調査の終わり
三十層に辿り着いたカノン達は、層の全体を調べて何も異常がない事を確認した。
「ダンジョンコアの確認はどうするんだ?」
「さすがに、ここのボスがいる以上、この先にはいないでしょ」
「でも、ダンジョンコアの部屋に何か細工されていたら?」
ナタリアの言葉に、スピカがそう反論する。そう言われると、ナタリアは固まって考え込み始める。
「確かに……ダンジョンに長く留まっている馬鹿達だし、私達が知らない方法で細工をしている可能性も否定出来ないか……仕方ない。ちゃちゃっとやっつけちゃおう」
「ここのボスって?」
念のため、カノンは詳しい情報を聞くことにした。
「大斧を持っているミノタウロスだな。剣による攻撃は効きにくい。加えて、魔術への耐性もそこそこ高い」
「正攻法は?」
「剣などで皮膚を傷付け、魔術で傷を狙う。剣による攻撃は効きにくいだけで、効かない訳じゃないからな。そして、身体の内側は、魔術に対する耐性はない。内側に届かせれば良い」
「じゃあ、私が短剣を突き刺すから、そこに魔術を放って。雷魔術なら、内側まで通るでしょ?」
「まぁ、そうだけど、突き刺せるの?」
ナタリアの疑問は最もだった。ミノタウロスの皮膚は、かなり頑丈で刃が通りにくい。だからこそ、剣への耐性が高くなっているのだ。それをいとも簡単に出来ると言わんばかりにカノンが言うのだから、確認をしたくなる。
「私は眷属だから、魔力が多いでしょ? そこに獣人としての特性を付け加えれば、何とかなると思う」
「身体強化で突き破るって事ね。それなら可能性自体はあるかも。オッケー。それでいこう。ベネットはスピカの盾になって。スピカは、回復だけに専念。カノンは突き刺したら、即座にベネットの後ろに隠れる事。良い?」
ナタリアの確認に、カノン達が頷く。そして、そのままミノタウロスがいる大広間に向かっていった。ミノタウロスは、大斧を持ってその場に立っている。ダンジョンが作り出したコアの守り手。その存在は、倒しても定期的に復活する。
短剣を構えたカノンは、足に魔力を集中させて、一気にミノタウロスに突っ込む。突然目の前に現れたカノンにミノタウロスは即座に反応するが、魔力を腕に込めたカノンの方が速い。
渾身の力を込めた一撃は、ミノタウロスの身体に突き立った。
『ブモッ!?』
ミノタウロスも自分の身体に刃が通った事に対して驚く。
カノンは、足に魔力を込めて、即座に後ろに跳ぶ。ミノタウロスの追撃に備えて、ミノタウロスから視線は外さない。すると、カノンの身体をスピカが受け止め、その前にベネットが立つ。その直後に、ナタリアが雷魔術【轟雷】を放つ。身体が震えるような轟音が響き渡る。聴力の良いカノンの耳が壊れないようにスピカはカノンの猫耳を押えていた。カノンも人由来の方の耳を抑える。
【轟雷】は、吸い込まれるようにカノンの短剣に向かって行き、その短剣の刃を通じてミノタウロスの身体を内側から焼いていった。
『ブモオオオオオオオ!!』
【轟雷】の轟音に負けないくらいに、ミノタウロスの叫び声が響き渡る。ミノタウロスの身体が大きく痙攣して肉の焼ける音が充満する。目が真っ白に濁ったミノタウロスは、その場に倒れて、角を残しダンジョンに吸収されていった。カノンの短剣は、完全に使い物にならないくらい黒焦げとなり、ミノタウロスと一緒に飲まれている。
「あっ……カノン、ごめん」
「いいよ。あれが効率の良い方法だっただろうし。それに、ミノタウロスに突き刺した辞典で、刀身が曲がったような感覚もしたからね。回収出来ても使い物になっていたか分からないよ」
カノンがミノタウロスを突き刺した瞬間に感じたのは、大きな巨木だった。密度の高い木に短剣を根元まで突き刺すような抵抗感があったのだ。その抵抗感を無視して根元まで短剣を突き刺したカノンの腕力も相当なものだが。
「まぁ、この角で新しい短剣を作りゃ良いだろ。宝箱の中身と違って、このくらいなら持って帰る事が出来るしな」
カノン達は、ダンジョンの宝物を回収するために来ている訳じゃなかったので、大荷物を抱えられる準備をしていなかった。なので、ダンジョン内で発見した宝箱は、基本的に無視していた。セレーネへのお土産に少しくらい準備をしておけば良かったと、カノンは後悔したくらいだ。
「角で短剣……お嬢様へのプレゼントには良いかな」
「いや、お前が使えよ」
ベネットの冷静なツッコミに、自然とカノン達は吹き出して笑っていた。
「ふぅ……それじゃあ、ダンジョンコアの周辺も調べてから帰ろうか。念のため、十四層より上も調べておきたいんだけど、皆は良い?」
「おう」
「うん」
「良いよ。その方が安心出来るし」
ベネット、スピカ、カノンがそれぞれ返事をする。ここまで調べて何も無かったが、それが上も同じとは限らない。そこを見落として、セレーネに被害が及べば、カノンも後悔が残る事になるので、最大限調べておく事に賛成なのだ。
ダンジョンコアのある部屋には、結局何も隠されていなかった。カノンの感覚でも何度も調べたが、何も違和感はなかったのだ。
「ここまで調べた事を総括すると、十五層以降に組織の手は加わっていない。あくまで、十五層が根城だっただけの可能性が高いと」
「これに十四層から上の調査結果を合せれば、ダンジョン内の調査は終わりだね」
カノンの確認に、ナタリアは頷く。
「うん。それで私達の仕事は終わり」
「んじゃあ、さっさと終わらせようぜ」
「だね」
カノン達は、元来た道を引き返していく。ダンジョンコアを破壊すれば、自動的に自分達を外に転移させる事が出来るが、ダンジョンから得られる資源のために壊す訳にはいかない。なので、ダンジョンから出るには、またダンジョンを上がっていくしかないのだ。
帰るまでがダンジョン攻略という言葉が、冒険者達の教訓として伝わっている。
ここからカノン達は休憩無しでダンジョンの調査を進めていった。カノンの索敵能力と聴覚による調査、ナタリアの効率化により、ダンジョン調査は想定よりも遙かに早く終わった。結局ダンジョンに籠もっていた時間は、一週間と少しだった。
その後、カノン達は、近くの街に戻り、三日程滞在してから帰るという予定になった。すぐに帰りたいところだが、まだ魔動列車の運行は再開していない。馬を使った長距離移動も帰り道では使えない。その準備がないからだ。
なので、ダンジョン調査によって疲れた身体を癒しつつ、調査結果を纏める時間として三日使うという話になった。因みに、ベネットだけは騎士団の特権として馬での帰路に着いていた。簡易的な報告も含めて、仕事の内という話だ。カノン達は調査の仕事に加えて、結果を纏めてから提出するのが仕事である。
なので、ここで別れるのは仕方のない事だった。ベネットとしては、少しくらい休憩したいところだったが、任務のため馬を走らせて行った。




