スムーズな捕縛
十五層まで降りたところで、カノン達は入口近くに隠れた。ナタリアとスピカで周囲の風景に自分達を溶け込ませているので、容易に発見する事は出来ない。ベネットは、いつでも動けるように構えている。
その中で、カノンは目を閉じて、自分の耳に集中していた。この階層から聞こえる音を拾いながら、その中で情報の取捨選択をしていく。セレーネを見守る上で身に着けた能力。それを十分に発揮していく。
「全部で五十人以上。人質らしきものはなし。武装は解いてる人が多い。会話の内容から仕事終わり。こちらの動きに気付いている様子もなし。ボス有り」
「オッケー。じゃあ、予定通り眠らせる方向で行くよ」
ナタリアの言葉に、カノン達は頷く。
索敵はカノンが出来るので、敵の居場所は把握出来ている。浮いた敵をナタリアが開発した意識封印魔術【無期睡眠】で深い眠りの底に閉じ込める。眠った対象は、ベネットが奥まった場所や布の下などに隠していく。
そうして、敵は数を減らしていく。カノンが仕事終わりと言ったように、浮かれている敵は酒などを飲んで油断していた。おかげで、大きく数を減らしても、敵は中々気付かなかった。
その数が十人に近づいたところで、ようやく気付き始めた。
「おい、何か数が減ってねぇか?」
「えぇ~、そうですかぁ? ま~だまだ沢山いるでしょう!」
「ちっ! 酔っ払いが。飲み過ぎなんだよ」
「うぃ~! かー……」
「寝やがった……ったく、ん……なん……だ……?」
数が減り、敵も塊から動かなくなっていたので、カノン達は大胆に行動していく。
「ああ!?」
仲間がどんどん寝ていく中で、そのボスは一人斧を担いで、宴会会場となっている部屋から飛び出した。その腹に、ベネットが拳を入れる。
「うごっ!?」
完全な不意打ちという事もあり、ボスは腹を抑えて蹲る。そこにナタリアが【無期睡眠】を掛けて眠らせた。
「呆気なかったね」
スピカは、周囲を見回しながらそう言う。ここまででカノンが気付いていた敵は全部眠らせた。ここまであっさりと進むとは考えていなかったのだ。
「そうだな。呆気なさすぎた。そこが逆に引っ掛かるな」
「この階層から人の話し声は聞こえない。私達が眠らせた奴等の寝息だけ。最初から寝息もいびきもなかったから、私達が眠らせる前に寝ていた奴もいないと思う」
「オッケー。それじゃあ、私達の方でも軽く資料を探しておこう。ここら辺全体を根城にしているというよりも一部を占領している形だったから、重要なのは行き止まりら辺に集めていると思う。この宴会会場にも何か残っているかもね。カノンとスピカで眠らせた奴等を集めつつ、見張りをお願い。ベネットは私の護衛をしながら探して」
「分かった」
「うん」
「おう」
役割分担をして、敵と資料を集めていく。その中で、カノンが十四層に繋がる道の方を見る。その様子にスピカもすぐに気が付いた。
「敵?」
「うん。多分、ここにいた中で一番強い」
「ボス?」
「ううん。さっきの会話から、ベネットが殴った奴がボスだった。ボスが一番強いとは限らないでしょ?」
「だね。合流しよう」
カノンとスピカは素早く動き、ナタリアとベネット元に向かう。しかし、それに合せたかのように敵も動いていた。カノン達の元に真っ直ぐ突っ込んで来た敵は、筋骨隆々の熊人族の男だった。鎧に身を包んだ男は、大きな大剣を持っていた。熊人族の男が持つと、大剣は適切な大きさに見える。
「よくも!」
既に仲間がやられた事を察した熊人族の男は、スピカに向かって大剣を振う。即座に避けようとしたスピカをカノンが突き飛ばす事で、確実に避けさせる。その結果、スピカは大きく距離を取る事が出来たが、カノンの左手首から先が斬り落とされた。
「カノンっ!?」
手首を落とされたカノンにスピカが悲鳴のような声を上げる。
「大丈夫!」
カノンはそう言いながら、右手で短剣を抜いて熊人族の男に突っ込む。熊人族の男が大剣を横に振うので、カノンは姿勢を低くして背後に抜ける。そして、背後から鎧の隙間に短剣を突き刺す。
「ぐおぅ……」
深々と刺さったので、熊人族の男が低く呻く。カノンは短剣を手放して、その場で跳上がり、熊人族の男の側頭部蹴りを入れる。頭が揺れる熊人族の男の目を猛烈な光が焼く。
「うおおおおおおおお!!」
熊人族の男の叫びが響き渡る。頭を揺らされ視界を持っていかれた熊人族の男は、平衡感覚を維持出来ずに倒れた。
「『永久の花・誘う眠り・目覚めの陽射しは我なり』」
スピカが詠唱して【無期睡眠】を掛ける。倒れている熊人族の男は避ける事も出来ずに意識を夢の中に飛ばした。刺された痛みに焼かれた目などを考えると、夢の中にいた方が良かったのかもしれない。
熊人族の男を眠らせたスピカは、すぐにカノンに駆け寄る。
「カノン! 手!」
「大丈夫」
カノンは、斬り落とされた左手を拾って手首に付ける。すると、すぐに再生が始まって手がくっついた。その際、不純物などが皮膚から外に弾き出されている。その姿を見て、スピカは唖然としていた。
「私、真祖の眷属なの。だから、このくらいなら再生でどうにか出来る。あまり広めないでね」
「え、う、うん……」
スピカは頷きながら、カノンの傍に来て、その左手を触る。しっかりと繋がっており、どこも異常がないことが分かる。
「本当なんだ……」
「うん。お嬢様に怒られるから、本当はこういう風に戦っちゃいけないんだけどね。スピカの安全を優先しなきゃだから」
「そっか。ありがとう」
自分を優先してくれた事を嬉しく思うスピカ。胸の奥がどくんと跳ねるのが分かった。自分がカノンに恋をしているという事を改めて実感する。
そこにベネットとナタリアが合流する。二人とも戦闘音を聞いて飛んで来たのだ。
「おい! 大丈夫か!?」
「うん。敵の生き残りが上から来たみたい。他に同じような音はしないから、こいつだけだと思う」
「それ生きてるの?」
「あっ!」
カノンを優先して熊人族の男の治療をしていなかったスピカは、慌てて治療する。ただし、焼いた目は戻さない。仮に目を覚ましても、すぐに行動出来なくさせるためだ。
「取り敢えず、無事で良かった。こっちも資料は集めておいたから、騎士団達に回収させよう。敵が油断していて良かったよ」
ナタリアは任務が終わった事で、身体を伸ばしていた。その時にカノンが耳を揺らす。それに気付いたナタリアは、真っ直ぐカノンを見る。
「カノン?」
「まだ終わりじゃない。上で人同士が戦ってる。騎士団達と敵の一部が鉢合わせたみたい」
「ったく、何人いやがんだ」
「すぐに合流しよう。スピカは大丈夫?」
「うん。問題ないよ」
「よっしゃ! ここからは戦って良いんだよな?」
「うん。捕縛は十分。全滅させよう」
カノン達は上層で戦闘している騎士団の援護に向かう。




