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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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調査中の休憩

 カノン達は、順調にダンジョンの中を調べていた。一層一層丁寧に調べているので、十五層までも駆け抜けた時よりも時間が掛かっている。ダンジョンに潜ってから、三日が経っていた。現在の階層は二十五層目である。


「そろそろ休憩を挟もうぜ。さすがに、効率が落ちて来てんだろ」


 三日も休まずにカノンの耳だけでなく目視での確認もしていれば、疲れて効率も落ちていく。カノンの様子などから、それを察したベネットからの進言だった。因みに、ベネットはまだ余裕がある。その事にカノン達も気付いているため、ベネットに対しては「化物め」と全員同じ胸中だった。


「そうね。それじゃあ、二人交代で三時間の休憩にしよう。ここの奥に小部屋があるみたいだから、そこに移動して休憩ね。私とベネット。カノンとスピカで交代しよう。先に私達が休むから、二人は後でね」

「分かった」

「うん」


 カノン達はダンジョンの奥まった場所にある小部屋に移動して、休憩を取る。寝袋などは用意していないので、地面にそのまま寝転がる事になる。カノンは自分の荷物を枕にしつつ、スピカに自分の腕を貸して眠った。疲れが出ているスピカも、カノンの腕枕で眠る。

 その様子をナタリアは横目で見ていた。


「羨ましいのか?」


 いつでも動けるように盾を手に持ったままのベネットがナタリアに訊く。それに対して、ため息をつきながらナタリアは答える。


「そりゃあね。好きな子が他の女の子に腕枕をしていたら、羨ましいと思うに決まってるでしょ。ましてや、恋のライバルみたいな存在なのに」

「お前は分かり易いが、スピカは分かりにくいからな。それでもああなれば分かるが」

「まぁ、そんな私達も敵わない存在がいるみたいだけどね」

「ああ、嬢ちゃんか」


 ベネットは、即座にセレーネの事だと気付いた。カノンが好意を寄せている相手など、他に思い付きもしないからだ。セレーネのために、カノンはベネットを動かし、ナタリアに頼んだ。それを考えるだけで、カノンがセレーネを大事にしているという事が分かる。


「嬢ちゃんと過ごしている時間は、お前達よりも濃厚だろうからな」

「専属メイドで朝から晩まで世話をしているわけだからね。そりゃ、愛情も芽生えるでしょ。でも、それは恋愛という意味でのものじゃないと思ったんだけどねぇ」

「それだけの魅力が嬢ちゃんにあるわけか。まぁ、旅行中に一人で安全確保のために奔走するくらいだからな。愛しているというのは間違いないだろうな。俺達と十は歳が違うけどな」

「恋と愛に年齢なんて関係ないわよ」

「お前達長命種からしたらそうかもな」


 永い時を生きるエルフなどの種族は、恋愛において年齢を気にすることはない。自分達と違う種族、特に人族との恋愛になれば、自分達よりも遙か年下になる事がほぼ当たり前だからだ。


「今のカノンなら同じ感覚になってもおかしくはないかもね」

「ん? どういう意味だ?」

「え? あっ……」


 ナタリアは、自分の口に手を当ててやらかした事に気付いた。ベネットは、セレーネが真祖でカノンが眷属である事を知らない。なので、ナタリアの言葉に引っ掛かりを覚えたのだ。そして、その事にナタリアも気付いた。


「あ~……色々あるの」

「…………ああ、嬢ちゃんは吸血鬼族の真祖か?」

「…………まぁ、そうね」


 ベネットもただの馬鹿ではないので、そこで察しが付いていた。長命種ではない猫人族がエルフと同じ感覚になるという事は、後天的に長命種になったという事。そうなれば一つしか思い付かないので、辿り着くのも無理は無い。だが、そこに辿り着いた一番の理由は、カノンに勉強を教えてもらっていた時に聞いた事が頭に残っていたからだった。


(やらかした~!! カノンに怒られる!)


 口を滑らせたナタリアは、内心でかなり焦っていた。口が軽いと思われれば、カノンと接する機会が減るかもしれないと思っていたからだ。


「黙っていたって事は、何かしらの理由があんだろ? 周りには言わねぇよ」


 ベネットは、ナタリアの内心を見透かしたようにそう言った。ベネットとしても、カノンとセレーネを困らせようとは思わないので、言いふらそうとは思わなかった。そんなベネットに安心したようにナタリアは息を吐いた。


「それはどうも。本当に戦闘狂じゃなければ、良いところがあるのにね」

「失礼な奴だな。カノンには言っておけよ?」

「ああ~、うん」


 自分のやらかしなので、黙っておきたいという気持ちがあったが、カノンには誠実でいたいという考えもあるので、素直に頷いていた。

 そうして、四時間が経った後に二人を起こした。一時間多く寝させていたのは、二人なりの気遣いだった。


「あっ、カノン。ごめん。うっかりベネットにバレちゃった……」

「え? ああ、うん。分かった。ベネット、絶対に誰にも言わないでよ? それとライル様には報告しておいて。今後何かあったときに頼るだろうから」

「おう。見張りは頼んだ」

「うん」


 ナタリアとベネットはカノンとスピカよりも離れて眠った。カノンとスピカは、小部屋の入口で座って見張りをする。土魔術で背もたれを作っているので、比較的リラックス出来るようになっていた。それでも、カノンの耳は小刻みに動いて周囲の音を探って索敵しているが。スピカは足を抱えながら、カノンを見る。


「カノンは、魔力も増えたの?」


 話はスピカから振られた。


「うん。魔術を普通に使えるくらいにはね。おかげで、お嬢様を守る手段が増えたかな。専属メイドとしても眷属としてもお嬢様を守るのが使命だから」

「セレーネちゃんは愛されてるね。カノンの想い人はセレーネちゃんか」

「愛は捧げているかな」

「そっか。じゃあ、私の愛はカノンに捧げるね」


 スピカは、目を細めて笑いながらそう言った。スピカの本気の気持ち等が込められた視線は、カノンもすぐに気付く。


「えっと……」

「無理に答える必要ないよ。私が一方的に愛を捧げるだけだから。迷惑だったら言ってね」

「迷惑だなんて……」

「そういう優しいところが好きだよ」


 そう言われて、カノンは少しだけ顔を赤くする。セレーネが好きという事に変わりはないが、同時にスピカへの想いも生まれ始めている事を自覚する。

 深い愛情を少し向けられただけで、そんな風になってしまう自分をカノンは少しだけ恥ずかしいと思った。

 少し恥ずかしそうにしているカノンを、スピカは可愛いと思いながら見ていた。

 それからカノンとスピカは、少しずつ普段通りの会話に戻って行きつつ、見張りを続けていった。こちらに向かってくる魔物は、全てカノンが先行して倒していった。そうして、ナタリア達の三時間休憩も終わり、再びダンジョン調査へと向かう。

 カノンとスピカの関係は、大して変わらず連携にも影響せずに調査を続けられていた。

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