思わぬところでヒント?
次の休日。セレーネ達の元に客がやって来た。それはセレーネがよく知る人物だった。
「セレーネ」
「リーシアちゃん! ミーシャちゃん!」
客としてきたのは、リーシアとミーシャだった。二人を見たセレーネは、すぐに駆け寄ると、リーシアに飛びつく。
「少し大きくなりましたね。ごめんなさい。セレーネに危険に巻き込まれていたのは分かったのですが、ダンジョンの奥にいて、駆け付ける事が出来ませんでした」
「ううん。仕方ないよ」
「そう言っていただけると幸いです。それにしても良くトラブルに巻き込まれますね。ついこの間も巻き込まれていたでしょう」
「リーシアちゃん……それ三年前だよ……」
セレーネにそう言われて、リーシアがミーシャの方を見る。すると、ミーシャも首を縦に振った。それで三年前の出来事であることが確定する。それを確認したリーシアは、二秒程目を閉じてから開く。
「ついこの間ですね」
リーシアは、このまま押し通す事に決めた。
「そちらのフェリシアさんでしたか? 彼女も眷属に?」
「うん。そのトラブルに巻き込まれてね。増やしすぎかな?」
「セレーネがしっかりと管理出来るのなら構いません。取り敢えず、フェリシアさんの心臓にも施しましょうか」
「うん。お願い」
セレーネはフェリシアを手招きで呼ぶ。招かれるままフェリシアがセレーネとリーシアの元に来る。
「こんにちは、フェリシアさん」
「こんにちは。お久しぶりです」
「……そうですね。お久しぶりです」
一瞬リーシアの思考が停止したのは、久しぶりという程かと考えてしまったからだった。セレーネが生まれてから、割と時間を気にする生活をしていたが、素材の採取などのためにダンジョンの奥に籠もる事が増え、時間感覚が元に戻り始めていたのだ。
「取り敢えず、服を脱ぎましょう」
「へ?」
唐突な事にフェリシアは、セレーネを確認する。フェリシアの視線を受けて、セレーネは頷く。
「服脱がないと処置出来ないから。今のフェリシアは、心臓に銀の杭が刺さったら死んじゃうの。だから、心臓に処置を施して銀が効かないようにするの」
「それ……真祖の弱点を消すって事なんじゃ……」
「そうですね。ですが、これで耐えられるのは、せいぜい三回まで。その後は再び施さないといけません。私独自の魔術的な事前措置になります」
「三回も……しかも独自……」
リーシアが凄い人だという事はセレーネの話から知っていたフェリシアだったが、まさかここまでとは思っていなかった。独自の方法で、外に出回っていないという事は、リーシアが独占している措置となる。リーシアがこれを公開しない理由も対策に対策をさせないためだ。
ベッドに腰を掛けて服を脱いだフェリシアの胸に、リーシアは刃物で切って血を出した指を付ける。すると、血がフェリシアの胸の上を這っていき、小さな魔術陣を形成する。その魔術陣は、フェリシアの胸の中に吸い込まれていった。
「はい。これで終わりです。服を着ていただいて結構ですよ」
「えっ? もう終わりですか?」
随分とあっさり終わった事に、フェリシアは驚いていた。
「はい。短い期間で何回もやる機会がありましたので、効率化が進みました。もし使ってしまった場合は言って下さい」
「はい。ありがとうございます」
フェリシアはそう言いながら服を着ていく。その間に、リーシアはセレーネの方と向き合う。
「セレーネは封印の方を更新しましょうか」
「は~い」
ベッドに座ったまま、セレーネはリーシアに手を出す。封印の紋様に触れたリーシアは、封印の更新を始めた。
「また魔力が増えていますね。成長も順調のようですね」
「えっへん!」
「使える魔力が増えるからといって油断しないようにしてください」
「は~い」
そんな話の間に、封印の更新も終わる。セレーネがいることによって、リーシアのこうした作業の効率化も大きく進んでいた。
「さて、今日は封印の更新などの他にも用があって来たのです」
「用?」
セレーネが首を傾げると、リーシアはミーシャに目配せした。すると、ミーシャが鞄の中から明らかに鞄の容量よりも多くの魔物由来の素材を出していった。かなり希少な素材もあるのだが、セレーネはそれよりも別の事が気になっていた。
「ミ、ミーシャちゃん! その鞄どうなってるの!?」
「鞄ですか? 空間魔術の【空間拡張】というもので拡張しています。特に広めてはいないので、個人の魔術というところでしょうか」
「魔術陣見せて!」
「良いですよ」
セレーネがミーシャの出す魔術陣に食いついているのを見ながら、リーシアはカノンの元に来た。
「何かあったのですか?」
「お嬢様が研究していらっしゃる分野が空間魔術に関してなのです。それもちょうどミーシャ様がお持ちのような荷物入れの魔術なのです。違うのは、ミーシャ様のように鞄の中身を広くするのではなく、全くの別空間に荷物を保管するというものですが」
「なるほど……中々に難しい魔術を考えていますね」
「難航していますが、つい最近空間と空間を繋げる魔術の開発に成功したところです」
「それは面白いですね。ですが、下手をすれば、犯罪に利用される可能性が高くもなりますか……」
リーシアは、すぐに【空間接続】の悪用法に気付いた。
「そのため使用して良いのは屋敷の中でのみとなっています」
「それが良いでしょう。論文自体は書いたのですか?」
「はい。現在ミルズ先生が管理しております。信用出来る方なので心配はないかと」
「なるほど。それなら良いのですが」
リーシアとカノンが話している間も、セレーネはジッとミーシャが作った魔術陣を確認していた。
「これが作用して……この繋がりで強調……循環か……ここで永遠に循環するから、空間が広がるのか……増幅も付いてる。魔力は無限に回り続ける。でも、これだと消費が……あれ? これは? 見た事ないよ?」
「こちらは魔力を周囲から集める魔術です。大気中にも大なり小なりある魔力を集め魔術陣に流す事で供給としている訳です。この魔術自体の維持も、自分で賄えるので魔術道具などに使用する事がよくありますね」
「ふ~ん……これは要らないかな。これを抜き取った形にするのは出来そう……でも、肝心の拡張する空間が……拡張……う~ん……」
悩むセレーネにミーシャは、助け船を出そうかと考えていると、セレーネの後ろの方にいるリーシアが唇に人差し指を当てている事に気付いた。
(セレーネ様自身で考えて貰うという訳ですか……若干、厳しすぎる気もしますが、セレーネ様の成長を期待されているのでしょう)
ミーシャは、リーシアの指示に従い何も言わなかった。
そんな二人のやり取りに気付かないまま、セレーネは【空間拡張】の魔術陣を見続けて、ぶつぶつと思考を続けていった。




