶の中に入ったキラキラとした粒を見て叫んだ。鱗と言っているが、その見た目は鱗に見えない。その事をフェリシアは疑問に思った。
「鱗? こんなに細かいの?」
「いえ、火龍の鱗はそのままだとフェリシア様よりも大きいです。でも、そのままだと使い物にならないので、こうして細かく砕いて使うんですよ。まぁ、砕く作業も大変なはずなんですけど……えっ……この瓶、何個あるんですか?」
「見た感じですと、二十は超えていますね」
「これ火龍の巣から拝借したとかじゃなくて、火龍狩ってますよね……あっ! これ火龍の牙の粉ですよ!?」
マリアは、別の瓶に入った乳白色の粉を見て叫ぶ。
「しかも、こっちは皮膜!? 完全に火龍を狩ってる!? 本では国の騎士団が丸ごと掛かってようやくってレベルのはずなのに……!? この感じだと大分年齢がいってる火龍だろうし……リーシア様達って、どれだけ強いの……?」
「火龍の事をあまり知らないのだけど、そんなに凄いの?」
フェリシアの確認に、マリアは大きく頷く。
「そりゃあもう凄いはずですよ。龍は基本的に空を飛びますから、そもそも戦いにくいというのがあるんですが、この鱗のせいで魔術が通りにくいので、魔術を主体として戦うと厳しいはずなんです。今回は火龍ですので、相手は高熱の炎を吐き出してきます。生半可な水では簡単に蒸発してしまいますし、準備を整えていても本当に倒せるかどうか」
「そうなのね。これが真祖の力って事なのかしら」
「真祖でも倒せるかどうか。死なずに戦い続けられるだけで、有効な攻撃を使えなければ、ただ殺されるだけですからね。一体どれだけの準備をしていたのか……気になる!」
マリアは頭を抱えながら、リーシア達が来ている間にいなかった事を悔やんでいた。その様子をフェリシアは、少し驚いていた。
「意外ね。マリアさんは、そういう事に興味があるように思えなかったのだけど」
「研究こそ別の分野を進めていましたが、こういうのも好きでしたからね。魔術薬学とか錬金術のレポートを書くときに、色々な文献を漁ったものです」
「なるほどね。そういえば、昔話とかで龍は金銀財宝を好むとか言うじゃない? あれって本当なの?」
「ああ……嘘ですね。金銀財宝と言われているのは、火龍に挑んで亡くなった人達の遺品です。そこまで言えばお分かりだと思いますが、挑む人達が素手で行く事はほぼあり得ません。剣や鎧、盾、金属系のものから様々な道具まで持っていきます。それらが巣の中に溜まっていくので、金銀財宝と間違われやすいんです。まぁ、龍の魔力を浴びて変質している可能性もあるので、財宝と言えば財宝なんですけどね」
魔力で変質するという事は、ダンジョンの宝箱で得られる武具と同じような事になっているという事である。それを財宝と考えれば、確かに巣にはある事になる。ただし、集めるという習性ではないため、そこは否定される。
「エグいなぁ……龍の素材をポンと渡すなんて。これでも全体の一割に満たないだろうけど、この屋敷で十年以上暮らせるだけの価値がありますよ。勿論、私達の給料を払った上でです」
「…………とんでもないものを平然と置いていくのね」
「お嬢様が愛されている証拠ですね。正直なところ、ここまで貰ってしまうと使い道に困りますが」
火龍の素材の他にもリーシア達が置いていった素材は、かなり上質なものや希少なものが多かった。仕分けをしているカノンも内心呆気にとられる程に。
「魔術薬の授業にでも使います?」
「魔術薬もですが錬金術にも使えますね……失敗した場合、材料が無駄になる可能性がありますが」
「そんな怖いもので授業をしたくないのだけど……」
そこまで希少価値のあるものを使っての授業をしたいと思える程、フェリシアの肝は太くなかった。
「うわっ!? こっちは魔狼の毛皮だ!? どこのダンジョンに行ってたの!?」
「それも凄いのかしら?」
「魔狼は、かなり頭良いから戦うのが厄介なんです。それにこの毛皮は、しっかりと鞣してあるし、このまま使用する事も出来そうですね。丁度良いので冬服にでもしますか?」
「魔狼の皮ですと、職人でも時間が掛かると思いますよ。ギリギリ冬の間に受け取れるかくらいですね」
「じゃあ、明日の内に何枚か持っていっておきますね。今から依頼すれば、冬の内に使える期間が出来ますし」
「それでしたら、少し大きめに作って貰ってください。ここまでのものを使うのであれば、長い期間使用したいので」
「分かりました」
そうして仕分けが進んでいく。その中で、フェリシアはカノンとマリアの話からリーシア達が持ってきたものが本当に凄いものばかりである事が分かっていった。
フェリシアから見たリーシアとミーシャの評価が、確実に上がっていた。
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それから一週間が経った。セレーネはミーシャに意見を貰いながら、少しずつ魔術の構築を進めていた。ミーシャからは、本当に最低限の意見しか出ないが、それでもほんの少しずつ進んではいた。
「空間を広げて維持するまでは作れる……問題は空間そのものだ。家の倉庫を繋げておいても、結局接続の距離が長くなるから、魔力の消費が増える計算なんだよなぁ……あまりに距離が離れすぎたら意味がない」
距離関係に関しては、ミーシャからの話で出た問題だった。これにより部屋の一部を倉庫代わりにして、倉庫に一々繋げるという方法は使えないという話になった。
「ミーシャちゃんの【空間拡張】で袋とかの空間を拡張しておくのが限界なのかな。理想は手ぶらなんだよなぁ」
様々な方法を考えては紙に書いていっているが、やはり肝心なところで躓いていた。
「よし、ちょっと気分転換しよ」
セレーネは身体を伸ばしながら、頭をリフレッシュさせるためにクロと遊び始めた。




