中間報告
翌日。久しぶりにカノンを連れて、セレーネ達は学園へと登校していた。二人減って寂しい教室もカノンは初めて見る。一瞬だけ尻尾が揺れたのをセレーネは見逃さなかった。セレーネがさりげなくカノンの手を掴むと、カノンは安心させるように微笑む。
「どうしましたか?」
「ううん。カノンと手を繋ぎたかっただけ」
「そうでしたか」
カノンはセレーネの頭を撫でる。自分を気遣ってくれている事をカノンも分かっている。だが、それを口にすれば、セレーネ達も気にしてしまうだろうと考えているため、カノンも口にはしない。
カノンが大丈夫そうだと分かると、セレーネはカノンと繋いでいた手を放して、自分の席に座った。フェリシアも自分の席に座る。
「思えば、ここにいる全員同じ場所に住んでいるのよね」
フェリシアは全員が同じ屋敷からここまで来た事に気付いてそう言った。そう言われて、セレーネもその事実に気付いた。
「確かに……学園に来る理由が先生の魔術授業しかない……」
「セレーネにとっては、一番重要じゃない」
「まぁね。フェリシアも魔術の授業が大事でしょ?」
「そうね。魔術のアカデミーに行くつもりだから、どうしてもそこを優先したくなるわね。カノンさんの通常授業もそろそろ三年の範囲を終えそうだし。そういえば、三年の範囲を終えたら、通常授業はどうするのかしら?」
フェリシアはカノンの方を見て訊く。
「特に何かが決まっている訳ではありませんが、応用系や少々踏み込んだ内容をやろうかと思っています。必ずしも必要な知識ではありませんが、その分野の道に進めば学ぶようなものです」
「カノンさんは、それも修めているの?」
「いえ、お恥ずかしながら、亜人学のみです。なので、時間を見つけて勉強をしている最中です」
そう聞いて、フェリシアに疑問が過ぎる。カノンは、ほぼ四六時中セレーネの世話をしている。そのため、見つかる時間がないのではと思ったのだ。
「カノンさんは、寝る前に勉強をしているんです。最近はフェリシア様がお嬢様と一緒に寝ていらっしゃるので、勉強をする時間は見つけやすくなっているんです」
マリアが、フェリシアが感じた疑問の答えを教えてくれる。
フェリシアが屋敷で同棲する事になったので、セレーネは、カノンやマリアではなくフェリシアと一緒に寝るようになった。カノン離れマリア離れが来たのではなく、寝る時はフェリシアと一緒というのが、セレーネの中で決まった事だった。
その証拠に普段の生活ではフェリシアばかりではなく、カノンやマリアに甘える事が多い。クロとは遊び仲間という認識だ。
「なるほど。私達のために悪いわね」
「いえ、お嬢様とフェリシア様のためだけではないです。私のためにもなる事なので、自分から進んでやっているというだけですよ」
「カノンさんは、天才というよりも努力家なのね」
フェリシアは、カノンの知識の深さが努力の成果という事に気付き感心していた。そんな話をしている間に、予鈴が鳴って授業が始まる。時間が経っていても、カノンの授業の速度と分かりやすさは維持されており、セレーネとフェリシアは、板書を書き写しながら、カノンの話に耳を傾ける。
大分授業が進んでいる事もあり、カノンの授業は途中で寄り道などもするようになった。その寄り道は、同じ教科の内容だけではなく、他にも様々な教科への繋がりが分かるようなものだった。
学んだ事が他の場所でも利用出来る事。それをしっかりと学ばせるための授業になっている。こうして繋がりを見つける力を養う事で、研究において利用する事が出来る手段が増えていく。そういった柔軟な発想を養うという意味も込められている。
授業をこなし、食堂で昼食を摂り、レイアーの授業で魔術の技術を磨き、体育で体力を付けて、放課後に研究室で中間報告をする。
フェリシアの中間レポートを読んだミルズは、面白そうに笑う。
「結界に流動性を持たせるか。面白い発想だね。確かに体内にある内臓を保護するという考えであれば、内臓の形に変化出来る方が良いだろう。これをシフォンが考えていたわけかい。惜しい人物を亡くしたよ。このまま進めていきな。フェリシアなら完成させられるはずだ」
「はい」
シフォンの研究の引き継ぎを上手く進められている事に、フェリシアはひとまず安堵した。シフォンのレポートを読んで理解した内容を、自分なりに進めていたので、ちゃんと出来ているか、少し心配だったのだ。
続いて、セレーネの中間レポートを読み始めたミルズは、眉間に皺を寄せながら読んでいく。
「おいおい……何だ、これは? 理論上間違っていないは分かるが……使ってみろ」
そう言われて、セレーネは【空間接続】を使って、離れた本棚にある本を手に取る。その際、間にある空間を経ていない事が視覚的に分かり、ミルズは眉間を揉み始める。
「なるほどな……研究発表はさせられん。これの対抗策が出来るまではな。それまでは、私預かりにしておく。全く研究過程でとんでもないものを開発してくれたな」
「えっへん!」
「褒めてやりたいところだが、厄介な事この上ないぞ。人体の移動も可能なんだな?」
「うん。距離が伸びると魔力の消費がドッと増えるよ」
レポートに書いてある内容と一致するので、ミルズは頷く。
「なら、容易に仕えるものじゃないな。だが、問題はそこじゃない」
「犯罪に使えちゃう事でしょ?」
「分かっているな。カノンとマリアがいれば、そこら辺はしっかりするか。取り敢えず、これはこれで一つのレポートとして仕上げろ。中間レポートじゃなくてな。これで一つの論文になる。空間魔術に関する未発表の論文を持っているという風にしておく。発表するタイミングが出来たところで、連絡するようにする」
「は~い」
セレーネが素直な返事をしている間に、レイアーも二人のレポートを読んでいた。フェリシアのレポートには満足げに頷いたが、セレーネのレポートは苦笑していた。
「どう思う?」
「フェリシア様は、しっかりとシフォンさんの研究を引き継ぎつつ、綺麗に進められています。セレーネ様は……本筋とはズレてしまっていますが、着実に近づいてはいるかと。過程でとんでもないものを開発されましたが」
「概ね同意見だ。一年にして、ここまでの成果を出せるのは、大分珍しい。この調子で励め。特にフェリシアは、実践の報告が欲しい。内臓に使えとは言わないが、実際に使って耐久性などの検証を続けていけ。実用に足る耐久性を得るための魔力量と維持時間だな」
「はい」
「セレーネは、これを論文として纏めつつ、本来の研究の方の道を探っていけ。そっちに関しては、何とも言えん。こっちでも別空間に関するものを探ってはいるが、眉唾ものが多いからな。その書籍は持ってきておいた。読んだ事のないものがあれば持っていけ」
「は~い」
こうして中間報告が終わる。報告の内容としては、ミルズも満足出来るものだった。高等部一年生の内に、ここまでの成果を出せていれば、卒業までに形に出来る可能性は高く、別の研究をする事も視野に入れられるからだ。
こうして、本格的にセレーネ達の高等部一年二学期が始まった。




