騎士団に加勢
十四層目に来たカノン達は、カノンが先導して騎士団達の元に向かう。そこでは魔物達に交ざって、敵組織のメンバーらしき者達が騎士団を襲っていた。魔物の群れが多く、不意打ちを喰らったようで、騎士団も大きく損耗していた。
ここにいる魔物のほとんどはゴブリン達。基本的には弱い分類の魔物だが、それも何十体もいれば脅威になり得る。
「ベネット!」
「おうよ!」
ナタリアに名前を呼ばれただけで、自分のやるべき事を察したベネットは、盾を構えたまま突っ込んで、ゴブリン達を轢きながら、敵組織のメンバーの一人に向かってタックルする。
「うがぁ!?」
吹っ飛ばされた敵組織のメンバーは、そのままその奥にいたメンバーの一人と衝突する。そこに、ナタリアが放った氷の槍が飛んでいき、串刺しにした。
その中で、カノンはスピカをお姫様抱っこして騎士団の後方に運んだ。そこに運ばれてくる怪我人達を治すためだ。
「スピカの護衛をお願いします」
「あ、ああ」
騎士団にスピカを任せたカノンは、来た道を引き返す。そんなカノンを見送らずに、スピカも自分の仕事に移っていた。互いに自分のやるべき事を分かっているため、それを優先する。例え、スピカがカノンに特別な声を掛けたいと思っていても、そのせいで助かる命が助からないという事が起こらないように、目の前の事に集中するのだ。
カノンは、ダンジョンの壁を蹴って、騎士団達の頭上を通り過ぎると、乱戦状況にある場所に向かって、短剣を引き抜き、ゴブリン達の首を斬っていった。
自分の敏捷性を活かした不意打ち。これによって、ゴブリンの数が減っていく。その間に、ベネットが騎士団と敵組織の間に入り、態勢を整えさせる。
「カノン! 下がれ!」
ベネットの声に従い、カノンは即座にベネットの後ろに退く。カノンが乱戦の現場を荒らしたおかげで、その場にいた騎士達がベネットの元に集う事が出来たのだ。
カノンが退いたのと同時にナタリアがベネットの後ろから風魔術【烈風鎌鼬】を放つ。【烈風鎌鼬】は、猛烈な風の中に大量の風の刃が含まれた広範囲攻撃用魔術だ。乱戦の場では使えないが、戦場が整理されて味方がいなくなれば使える。
さらに、今のような閉鎖型のダンジョンなどでは、風が通路の全体を占めるため、効力が一気に上がる。現在は騎士団しかこの場にいないので、平然と使える。普段であれば、他にも冒険者がいる可能性があるので使えない。
このように、使える時が限られている戦闘魔術だった。
【烈風鎌鼬】は、ゴブリン達と一緒に敵組織のメンバー達を斬り刻んでいった。ゴブリン達と一緒に敵組織のメンバー達もダンジョンへと吸収されていった。これを利用した殺人もあるくらいには、恐ろしいダンジョンの仕組みだった。
戦闘終わり直後、カノンは周囲の音を聞き取って、他に敵が居ないかを確認する。
「魔物の音しかしない」
「オッケー。取り敢えず、この下に五十人くらい眠らせているんで、回収をお願いします。私達は、一旦下の階層も調べてみます。今みたいに、十五層以外にも潜んでいるかもしれないので」
「分かりました。よろしくお願いします」
ナタリアは、騎士団と一緒に十五層まで移動した後、カノン達を連れて十六層へと向かう階段の前に来ていた。
「というわけで、このダンジョンを完全攻略しようと思うから、よろしくね」
「聞いてねぇ」
「今言った。この状況になった以上、上だけじゃなくて下も考えた方が良いからね。予定よりも早く済みそうだったけど、ごめんね」
ナタリアはカノンに謝る。カノンの仕事を知っているからこその謝罪だ。予定よりも早く帰る事が出来るのなら、それに越した事はない。だが、ここを完全攻略するとなれば、話は変わってくる。予定よりも長引く可能性もゼロではない。
「大丈夫。私も事件の黒幕を突き止めたいから」
「よし。じゃあ、行こう」
カノン達は、ダンジョンの奥深くへと向かって行く。これはただの攻略ではない。このダンジョンに棲み着く邪悪を滅ぼすための攻略だ。
────────────────────
カノン達が戦っている頃、クリムソン家別邸セレーネとフェリシアの居室では、ベッドの上でフェリシアの膝に頭を乗せていたセレーネが、バッと頭を上げる。
「セレーネ?」
膝枕をしながら本を読んでいたフェリシアは、セレーネの突然の行動に首を傾げていた。セレーネは頬を膨らませながらフェリシアの膝に戻って顔をお腹にくっつけた。
「カノンが怪我した」
セレーネは、カノンが手首を斬り落とされた事に気付いた。本当に僅かな感覚だったので、眷属同士の繋がりであるフェリシアには分からなかった。
「まぁ、戦闘もあるだろうし、怪我をしてもおかしくはないわよ」
「無理してるかも……」
「仲間を庇ったのかもしれないわよ。カノンさんがそういう人だって事は、私よりも知っているでしょ?」
「むぅ……」
フェリシアの言うとおりなので、セレーネもそれ以上は何も言えなかった。完全に言い負かされてしまったからなのか、セレーネはフェリシアの膝から頭を退かして、その膝の上に対面になるように座り、フェリシアに抱きついた。
その状態でも本を読めなくはないので、フェリシアはそのまま読書を続ける。そんなフェリシアの首にセレーネは静かに牙を突き立てた。
「んっ……ちょっと、セレーネ。血を吸いたいなら、そう言ってから吸いなさい」
「ん~」
セレーネは十秒程血を吸うと口を離して傷口を舐めて止血する。構ってくれないフェリシアに対しての抗議のようなものだったので、そこまで本格的に血を吸う気はなかった。
「全く……」
フェリシアは本を閉じて、ベッドに本を置いてからセレーネを抱きしめたまま後ろに倒れた。それに合わせて、セレーネはフェリシアにのし掛かる形になる。
「心配なのは分かるけど、もう少しカノンさんを信じてあげなさい。そこまでされていたら、信じていないって思われても仕方ないわよ」
「むぅ……信じてるもん」
「分かってるわよ。でも、そこまで過保護になる必要はないじゃない。セレーネだって、そこまでされていたら、思うところはあるでしょ?」
「ん~」
セレーネは、フェリシアの胸に顔を擦りつける。信じてないわけないのだが、それでも心配し過ぎてしまう。大丈夫だと思っていても、自分から離れているだけで不安になってしまうのだ。
「これを機に少しずつ慣れなさい。私だって、一時的に離れる事があるかもしれないじゃない。今のテレサ様と同じようにね」
「えぇ~」
セレーネは嫌そうな顔をしてフェリシアを見る。それを見て、フェリシアは、苦笑しながら頭を撫でる。
「別れるわけじゃないわよ。常に一緒にはいられないかもしれないというだけ。長い時を生きるのだから、そういう時もあるかもしれないわね」
「私、フェリシアに付いていく」
「それでセレーネのやりたい事が出来なくなったらどうするの。それに、必ずそうなるわけじゃないわ。可能性の話よ」
「ん~」
その話をした途端、セレーネはフェリシアにべったりとくっついた。
(これがセレーネの甘えん坊モードね。全く……可愛いんだから)
フェリシアは、微笑みながらセレーネの頭を撫でる。そうしながら、二人はカノンの帰りを待っていた。




